第24話 志原君からの依頼
「志原君が転校する事を知ったら、クラスの男子も女子も皆、ショック受けそうだよね」
他の男子には目もくれず、志原君しか眼中に無い真緒の事をふと想い出した。
真緒の為に志原君の情報収集するつもりだったのに、真緒にとって、こんな哀しい内容の宣告しか出来なくなってしまう……
これじゃあ、真緒との仲直りも、まず無理そう。
「綿中さんは、ライバルがいなくなってラッキーくらいに思っている?」
「えっ、そんな事、全然思えないよ! 第一、私は、志原君のライバルなんて立場にいないはずだし、きっと……」
私は、ただ『微笑み係』として、今だけ他の女子達よりは、岸沼君に近い位置にいるかも知れないけど……
「どうして、そんな風に考えているの? 僕にとって、綿中さんは、十分なくらいライバル的な立ち位置だけどな……」
「志原君は優しいね。知ってる、志原君? 私が『微笑み係』に選ばれたわけを? 笑顔がステキとか、可愛いとか。そういうのじゃないんだよ。私は……女としての魅力に欠けるから、そんな私が人気者の志原君と一緒に行動しても、他の女子達にとって、下手に心配する必要無くて済むからなんだって……」
自分でも、そんな風に言うのはイヤだったけど、転校間近で気落ちしている志原君を前にすると、自嘲するくらいは出来た。
「それ、女子から聞いた? そんなの、大丈夫だよ! 男子からと女子からの見る目って同じじゃないし! 顔やスタイルだけで選ぶような男子ばかりではないから」
志原君が、フォローするような口調で言ってくれたけど……
「それって、あんまり慰めになってない感じなんだけど……でも、ありがとう、志原君!」
「僕から見ると、女子というだけで、綿中さんは十分羨ましいよ! 僕が女子で生まれていたら、こんなに岸沼君との事だって、頭を悩ませないで、すんなりと気持ちに従っていられたわけだし……」
こんなに人気者の志原君に、私なんかが羨ましがられているなんて、信じられないけど……
いつだって順風満帆で、学生生活を満喫しているようにしか見えてなかった志原君でも、マイノリティという事で、きっと今迄、紆余曲折が沢山有ったのかも知れない……
「綿中さんにお願いが有るんだ! 僕が、転校した後『微笑み係』を1人でするのは大変だから、岸沼君と一緒にして欲しいんだ」
耳を疑わずにいられなかった。
志原君、いきなり何言い出すの?
「えっ、岸沼君と? どうして? 岸沼君って、転校して来たばかりなのに、無理が有る!」
「転校生だからこそだよ! 『微笑み係』に案内されたばかりという自分の経験を生かせる絶好の機会じゃん! 綿中さんは、他に誰か、適役思い付く?」
志原君の言う事は一理あるけど……
「確かに『微笑み係』との接触は、岸沼君が現在進行形だから、内容が分かっていて有利かも知れないけど。岸沼君って、その、悪口じゃないけど……不愛想だし、つっけんどんな面も有るから、『微笑み係』には適切ではない感じがするんだけど……」
「岸沼君は、慣れない環境だと緊張しいな性格が出てしまうだけで、本当は全然、不愛想なんかじゃないし、面倒見がいい方だよ! 綿中さんだって、とっくに気付いているはずだけど」
さっきから、志原君には言い当てられてばかりで、ドキッとなってしまう。
「それに、綿中さんだって、岸沼君と一緒に『微笑み係』って、願ったり叶ったりじゃないの?」
「それは、図星かも知れない......」
『微笑み係』として岸沼君に接するのも、そろそろ終わりかなって思っていた頃合いだから……
そうやって、一緒の係になれたら、また自然に話せる機会も増えて、嬉しいは嬉しいけど……
「でも、岸沼君がOKするかな......?」
担任にその旨をまず伝えて、担任から直々に指名してもらう方がいいのかな?
「そんな事は気にしなくて大丈夫! 僕からの最後のお願いって、岸沼君に頼むつもりなんだ! そしたら、岸沼君はきっと二つ返事でOKしてくれるって」
なんて、自信満々に言うんだろう、志原君!
ヤキモチ通り越して、見ていて清々しいくらいに!
その時は、志原君がそう言っても、まだ疑わずにいられなかったけど、数日後、志原君が岸沼君に直に頼んだら、志原君の予想通り、岸沼君は、すんなりとOKしてくれていた。
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