第29話 一難去ってまた一難?
「まあ、
帰り際に、ボソッと言ってくれた岸沼君。
岸沼君も、私が来る事を望んでくれているなら、是非に!
って、本心では答えたいところだけど、そんな事を言ったら岸沼君に引かれてしまいそうだから……
志原君に対しても、抜け駆けにならないように、控え目に承諾した。
「うん、また今度ね」
また、いっぱい迷路遊びしなきゃね!
岸沼君の家のドアを開けると、思ったより寒さが身に染みた。
「はーっくしょん!」
やだ……
また大きなクシャミしちゃった……恥ずかしい!
「お前、寒いくせに、瘦せ我慢して薄着するなよ!」
そう言って、居眠りしていた時に被せてくれていたジャケットをまた羽織らせてくれた岸沼君。
「家、すぐ近くだから! 走って帰ると暖かいから大丈夫よ!」
これを借りると、岸沼君が外出する時に申し訳無いと思って、戻そうとした。
「いいから、着て行けよ! お前に風邪引かれたら、『微笑み係』の仕事をまだ把握し切っていない俺が困るから」
岸沼君に、そうまで言われたら、戻せなくなった。
「うん、分かった。借りるね、ありがとう」
暖かい、岸沼君のジャケット……
岸沼君にが困るのは、『微笑み係』の1人としての立場だけ?
それとも、友達として、私の身体の心配をしてくれているの?
志原君の事よりも、心配してくれている?
頭の中が、疑問でいっぱいになる。
ううん、このジャケットのせいで、余計な事まで考えさせられてしまっているんだ!
それなのに、また、
あんな風に居眠りしちゃうなんて大失態を晒してしまったのに……
岸沼君、さっき出かけたのは、もしかしたら、蒸しパンの材料でも買いに行ってくれていたのかも……
こんなにもてなしされて、また今度来てもいいって誘われて……
そんな風に何度も繰り返しているうちに、私、もっと岸沼君や
弟想いの岸沼君だって、きっと、
弟君に認めてもらってるし、こんな私でも、いつかは、岸沼君にとってもかけがえのない存在になれるかな?
ただ、気になってしまうのは……
なんて、志原君に対して気兼ねするくらいの思いがよぎっていたくらいで、自分達のクラスに、あの転校生が加わる前までは、比較的、緩やかな気持ちで過ごしていたのだけど……
転校生は、我が校にはあまりいないタイプの、ハデなメイクをした、ウェービーな長い茶髪をなびかせていて、遠目でも目立つ感じの女子だった。
私的には、ちょっと苦手なタイプ……
『微笑み係』として彼女を担当するには、荷が重い感じ。
「今日から、このクラスに加わる根川
あっ、そこは……
ついこの前まで、志原君が座っていた席。
この席は、何となく、そのまま空席が良かったな。
私も、岸沼君も志原君との思い出を忘れたくないし……
別に転校生に対して、何の悪気も無いのだけど、志原君の席は岸沼君の為にも使わせたくなかった。
次の瞬間、彼女の口から出た言葉によって、その私達の気持ちは、よく分からない叶い方をする事になった……
「いいえ! 悪いけど、その席は、後ろの人達に詰めてもらって、私、その列の最後部の席にしてもらえますか?」
突然、根川さんが何か強い目的が有るような口調で言い切り、担任もクラスメート達も唖然とした。
最後部の席……って
岸沼君の席の隣……?
「そうか……まあ、その左横の岸沼も『微笑み係』だから、分からない事が有ったら聞けるし、悪いが、泉田と岡山は前にズレてくれ」
まだ先生が、岸沼君は『微笑み係』という事を紹介する前に、どうして、根川さんはその席を希望したの?
まさか、転校初日の教室に入ってすぐ目に付いた岸沼君のイケメンぶりに、早くも釘付けになってしまったとか!
気持ちが分からないでもないけど……
転校生って、転校早々は、控え目にしている生徒が多いのに、何だか妙なくらい積極的過ぎる!
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