第6話 断頭台で、夢の残骸。


 彼らはギロチンにかけられるのだという。ひどく哀れに思った神様は、彼らを救ってあげる事にした。彼らから痛みを感じなくさせた。これは慈悲である、と――嗚呼、それが救いだと言うのなら――この世界は狂っている。


 Xday Fil=EverTomorrow


 これは彼女がに残した詩である。


 俺はヘッドホンで耳を塞いだ。世界が終わるだなんて信じたくなかった。でもあいつら海からやって来た。恐怖した。恐慌した。絶望した。こんなものが――救いだと?――だとしたら、もうこの世界は腐っている。


 unknown田井中零士


 意識を戻すとそこはモニタールームだった。田井中は立ったまま寝ていたかのように、白昼夢を見ていた。その詩は確かに二人で書いていて――ありえない――だって今ここに二人立っている。


「結論を言おう、海自で出来る事は何もない」


 草凪がフィルの話を聞いて、答えを出した。フィルは不満げに言葉を返す。


「お土産を持って来たのに見返りも無しですか」

「見返りを求める方が悪い。さあ出てってくれ」

「私達の安全は」

「そんなもの自分でなんとかしろ」


 草凪はにべもなく言い放つ。田井中が割って入る。


「国民の平和を守るのが仕事だろ」

「ああ、だからアレは有効活用させてもらうよ。試作第十三号だっけか?」

「どうするつもりです」

「さあね、せいぜい、バラして研究させてもらうよ」

「いい加減にしろよあんた……!」


 田井中は自分に珍しく怒っている事を実感していた。それは本当に珍しいことで田井中母でも田井中父でも見た事が無いであろう姿だった。


「おいおいパンピー。お前は首突っ込んでいい立場にそもそもいないぞ」

「うるせぇ。フィルが困ってんだろうが」

「タイナカ=サン……どうしてそこまで」


 ――それは自分でもわからない。でもただ一つ。。そう思ったから。


「いいよ、分かったよ、交渉と行こうか。いいか? これは大盤振る舞いなんだぜ?」

「大人なら子供のわがままくらい聞いてくれなきゃ困る」

「ハッ! 違いない」


 どこか楽し気な草凪。田井中と対峙する。フィルは田井中の背に寄りそう。それがとてつもなく彼に力を与えた。どんな逆境だろうと超えていけると覚悟を決めさせた。


「今、S県はアンドロメダ銀河軍に包囲されている。日本はギリギリまで追い詰められている。だが我々、灯浜海上自衛隊は一つ、包囲の薄いところを見つけた」

「ちょ、ちょっと待ってください!? なんの話を――」

「いいから聞け。そこに居るのは敵の母艦が一隻だけ……そこを叩けば包囲に穴が開く。母艦の火力は絶大だが一機は一機だ。一対一ドッグファイトに持ち込めれば勝てる可能性はある」

「私にそれをやれと!?」

「いいや、やるのは田井中だ」

「はぁ!?」


 銀髪の少女は思わず頭を抱える。草凪に掴みかかろうとしたところを金髪の似合わない少年に止められる。


「分かった」

「た、タイナカ=サン!? あなたはただの一般人で――」

「フィルだって普通の女の子だ」

「――ッ! そんな理屈!」

「通すよ、通してみせる」


 フィルは――どうしてだろう――その言葉を信じてしまった。今の彼なら出来るのではないか、と。思ってしまった。だからそれ以上、追及できなくなってしまった。


「いい返事だ。お前ら米海軍――いや――国連だっけか? が外側ハードウェア更新アップデートしている間、我々、海自は内側ソフトウェアを開発していた」

「なんの話です……?」

脳内学習装置インストーラー、それを使って一晩であの試作第十三号の操縦方法を覚えてもらう。対Gスーツも用意しよう」

「――! あなたはその脳内学習装置の実験代にタイナカ=サンを利用しようと!」

「いいんだフィル。俺が決めた事だから」


 フィルは肩を落として、涙ぐむ。彼女はもう言葉ではこの少年は止まらない事を悟っていた。だから。


「じゃあせめて一緒に乗せてください。本来、試作第十三号は二人乗りです」

「いいだろう! 交渉成立だ!」


 ――ギロチンの刃が、落ちる音がした気がした――

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