第28話 目覚めると……

 んっ……?

 あれっ、なんかいい匂いしてくる……

 何となく甘い感じがするような……

 何の匂いなんだろう……?


 えっ……?

 あれっ……

 ここって、一体、どこだっけ……?


 見慣れないような壁に、天井に……

 そして、所狭しと並べられているフィギュア……

 それって、いかにも男の子が好みそうな感じなんだけど……


 あ~っ!!

 思い出した~!!

 ここ、光昭みつあき君の部屋だ!!


 私、岸沼君の家に呼ばれてたんだった!!


 それなのに……

 光昭みつあき君の相手をしていて、迷路で頭の中がグネグネになっているうちに、睡魔に襲われて、いつの間にか寝入っちゃってた~!!


 大失態~~~!!


 慌てて飛び起きると、岸沼君のと思われるようなジャケットが、背中にかけられている事に気付いた。

 これって、確か、さっき岸沼君が着て行っていたジャケットのような……?

 

 あっ、そうか、岸沼君は、もう帰宅したんだ……


 という事は……!!


 居眠りしていたところを光昭みつあき君だけじゃなく、岸沼君にもしっかり見られていた!!


 私、寝ながら、よだれとか垂らしてなかったよね?

 口元と床面を確認したけど、濡れていなかったから、ホッ!


 ここには、光昭みつあき君、いない……

 きっと、ドアの向こうに、岸沼君と一緒にいるんだよね?


 もしかして、志原君も一緒なのかな?


 岸沼君兄弟に、はしたない居眠り姿を晒した後なだけに、ドアを開けにくい……

 でも、いつまでも、この部屋に閉じ籠っているのも、なんか違うし……

 むしろ、光昭みつあき君にいきなり開けられる方が、よっぽど怖いし……


 どうせ、もう失態は見られてしまったんだもん!

 こんな所でいつまでも恥ずかしがって籠っていても仕方ないから、さっさと恥ずかしい時間を済ませてしまおう!!


「あの~」


 ドアを開けると、台所に立っている岸沼君と、お手伝いしている光昭みつあき君が視界に入った。


 志原君は……?

 どうやら、いないみたいで、ホッ!


「あっ、起きたのか? ちょうど、起こそうと思っていたんだ」


「キリちゃん、3時のおやつタイムだよ! 僕とお兄ちゃんで作ったんだ~!」


 えっ、私が寝ている間に2人で……?

 なんか、見かけによらず女子力高い兄弟で、驚かされてしまう!!


「わぁ~、蒸しパン、出来たてで美味しそう!」


 キレイなドーム状に膨らんだ、茶色と緑色の蒸しパンが沢山お皿に乗っていた。


「何味が好きか聞きたかったけど、爆睡していたからさ、聞くの可哀想と思って。勝手に、黒糖と抹茶にしたよ」


「どっちも大好きだから嬉しい! ……あっ、光昭みつあき君と遊んでいたのに、居眠りしてしまってごめんなさい」


 気が利くところとか見せて、岸沼君に少しずつ接近していく作戦だったのに~!

 何だか失態しか見せてなくて、まるで、ダメダメ人間ぶりをアピールしに来たみたい……


「美味しい~! 岸沼君スゴイね~! おやつまで手作りなんて!」


 女の私でも、おやつは、スーパーで買う袋菓子ばっかりなのに……


「自分がそうされて来たし、今の光昭みつあきみたいに小さい時、手伝っていたから」


 少し言い難そうな感じの岸沼君。

 そうか、出て行ってしまったお母さんの事だから……


 出て行く前には、そんな仲良し親子だったんだね。

 健康の事をちゃんと考えて、手作りでおやつを用意してくれるような優しいお母さん。

 そんなお母さんだったら、いきなり出て行ってしまうなんて、岸沼君は、きっと予測もしてなくて、辛かったに違いないよね……

 両親がいるのが当たり前で育った私なんかには、分からない苦労をいっぱいしてきたんだろうな……


「キリちゃん、どうして泣いてるの?」


「綿中、どうした?」


 つい、目の前の兄弟の姿が健気に思えて、1人でしんみりしてしまっていると、急に2人の視線が集中している!


「えっ、私、そんな泣いてるわけじゃないよっ! 眠る前に迷路して、疲れ目だっただけ!」


 慌てて、涙を手の甲で拭いた。

 

「キリちゃんね、迷路が得意って言ったのに、かなり遅かったんだよ~! だから、また来て、僕と一緒に早くなる練習しようね!」


 わっ、光昭みつあき君、優しい~!

 でも、こんな風に言われてしまうと、なおさら……

 せっかく涙を拭ってるのに、また次から次へと、涙がじわっと滲んで来てしまうんだけど……


「うん、いいけど……私、また1人で寝ちゃうかも知れないよ」


「それでもいいよ! そしたら、またお兄ちゃんとおやつ作りするから!」

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