第30話 積極的過ぎる転校生

 突然の転校生、根川さんの申し出を先生は快諾した。

 そんな事など当然の成り行きのように根川さんは、岸沼君の方へ向かって闊歩して行った。


 こんな転校初日から大胆不敵に振る舞う根川さんって、一体、何者なんだろう……?

 私はモチロン、クラスメイト達だって注目せずにいられない!

 

 気になるのは、その根川さんに、ご指名されたような岸沼君の反応……


 岸沼君は普段、あまり物事に動じる事なんて無さそうな感じなのに、流石に驚いている表情を隠せないでいる。


 そりゃあ、そんな積極的なギャル系のハデ目な女子に初日早々、グイグイ迫って来られたら、タフっぽい岸沼君だって、何事かと思って引いても当然だよね……?

 岸沼君は、今は多分、女子が束になって告ったとしても、所詮、志原君推しなんだから!


 でも、きっと、この分だと根川さんの『微笑み係』担当は私ではなく、岸沼君をご指名するような流れだよね……?


 そういう事なら、私は苦手系女子の相手をしなくて済んで助かるけど……

 岸沼君にとっても、そんな根川さんのようなギャル系女子は、荷が重いような気がして、気の毒でならない。


 大丈夫かな、岸沼君……?


 そんな私の心配は杞憂だったのか……


 「やっと、会えたね~! 要次ようじ、久しぶり~!」


 リュックを机に置くなり、隣の席の岸沼君に抱き付いた根川さん。


 えっ、岸沼君の知り合いなの?

 しかも、苗字じゃなくて名前を呼び捨て!


 何よりも驚かされたのは……

 根川さん、どうして、いきなり岸沼君に抱き付くの?


 ここ、外国とかじゃないし……

 2人だって外国人じゃないし……

 転校したばかリの教室なのに、そんなのって不謹慎過ぎる!


 もちろん、そう感じているのは私だけではなく、クラスメイト達の視線が一気に後部席の2人に集中している。


「おい、充穂みつほ、離れろよ! 皆が驚いて、見ているだろ!」


「あれっ、ホントだ~! だってぇ、久しぶりだし、ついハグしたくなっても当然じゃん! 私達、付き合っているんだしね~!」


 特に根川の最後の一言に、クラス中が呆気にとられた!

 

 付き合っている……?

 岸沼君と根川さんが……!?


「そんなの過去の事だろ!」


 焦っている様子で否定した岸沼君。


 過去とはいえ、付き合っていたという事を否定しなかった岸沼君……


 という事は、本当に岸沼君と根川さんは付き合っていたんだ!!


 岸沼君は、もう過去の事のように清算済みのような口調だけど、根川さんにとっては、まだまだ現在進行形のような……

 だって、根川さんって、もしかしたら、岸沼君を追って、この高校に転校して来たみたいな雰囲気さえ感じさせられる!


「過去じゃないもん! 私、ダディに頼んで、要次ようじと一緒の高校に転校させてもらったんだから! これからは、ず~っと一緒だよ~!!」


 ダディ……?


 あっ、お父さんの事だよね?

 周りの友達に、父親の事をダディ呼びしている子なんていないから、驚いたけど……


 この転校生、相当クセが強そうで、岸沼君、ホントに、過去だとしても、よくこんな感じの子と付き合っていた事が有ったと感心せずにいられない!

 志原君と全然タイプ違うし、本当に交際していたのだとしたら、何だか、岸沼君の事が分からなくなりそう!


「まあ、そういう事情なら……根川の『微笑み係』は、岸沼という事で良さそうな感じだが。まあ、後から綿中と相談して決めてくれ」


 担任も、2人の様子にあてられ、少し投げやりムードになっていた。

 私に、相談するまでもなく、根川さんの『微笑み係』は岸沼君に決定でしょう!


 私としては、なんか、複雑な気持ちにしかならないけど……


 最大のライバルと思っている志原君とは、距離が開いて、岸沼君の弟君を味方に付けつつある今、私は、他の女子達に比べたら、少しだけ優位に立てているような気持ちでいたんだけどな……


 岸沼君には、元の学校に彼女がいて、その彼女が自分の父親を説得して、岸沼君と同じ高校に行けるように応援までしているなんて。

 そんな親公認な感じの2人には、私なんかの割り込む余地なんて、全く見い出せる気がしない!


 担任じゃないけど、そういう事なら、もう勝手に2人でやって下さい! 

 ……みたいな感じかな。

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