3-2

 魂の消失による責任は最悪懲戒だが、基本的には減給が妥当である。

 しかし。

 その魂が、王様、魔王、特に勇者などの特殊な役割に転生する場合はその限りではない。

 人は皆、平等である。そのため、不平等を感じたのであれば、人と思われていない可能性を疑ったほうが良い。

 今現在、私たちの立場は相当に危うい。

 勇者に転生予定だった魂を消失させてしまったのだ。

 懲戒確定。いや、むしろ懲戒で済むのか疑わしい。ついつい最悪の事態を考えてしまうが、脳を切り替えて今現在の状況を分析したほうが良い。危機的な状況を切り抜けるための方法はどこにでも転がっているものだ。

 まず、私たちが三人一組で動いている以上、資料は三人のうちの誰かの机の上に置かれることになっている。

 アールは仕事ができるので、そんなミスを犯すわけがない。

 机の上の汚れ具合は、モチ、次いで私である。

 私はモチを見つめた。奇遇にもモチも私を見つめていた。

 仲が良いことが取柄であるからして、お互い相手の考えをしっかりと推測できていた。

 こいつのせいにしよう。

 希望の光は真っ黒である。

 さきほどアールが言っていたように、三人一組で評価を受ける状態になっている以上は、誰の責任であったとしても、三人とも逃げきれない可能性はある。ただ、責任の所在さえ明確にすれば、その一人に罰則を吸収させて他二人は若干だが軽くなるかもしれない。加えて、アールは、上司や神様にこう伝えていると証言していた。

 事件の判断をする時はウメハラとモチに相談をして、三人で結論を出している。

 つまり、判断を間違えた場合は三人の連帯責任になると考えられるが、その判断が発生していない、その前段階である資料の受け取りミスについては、個人の責任になると考えても、そこまで不自然ではない気がする。

 失敗した時は言い訳をしてはいけない。つまり、失敗ではないと証明するに限る。

「モチ、質問なのですが。確か、モチの机の上には壊れてしまったマウスが一台とデスク用ファンが一台、飲みかけの缶コーヒーが四つに、ペットボトルに入ったお茶が同じく四つ。事件の資料をまとめたファイルが五つとクリアファイルが六つ。その上に、ファイル綴じをしていない紙の資料がまんべんなく約四十枚ほど置かれていたように記憶していますが間違いありませんか」

 モチが恥ずかしそうに頷く。

「うん、その通りだよ。必要な資料の場所も分からなくて、すぐに仕事に取り掛かれなくて困っていたんだ。だからさ、かなり前にウメハラの机の上に全部移動しておいたんだよね。そのおかげで、資料はすぐに見つかるし物凄く快適だよ。ウメハラは、自分の机の上で仕事をすることが少ないから気付いてなかったと思うけど。どう、片づけてくれたかな」

 なるほど、やりあう気満々ということは分かった。

 今のは、ボクシングで言う所のジャブだろうか、それともストレートか。いや、クリンチに近いかもしれない。なんにせよ、ここは相手をノックアウトする以外の逃げ道は存在しないのだ。

 事実がどうかなど関係がない。

 もしも、ティクヴィがその点を気にしているのなら、私とモチを連れて机を見に行けばいいだけのことである。わざわざ、状況を確認できないこのような場所で質問をしてくる時点で、責任の所在さえはっきりできればいいということに過ぎない。

 業務が終わればいいのだ。正しいことを求めているわけではない。つまり、やれることは数多く存在するということだ。

 モチが顎に手を当てて、首を傾げて私のことを不思議そうに見つめてくる。

 何か言おうとしている。

 ていうか、そんな仕草今までやったことないだろ。煽りやがって、クソモチめ。

「よくよく考えれば、この資料って、ウメハラの机に置かれる可能性が一番高いよね」

「何故、そう思うんだ」

「だってさ、僕とウメハラとアールの三人のチームって、最初はウメハラ一人だったところに、僕とアールが入っていった形でしょ。事実、チームとして動く時って、組織上そのチームの責任者を決めなければいけないから、確かウメハラがリーダーとして登録されてるはずだよ。資料がウメハラの机に置かれていた場合は、ウメハラに責任があるのは言うまでもないでしょ。でも、僕とアールの机の上に資料が置かれている場合も、ウメハラのリーダーとしての管理者責任を問われるのは当然なんじゃないのかな。もちろん、なりたくてリーダーになったわけじゃないのは分かるよ。でも、僕とアールと違ってその分の手当てをもらっているのは事実だし、このチームにおいてキャリアが最も長いのはウメハラなんだよ。僕は、リーダーの下にいる者としても、ウメハラと仲の良い友達としても、親友としても。ちょっと、残念だなぁ」

 どの口が言ってんだ。ぶっ殺すぞ。

 仲の良い友達という言葉から繰り出す、横に並んで肩を叩くようにみせかけて、私を前に押し出す悪意。

 また、嫌らしいところとして、私が形式上リーダーであることや、給料の額が多い点、キャリアの長さについては、すべて事実なのである。これを否定できないというのが、また非常に厄介である。

 筋が通っている。

 モチのくせに。

 ティクヴィが何かに気付いたような表情で私を指さす。

「お前の名前は、ウメハラだよな」

「はい、ウメハラです」

 モチを指さす。

「お前の名前は何」

「モチです」

「じゃあ、違うな」

 違うだと。

 何が違うんだ。

 何のことを言っているんだ。

「俺の資料が放置されてた机は、アールってやつの机なんだよ。俺、ここにアールを探しに来たんだよ」

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