第25話 志原君ロス
志原君と岸沼君が2人揃って欠席した翌日、欠席が続くのかと心配していると、意外にも2人揃って登校していた。
岸沼君を相手に、どんな風に志原君が転校の件を伝えるのか気がかりだった。
もしかしたら、転校ギリギリまで隠しておくのかもと思ったけど……
岸沼君の様子は、いつだって平常モード過ぎて、志原君からは、転校の事をいつ伝えられたのか、私の目からは感じ取る事が出来なかった。
多分、転校直前になって、志原君が転校を伝えると同時に『微笑み係』の交代を岸沼君にお願いしたのが、妥当な線かな?
志原君の転校は、岸沼君にとってどんな影響を与えるのか……?
その事を何より気にしていただけに、自分から見て何一つ違和感の感じられない2人の様子に、毎日空振り感に見舞われていた。
いつの間にか、気付いた時には、志原君の在学中にも関わらず、『微笑み係』の志原君の名前が有った所は、岸沼君の名前に書き替えられていた。
その事は、岸沼君だけにとどまらず、周知の事になっていた事に驚いた。
だからといって、私と岸沼君が急接近出来るなんてわけでもなかった。
次の転校生が来ない限り、私達は普通のクラスメート的な距離感のままだった。
多分、『微笑み係』の引継ぎは、きっと緊密に志原君の方から行われていたに違いないし……
志原君が転校するまでの残された日々、本人の前で、岸沼君は寂しい表情1つ顔に出さずにいた。
それは、精一杯の強がりだったようで、さすがに志原君の転校後しばらくは、岸沼君の沈んだ状態が続いていた。
その時点でやっと、志原君ロスという状態の岸沼君の心を再確認出来た私の心も、かなり痛かった……
しばらくの間、そんな沈んだ岸沼君の様子を目の当たりにするのは辛いかったけど……
自分にとって、最大のライバルがいなくなったという件においては、心のどこかで安心していたのかも知れない。
志原君がいなくなった事で、岸沼君は、あんなぶっきらぼうで不愛想だから、クラスに溶け込みにくいんじゃないかって心配だった。
それが、意外にも、岸沼君は文武両道で、クラス対抗の学校行事でも目立って活躍していたから、いつしか自然とクラスメイト達が歩み寄って行くようになった。
最初は女子達からだったから、男子達は、やっかみも有ったと思うけど、次第に、岸沼君の飾らない素朴な人柄と活躍ぶりに男子達も打ち解けていった。
志原君ロスの女子達なんかは、ホントに驚くほど切り替えが早かった!
気付いた時には、女子達が一気に岸沼君に乗り換えていった!
あの志原君に夢中だった真緒でさえも、岸沼君の情報知りたさも有って、彼女の方から、私に声をかけて来る事が多くなった。
そのおかげで、いつの間にか、真緒とは元の鞘に収まっていた。
そんな流れで真緒と元通りの行動が出来るようになったのも、もしかしたら、岸沼君を『微笑み係』の後継に選んだ志原君のおかげかも知れない……
そんな風に、岸沼君が『ポスト志原君』みたいな位置に収まってしまったから、私と岸沼君との距離は縮まるどころか、一緒の係とは名ばかりで、むしろ遠くなったように感じられる日々も続いていた。
それでも、クラスメート達の中に溶け込んでいった岸沼君が、時の経過と共に、志原君の転校のショックから、少しずつ解放されていっている様子を遠目からでも追えて感じられている時間は幸せだった。
岸沼君が、笑顔を見せる回数も増えて……
志原君とは少し違った感じだけど、その笑顔が私達の学校生活のエネルギー源になっていそうな感じもしてきていた。
何より、このクラスの中で、岸沼君と志原君の関係を知っているのは、私だけっていう優越感が、今の私には勲章のように輝かしく思えていた。
こうして、ここでの生活に慣れていくうちに、いつの間にか、岸沼君は志原君の事も忘れて、彼女とか作ったりする事になるのかな?
それだったら、志原君を追っていた岸沼君の方が、まだヤキモチが少なかったかも……なんて勝手な予想もしていた。
だって、自分は、魅力に欠けているせいで『微笑み係』に選ばれたのだから……
私の周りには、私よりずっと魅力的な女子がいっぱいいるし……
そんな中にいたら、少しくらい同じ係で交流しているという有利な面が有ったとしても、私なんか、彼の目からは霞んでしまって当然だものね……
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