喪失
気になる人ができた途端、「きょうだいはいらっしゃるのかしら」「どんな生い立ちなのでしょうか」と思うように、「もっとあの人のことを知りたい」という気持ちが湧くことはよくあることです。でも、それらの疑問の答えを知ったあと、他の人はどういった気持ちになるのか、まだ私にはわかりません。
単刀直入にいうと、私は何も知りたくないのです。そういう思考が脳にこびりついてなかなか取れないのです。そこに私の「好意」と、それが向けられる相手の存在「だけ」が得られればいいと。こういった言い方をすると、受け取られる方々に私の考えがうまく伝わらないのですが、私がこれをどれだけ正当化しようとしても、どんどん可笑しな方向へ向かっていってしまいます。
「僕のどこが好きなの」と訊かれたとき、「貴方という概念が好き」だなんて、あまりに恥ずかしくて言えません。反対に私があの人に「私のどこが好きなの」と訊くと有耶無耶にされていました。それでよかったのです。私の独り善がりで一方通行の愛情擬きには、これくらいがちょうどよかったのです。相手が私を好きかどうか、それは二の次三の次であります。私のような人間が「好き」だとか「愛してる」だとか、そんな言葉を受けて生きていいのか。いやきっとよくないことです。
私は相手を追いかけていたい、そして私に捕まらないで、軽くあしらってほしい。俗に言う「片想いが一番楽しい」に近いものかもしれません。それこそ相手が私のことをどう思っているか、知らない方がいいというような具合です。
あの人の家族のこと、親の顔も、きょうだいのことも、彼の部屋以外のことも、彼がどこから来たのかも、何も知りません。最初は知りたかったけど、それらについて知らなくてもいいと思えるほど、一方通行でした。
きっともう柑橘は戻ってこないでしょう。私が戻るルートもないでしょう。私はどこに帰ることができるのでしょうか。それももうどこにもないのかもしれない。同じ道はもうどこにも見つからないはず。
恋愛は何かを失うためにあるのかもしれないですね。
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