第23話 真相は……
志原君の大爆笑が意味不明過ぎて、しばし呆気に取られていると、やっと、笑い声が止まった。
「綿中さん、人の言葉を鵜吞みしやすいっていうか、あまり人を見る目が無いんだね!」
えっ、志原君が私をディスって来た?
まだ笑い続けているし……
人を見る目が無い……って?
確かに、そこは、胸張って自信が有るなんて言えないけど……
「どういうこと……?」
「だってさ、『微笑み係』として、岸沼君と何度も行動していたのに、綿中さん、気付かなかったの? 岸沼君は、ゲイじゃないよ!」
岸沼君は、ゲイじゃない……?
志原君と一緒にいる時の甘い雰囲気を見ていたら、とてもそうとは思えないのだけど!
「僕は、岸沼君の片想いだった初恋の女子に似ていたみたいなんだ。その子も喘息持ちで、小1の時に亡くなったんだって。だから、僕が咳き込むと、それを思い出してしまって、辛そうだった」
志原君が、岸沼君の初恋の女の子に似ていたの……?
確かに、志原君って、女子の私から見ても十分なくらい中性的な感じだから、女装とか似合いそうだけど……
「岸沼君は、志原君の中に、初恋の女の子の面影を見付けたのかな? それで、ノンケからゲイに変わったって事なの……?」
「それだったら、僕の罪意識も少しは軽くなるけど」
志原君に罪意識……?
何に対しての……?
ダメだ!
私、この手の話って、とても理解力に欠けるみたい……
「岸沼君が心配してくれたのを逆手に取って、僕がわざと岸沼君の辛い思い出に付け込んで接近したんだ。『僕の事は救ってもらえる?』って。僕みたいなマイノリティは、学校生活でも家に戻ってもストレスが溜まって、喘息が悪化していると伝えてみたんだ。そうしたら、岸沼君は、自分に出来る事が有ったら、何でも力になるって言ってくれた」
岸沼君の転校初日に、志原君がそんな話を持ち掛けていたなんて!
な、なんて大胆不敵な!!
私だったら、絶対ムリっ!!
しかも、それを承諾した岸沼君って、どれだけお人好しなの!!
もしくは、自分の好みを返上するくらい、本気で志原君の事を初対面で気に入ったか、初恋の子に対する執着が強過ぎたって事だよね?
「一見、取っ付き難い雰囲気なのに、岸沼君は意外と優しいから……」
岸沼君は、あの人を寄せつけようとしない外見からは考えにくいくらい、人情味が有る人だって事、私も、日を追う毎に分かって来た。
「転校したてで、ここには、友達も知り合いもいない岸沼君だから、『微笑み係』の僕に対して、そんなキレイ事を言えたのだと勘繰った。それなら、一応、確認してみようとして、岸沼君の言葉に偽りが無いなら、僕にキスを出来るかって尋ねたんだ。まさか、そんな挑発に乗っかってくるなんて、僕だって思ってなかったんだけど……」
そこから先は、私が志原君に当初から聞いていた話の流れだったんだ……
岸沼君も転校当日に、そんな小悪魔的な事を言われてきて、かなり驚いたと思うけど、岸沼君よりも驚いたのは、挑発してみた志原君本人の方だったんだね。
「それで、私と『微笑み係』を交代したいって……」
「焦ったよ。今迄も薄々、自分はバイじゃないかと気付いてはいたけど、告られたら断る理由も無くて、女子とばっか付き合っていたんだ。だから、女子と付き合うのが、自分にとっては、自然の流れだと思っていた。けど、実際、自分が気に入った男子とのキス体験が、こんなにも衝撃的だったとは思わなくて……自分から仕掛けたのに、収拾つかなくなりそうな気持ちになった」
それで冷却期間が必要だったんだ、志原君には。
もちろん、その期間のうちに、岸沼君の反応も探るという目的も有ったと思うけど……
岸沼君は、志原君にとった行動に対して責任を感じているのか、それとも、志原君に本当に心持って行かれたのか分からないけど……
それ以来、傍目からも、一途過ぎるくらいに感じさせられるほど律儀に志原君を追っている岸沼君。
私の目からは、責任というより、恋心に思えてしまうけど、志原君は、どう感じているんだろう?
「志原君は、岸沼君がどういう気持ちで接して来ていると思う?」
「僕でもそうであったように、岸沼君にとっても、未知の領域だから、何とも言えないけど……僕と同じ気持ちであってくれたらと願うよ」
転校する日が迫っているせいか、志原君自体は、そこに強く関心が有るのか無いのか分からないような答え方をした。
もしも、両想いだとしても、そんな遠くまで距離が開いたら、その気持ちをどこまで維持出来るか、お互い分からなくても当然だもんね。
志原君にだって、転校先で、新しい出逢いが待っているのかも......
それが、女子なのか、男子なのか分からないけど......
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