拝啓
梅雨も明け、雲からは陽が射す季節になりました。いかがお過ごしでしょうか。この季節、僕には耐えられそうもない。朝は刺激の強い直射日光に眼球を焼かれ、昼は茹だるアスファルトに体力を奪われ、夜は寝付けぬ程に苦しくて、こんな季節、今までどうやって乗り越えてきたのかてんで思い出せぬ。そのうえ人間というものは嫌なつくりをしているものだそうで、寝苦しい夜にすら隣に誰かのぬくもりを求めたりする(まぁ結局一人淋しく藻掻いているのだが)。夏は卑しい気持ちになってしまう、暑さにやられたドロドロの脳でシーツを濡らしたことを思い出す。夏の憂鬱に耐えられなくなって男物の半袖を汚したこともあった。苦しかった。あの嗚咽が三人称で僕の夢に出てくるのだから、たまったもんじゃあない。君は多分、僕の予想だけども、君の疲れ切った身体は綺麗に洗濯されたシーツと、柔軟剤のにおいの枕、クリーニングに出したであろう布団に包まれて、一人で眠っているのだろう。君の隣に誰かいるのかい。知りたくもないのに訊きたくなる不思議。ああまた思い出した、君の表情のひとつひとつを。その顔を今誰に向けているのかい。僕はまた君の顔を想像して、そこからどんどん連想されていくのだ、表情、仕草、体温。しかし君は冷たいところがあった、僕がいなくても生きていける君は、僕を必要としなかった。僕を必要としている時、君に使われているような気がした。それでよかった。今僕は何処に居るのだろう、君は何処に居るのだろう。もう君と触れ合うことはないのだろうね、否そうでないと僕も困るんだ。でなければ僕はまた君の為に生きてしまうし、それはもう御免だ。……チョット感情的になってしまったが、君が元気で幸せならそれで良い、この夏を僕は君無しで過ごす。もし夏が終わって秋が来て、僕がこの町に居なかったら喜んでおくれ。それでもし逆に見かけたとしたら「この死に損ないめ」と軽蔑、嘲笑してほしい。そして君の中で僕を殺して遺棄をして呉れ。それが僕にとって「生きた」という事になるからね。
追伸 ペアリングは処分しておいてください。
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