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 異世界転生用トラックとは、天界が現世に派遣して異世界に転生させたい人間を轢く専用のトラックである。基本的には、天界から現世の警察に、何月何日の何時何分何秒にどこそこで、何歳くらいの人を轢いて異世界に転生させますのでよろしくお願いします、と書類が届くようになっている。これにより、警察は現場に向かい、実際に轢かれた人と天界から来た資料に書かれている特徴を見比べて、その通りであると認識した場合は承認印を押して天界に報告するという仕事をしている。つまり、天界からの資料送付、現場での確認と記録、そして、天界への返送が一連の流れというわけだ。

 ちなみに、この異世界転生の仕組みについては警察の一部と天界の神々しか知らされておらず、それ以外の一般人、トラックに轢かれた人にも知らされることはない。

つまり、その警察の一部に入っている、私とアールとモチは、そういう意味ではエリートコースに乗っているのである。

 大事なことなのでもう一度言っておく。

 エリートなのである。へへん。

 さて、話を戻す。

 厄介なのは、天界側が人を轢く前に送付するはずだった資料を、忘れていた場合である。そうなると後日、資料が届けられ、警察はその情報から既に起きてしまった事故を探して、死体の確認をしなければならなくなる。しかも、異世界転生用トラックに轢かれた人の魂は、私たち警察の業務処理が行われない限りは現世に意識不明のまま停滞することになる。この魂は、非常に不安定な存在であり、個体差もあるが約二十四時間で消失してしまうことが確認されている。

 ということは、天界からの資料の送付や、警察の確認作業が遅れて二十四時間をこえた場合、最悪の事態になりかねないということである。

 しかも、天界という所は、現世と明らかに常識に乖離がある。天界に住む人々は、自らが人間の上位存在であるという意識を持っているため、急がないし、慌てないし、指示に平気で背き、提案を飲まないこともある。反省しないのだ。

 このせいで何度か魂が消失してしまうという問題が発生しているが、これらの責任はすべて天界側ではなく現世の警察側ということになる。懲戒処分にだってなるかもしれない。

 天界に責任の一端がないのは単純だ。先ほどの通りである。彼らが上位存在だからである。

 何故、急かさなかった。何故、教えてくれなかった。何故、魂にかかわる重要な問題を伝えてくれなかったのか。彼らは口々に言う。

 しかし、私たちはいつだって、何度も何度も説明をしているのだ。

 そう。彼らは人の話を聞かないのである。

 さすが天界である。きっと、バカにも天井がないのだろう。

 一応、神様という存在にあたるらしいが非常に納得した。

 そりゃ、商店街のくじ引きをやる時に神様にお願いしたって当たるわけねぇや。

 はずれくじでもらえるポケットティッシュとフルーツキャンディの方が、役に立つ分よっぽどましである。

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