こうなることは、分かっていました。

こうなることは、分かっていました。

　私はすべてを知っています。知っているというより、分かるのです。

　この問題の答えは何だろうと考えると、いや、思った瞬間に、答えAだと分かってしまいます。あらゆる「答え」が、考える前に頭の中に浮かぶのです。

　母親の話す言語が日本語であることも、虹がどうして7色なのかも、どうしてクラスメイトが私を虐めるのかも、すべて分かっています。

　もう少し言うと、私が生まれる前に何だったかも、誰かが先程から私の思考を覗いていることも、誰かの手によってそれを操作されていることも、分かっています。

　もちろん、誰にも言いません。言ったところで誰も信じませんし、私を気味悪がります。母は、言わないほうがいいこともあると言っていました。だから、すべて心の中に留めています。何もかも知っているはずなのに、私は無力です。

　今日も暇なので色々な事を考えてみます。考えようとしても一瞬で終わってしまうので、何だか退屈ではあります。考えるのは、今日の晩御飯は何か、とか、今の地球はどうなっているのか、とかです。

「あ」

　すると、頭の中に物騒な事実が浮かんできました。

　たった今、お隣の国が核兵器を発射したそうです。正確には、大統領があのボタンをポチッと押したということでしょうか。

　そういえば、この間も彼が核兵器を使うと他国を脅しているのを見ました。まだニュースでは誰も何も言っていないようなので、ちょっとだけ考えてみます。

　発射したのは最新型の核兵器ミサイルで、一発でアジアを沈没させられる力があるそうです。しかもすごく早く飛べるらしく、いつここに被害が来るのか考えたら、あと1分だと分かりました。60秒後のご近所には何もなくなっている、そんな未来が訪れると分かりました。

　これはちょっとまずいかもしれないので、もう少し考えてみます。

「私にできることは」

　…ありません。

「誰かに言ったら」

　パニックが巻き起こるだけです。しかも、ニュースの速報があと50秒後に入るので、その人たちに任せたほうが早く情報が伝わります。

「どうすれば」

　残り55秒をいつもどおり過ごすのが最善です。ミサイルが落ちても痛みはありませんし、その自覚すら出来ないことは分かりきっています。

「どうにか」

　なりませんし、出来ません。この問に貴方が望む「答え」を出すことは出来ません。

　窓の外を見上げると、今日も美しい青空が広がっています。この景色が見られるのはあと45秒、正確にはミサイルが空に姿を見せるまでの35秒です。

　1階から私を呼ぶ母の声が聞こえたので、部屋から出ます。今日のおやつは新作いちごチョコドーナツだそうです。

　こうなることは、分かっていました。