第8話 絶海包囲網
超音速で飛ぶメイドインアースのUFO、試作第十三号は二人を乗せて、朝焼けの海を渡る。レッドアラート、レッドアラート、レッドアラート。
「おい、ヤバくないか」
「そりゃヤバいですよ。敵のセンサー包囲網の内部に潜り込んでいるんですから」
敵、田井中にはいまいちしっくりこない。浮かぶ肉塊、UFO。それが敵だと教えられた。だけど実感が湧かなかった。そんなものが存在するだなんて。その中でも一際巨大な肉塊、通称『母艦』を叩くのが今回の任務だ。S県を包囲する小型の肉塊を放出するソイツを撃破し、包囲網に穴を開ける。言うだけなら簡単だが敵はこちらより高性能だという。
「こっちがF-14なら向こうは第五世代戦闘機です」
「いや……ごめん、わからん」
「インストーラーってなんだったんです!?」
「こうして操縦出来てるんだし……」
別に予備知識を詰め込むためのものではなかろう。田井中はそう結論づける。後部座席でフィルはムキーッとお怒り中だ。
「いいですか!? 敵戦闘機とのドッグファイトはレーザービームの撃ち合いになります! 一発でもロックされたらアウトだと思ってください!」
「肉がレーザーを撃つのか?」
「ええ、UFOですから」
そんな理屈が通っていいのかと、疑問に思う田井中は、しかし沈黙は金として黙っておいた。フィルは計器類を探りながら。
「これで、よし、と」
「レッドアラートが消えた」
「余計な情報はシャットアウトしました『母艦』との戦闘に備えましょう」
「了解!」
アフターバーナーを点火させる。加速する機体。
「『母艦』です!」
「ロックされた!?」
「落ち着いて! まだです! ですが気づかれた!」
「だったら――」
機首を上げる敵の上を取る。亜光速機動、
「無理です! 性能差が!」
「無理でもやらなきゃいけないんだろ!」
どうしてこんなところまで来てしまったのだろう。ただの田舎の少年である田井中零士は思う。フィル・エバートゥモローという少女と出会うまで、自分はただのちっぽけな少年だったのに、と。恋とスイカとナンパが目当ての小僧だったというのに。今、田井中は思い返す。一瞬の間に短い己の人生を振り返った。走馬灯か?
「いいや、違うね」
「タイナカ=サン?」
「これは未来へのフライトだ」
母艦にぶつかるようにして亜光速機動を取る。フィルは慌ててチャフをばら撒く。母艦と激突する事は無く、躱される。しかし、それでいい。
「俺達の、『前』に出たな」
「ッ! レーザー照射します!」
フィルが武装を展開する。赤色の光線が空気を焼きながら放たれる。どんな技術かホーミングレーザーが母艦を追尾する。赤色の軌跡はぐねぐねと曲がり弧を描いて世界を照らす。
「追加照射!!」
「りょ、了解!」
敵がホーミングレーザーを躱しきれないでいるうちに追撃を放つ、すると母艦はナニカを放出した。
「子機!?」
「気にするな!! 母艦に集中しろ!!」
母艦から放出された子機がホーミングレーザーによって次々に撃墜されていく。つまりこちら側の攻撃が防がれている。レーザーにも残弾がある。動力は無限じゃない。
「フィーチャーコブラだ……!」
「は?! なんですそれ!?」
機体を停止させる。空中で、そのままアフターバーナーという名付けられた謎のオーバーテクノロジーを
「廃部レーザー照射!!」
「了解!」
青色の太い光線が轟ッ!と勢いよく放たれた。それは母艦の中心を撃ち抜くと。そのまま焼き払った。
――ギロチンの刃は折れた――
『これは人類の新たな勝利の第一歩である。全人類に告ぐ、我々は包囲網を突破した!!』
草凪の調子のいい演説がこだまする。世界は変わる。朝日が機体を照らした。完全に登り切った太陽は、眩しかった。
「なぁ、フィル」
「はい」
「このまま、ずらかろうか」
「どこへ行くんです?」
「西海岸」
「いいですね」
二人は灯浜には戻らず、海の彼方へと飛び去った。まるで神話の再現だ、なんの神話かは知らないが。
――きっと恋をしていたんだ、気付かないフリをしていただけで。
――出会ったあの日から、幸せだけを願っていました。その人の。
完
UFOinTHEsky 亜未田久志 @abky-6102
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