最終章 異なる世界で転びながらも生きている。
3-1
何の用事でここに来たというのか。
警察ではない、一般人でもない、ましてや人間ですらない。現れたのは神様で、しかも威圧的である。神様らしく初対面の人間にもどちらが上なのかを押し付けてくるような態度である。
人間にもこのようなタイプはいるが、最悪暴力か知力で沈めてしまえばいい。ただし、神様となると話は違う。こちらからの暴力は、天罰となって返ってきて、知力による勝負は、天知るところにまで追いつくわけがないので敗北は決まっている。
「お前らはさ、神様に会ったことあんの」
私とモチは一度だけ目を合わせて、一気に立ち上がった。
不運にも近い所に立っていた私が、神の対応をするしかないだろう。少しだけ神様に近づき、薄ら寒い笑顔を装着する。
「私は、あなた様が初めてです」
「あ、そうなんだ。まぁ、俺って人間に見えるだろうけど、神様だから」
神様が自分を神様だと言っている。
怪しい気もする。
「これ、証明証ね」
差し出された証明証はクレジットカードのような大きさで、金色をしていた。表面には解読できない言語が大小様々に並んでおり、おそらく神様としての名前、そして天界での所属と役職が分かるようになっているのだろう。
というのは、あくまで私の推測である。怪しさを拭うには値しない。大体、神様がわざわざここにやってくることなど、万に一つの確率である。起きたら疑った方がいいレベルの出来事である。
モチがいつの間にか私の隣に立っており、自称神様の顔を見つめながら驚いた表情をした。
「確か、月刊神様の、八月号の表紙をやっていましたよね」
神様が鼻で笑う。
「俺は断ったんだけど、どうしてもやって欲しいって言われちゃったからさ。まぁ、他の神様には嫉妬されちゃって、困ったけどね。まぁ、カッコいい神様って意外と少ないみたいでさ」
あっ、そうだ。思い出した。
それだ。
天界に行くための申請資料を出しに行くと、受付でサービスとしてもらえる雑誌。
その名も、月刊神様。
その表紙に、何故か上半身裸で両の乳首を晒しながらユニコーンに乗るイケメンの神様がいた。ユニコーンも服を着ているわけではないので、この一枚の写真に四つの生乳首が映っていると思ったものだ。
この神様、あの時のユニコーン乳首野郎だ。
いや、それだと乳首がユニコーンの角のように伸びているイメージになってしまう。
じゃあ、乳首ユニコーンだ。
待て、そうなると今度は乳首型のユニコーンということになってしまう。
神様は月刊神様の表紙を飾ったことを知られていて満足なのか、見下すような笑顔で私とモチの顔を順番に見つめた。
「俺は、異世界転生用トラックによる転生業務と、お前らがしっかりと業務に励んでいるかを監査する監査部隊のトップを務めている者だ。名前は、ティクン・デア・ヴィータルだ。仲間からは、ティクヴィと呼ばれている」
ティクヴィと乳首。
これこそが、神の起こす奇跡。
「お前らもそう呼ぶように」
望むところである。
さて、監査部隊のトップことティクヴィ。
基本的に神様が現世に降りてくることなどそうそうない。そもそも人間を汚いと思っているのだから、同じ空間にいることも避けるだろう。監査員の役目を負っていたとして、実地調査、聞き取りなど聞いたこともない。
つまりは、出向くだけの理由が存在している。
それしかない。
「実は、俺さぁ。数週間前に、ある資料を送ってるんだよね。内容は、転生用トラックが今日の日付で誰を轢くかについて。で、もう轢く予定の時刻を五時間以上も過ぎてるわけよ。なのに、承認された資料は返送されないし、少し遅くなりますって連絡も来てないんだよね」
おっと、マジか。
資料は送付されていたのか。
「それに、その魂。もう消失しちゃってんだよ」
「え」
魂が消失した。
いや、待て待て、二十四時間だろ。二十四時間は大丈夫なんだろ。
「資料には、ちゃんと書いたんだぜ。この魂は、勇者に転生させる尊く貴重な魂なので、必ず業務を遂行するように。そして、繊細で特殊な魂なため四時間以上経過した場合は、消失する恐れがあるので早急に処理するようにってさ。これ、かなりの大問題だからな。勇者以上のランクへの転生は、俺たち神様でもかなり慎重に行うし、人間以上にこの業務の責任範囲を気にしてる。お前ら実務担当者のミスだったとしても、署長や幹部クラスに確実に飛び火するんだぜ」
まずい。
これは、本当にまずい。
ティクヴィが目を細めて息を長く吐く。
「で、俺の資料を無視したヤツは、どこにいるんだよ」
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