第27話 迷路しながら

 岸沼君と志原君が、今も連絡し合っていても、何の不思議は無いんだけど……

 やっぱり、どこか心穏やかでいられなくなってしまう。


 でも、今は、モヤモヤしながら沈黙を守っている場合じゃない!

 動揺していないようにスムーズに何か言わないと、光昭みつあき君に怪しまれてしまう!


「あの2人は仲良しだったから、みよしさんが……遠くに転校しても、連絡取り合いたいんだね」


 志原君の事を『みよしさん』って言うのは、何だかすごく抵抗が有ったけど、光昭みつあき君の前では、そう呼ぶのが自然なんだと思う。

 何とか、笑顔作って、そこまでは言えたのに……

 

「うん、でもね、この前、お兄ちゃんがパソコンの画面で会話していた時、僕ね、こっそり見ちゃったんだ! そしたら、ビックリした~! だって、みよしさんって、男の人だったんだよ! 僕は、てっきり彼女だと思っていたのに!」


 光昭みつあき君に、志原君が男だという事がバレてしまっている!


 岸沼君、その後、光昭みつあき君に尋ねられた時に、どうやって対応したのだろう?

 その時の岸沼君の心境を想像するだけで、何だか、こっちまで苦しくなってしまう……


「ほら、今は、昔と違って、男の人とか女の人とかって、あまりこだわらなくても良い時代になって来たんだよ。外国では、男の人同士とか女の人同士のカップルも沢山いるし、結婚だって出来るんだから」


 私のこんな説明で、光昭みつあき君が納得してくれるか分からなかったけど……

 何よりも、岸沼君と志原君の関係に、例え岸沼君の弟君でも、割り込んでとやかく言ってもらいたくなかった。


「そうなんだ……でも、僕だったら、キリちゃんみたいな女の人が、お兄ちゃんの恋人の方が嬉しいな」


 光昭みつあき君、すごく可愛い!!


 こんな顔で、そんな事を言ってくれるなんて。

 これが、岸沼君だったら、もっと嬉しいのだけど!!

 弟君でも、十分嬉しい!!


「そんな風に言ってくれるのって、光昭みつあき君だけだよ! ありがとう!」


 光昭みつあき君にそんな嬉しい事を言われても、実際、岸沼君は私と一緒にいるよりも、誰か他の人と一緒にいる事を望んでいるんだよね……


 まさか、志原君がこっちに遊びに来たりしているのかな……?

 岸沼君が出かけて行って、今、志原君と会っているとかなんて事は無いよね……?


「ねぇ、キリちゃん、何して遊ぶ? 僕ね、迷路が大好きなんだ! 一緒に迷路の絵本見ようよ!」


 あっ、この迷路本、私の家にも有る!

 岸沼君も、光昭みつあき君と、この迷路で遊んでいたなんて、奇遇な感じ!

 ゲームとか言い出されなくて良かった~!


「いいよ! 私、こういうのけっこう得意なんだから!」


 ずっと前に何度もやっていたから、何となく覚えていそう!

 でも、あんまりスイスイ私だけ分かったら、光昭みつあき君のご機嫌を損ねてしまいそう……

 ここは、適当に手加減してあげないと。


 なんせ、相手は小学生だしね......


 なんて、光昭みつあき君を見くびれるほど、私は、迷路が得意ではなかったって、すぐに気付かされてしまった!


 きっと、暇な時、岸沼君と何回も何回も挑戦していたんだね!

 私なんか全く目じゃないスピードで、毎回ゴールされてしまう!


「キリちゃん、得意だって言っていたのに~! まだゴール出来ないの?」


 光昭みつあき君に大差を付けられてばかりで、情けなくなってしまう!


「うーん、得意なはずだったんだけど……変だな~。おまけに、何だか、迷路見過ぎているせいか、頭がぼんやりしてきた。光昭みつあき君は、そんな風になった事ない?」


「ううん、僕はワクワクで目が冴えて来るよ!」


 うん、それは伝わって来る。

 いいな~、こういうので何度でも興奮を味わえるような年頃は!


 それにしても、眠過ぎる……


 迷路していると、余計に睡魔が忍び寄って来る……


 だって、昨日の夜は、今日の事を考えて浮かれ過ぎて、ほとんど寝付けなかったんだもん。


 何着ていこうとか、岸沼君とどんな会話になるんだろうとか、興奮して想像していたんだけどな……

 岸沼君はいなくなってしまうし、光昭みつあき君の相手だけで終わるんだったら、あんなにも期待して、バカみたいだった……

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