第2話 ステルス戦闘機が超音速で飛ぶものか


 此処は何処か。その問いに答えるのは田井中零士にとって簡単な事であった。村山山山中むらやまさんさんちゅう。である。山が三つもあって読みづらいと評判の村山山むらやまさん山中さんちゅうである。村山さんとかよく言われるが此処、村山町に村山さんはいない。そう此処はS県村山町。日本である。はてさて田井中はどこから話したものかと思案する。地球、日本、S県、村山町。


「うーむ」

「タイナカ=サン?」

「んあ。ああ、日本だよ日本」

「知ってますよそんな事」

「ああ……S県だよ」

「知ってますよそんな事」

「ええ……村山町の山ん中だけど……?」

「む、村山町ですか、随分、内陸まで来てしまいました」

「あー、まあ無駄に広いもんなS県」


 海に面しているが陸地もそこそこで有名なS県。


「って事は海側から?」

「はい、無音海岸から」

「あんなとこから」

「はい、あんなとこから」


 無音海岸とは、文字通り、波音一つしない特殊構造の米海軍基地である。


「やっぱりステルス戦闘機じゃん」

「あのですね! ステルス戦闘機は超音速では飛ばねーですよ!」

「え、そうなの?」

「現代知識の偏りぃぃぃ」


 戦闘機ならなんでも音速超えで飛びそうなものだが、と田井中は思う。フィルはその綺麗な銀髪をぶんぶん振り回しながら、それを否定する。犬のしっぱのようだ。


「なんでもいいけどさぁ、もしかして脱走兵?」

「ちがっ! だからですね! 私は宇宙人だと――」

「ほう、それは重大な軍規違反だね、フィル・エバートゥモロー軍曹」

「うん?」

「あわわわわ、そのお声は!?」


 黒いスーツの男が立っていた。影から現れたかのように。どこまでもダークな佇まい。


「『フェンサー』と呼んだ方がいいかな?」

「その呼び名はダメー!!」

「んんん? で、どちら様でしょうか」

「これは失礼、ミスター田井中。私はマイケル・クリストフ。その子の上司にあたる。あたるのだが」

「だが?」

「その子が宇宙人だとしたら、そうではなくなる」


 一切合切状況が飲み込めない田井中は、フィルとマイケルの間に立ち、言い放った。


「胡散臭い話は他所でやれ!!」

「身も蓋もない!?」

「おやおや、これは手厳しい」


 マイケルはかぶりを振りながら、やれやれと肩を竦める。腕も中途半端に上げてやれやれのポーズだ。一方、田井中は憤慨している。あまりの話のうさん臭さに自分の自転車の在り処も忘れたままだ。


「無音海岸から来たステルス戦闘機だか、宇宙から来たUFOだか知らないが、この子が、なんか悪い事したんすか!」

「タイナカ=サン……!」

「ふむ、悪い事……悪い事ね、確かに何もしていない、かな」

「でしょうに」

「だがこれからしないとも限らない。なにしろ、宇宙人なのだから」

「あんたら宇宙人相手にも武力外交か」

「タイナカ=サン!? 外交問題発言はあなたのほうですよ!?」


 しかし、その一言がツボに入ったのか、げらげらとマイケルは笑う、腹を押さえて苦しそうだ。いや、どんだけ笑うんだ。


「はあ、ひい、これは失礼、宇宙人相手に武力外交、ね、ああそうだとも、これは向こうから仕掛けて来ただ」

「戦争~?」

「ああ、ミスター田井中。これは地球人対宇宙人の戦争だよ」

「じゃあなおさらこの子は渡せねぇ」

「なに?」


 田井中はフィルを背に庇う。マイケルに向かって吠える。


「戦争なんて馬鹿だけでやってろバーカ!!」


 そう言うと、さっきから低空をホバリングしている角ばった戦闘機もといUFOに村山山山中から飛び移った。ガードレールも整備されていない山道から、宙に浮かぶ黒い点にダイブした。がごん! と音を立てて着地というか二人は激突する。二人共、足をおさえて痛そうにしている。


「これは、ひどいコメディだ」


 そんなマイケルの声が遠くに聞こえる。フィルの誘導でコックピットらしきところから内部に乗り込む二人。そしてUFOはその場を飛び去った。


「こちらM、F‐1は飛び去った。繰り返すF‐1は飛び去った。なに? それが上の決定か? 正気なのか? はぁ、分かったよ。holy s●it」

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