花束と共に

@shinomiya0403

新聞部卒業生一同、より

思えば、何かと頼りのない私たちでした。換気のためと窓を開けては、部屋中に原稿用紙が舞い。コピー機を動かせば、枚数を間違えて。その度に君たちは、大慌ての私たちを「落ち着いてください!」って、しゃんとさせてくれましたね。

我が新聞部設立者たる、偉大なる先輩方の卒業後、この学校にやってきた君たちは、目をきらきらさせて、不安と期待を混ぜた色合いを乗せて、この部室のドアを叩いてくれました。道がわかりにくかったせいでしょう。最終下校の鐘が鳴る、15分ほど前だったでしょうか。私たちはてっきり誰も来ないものだと思って、ジュースなど飲んでお菓子を食べて。現れた君たちの前で醜態を晒しましたね。本当に、少し前までは真面目な顔をして部活動紹介の準備をしていたんですよ。本当なんです。

君たちが、入部届を持ってきてくれた時、私たちは大喜びで飛び上がりました。君たちが帰った後に、よかったよかったと泣いていたことを、君たちは知らないでしょう。私たちの後に誰も入らなくて、先輩から託された新聞部の歴史を閉ざすことになったらと……ちゃらんぽらんな私たちなりに、酷く真面目に悩んでいたんですよ。実際去年は、誰も訪ねてきてくれませんでしたから。私たちには後がなかったのです。

先輩方は本当に偉大でした。何も知らない私たちに、新聞を読むことの面白さ、作ることの難しさ、読んでくれた人の笑顔、来週楽しみだよと言われた時のとびきりの喜び……。そんなものを、たくさんたくさん教えてくれました。私たちは、先輩方が残してくれたものを、どうにか受け継いでいきたいと、そんな気持ちでいっぱいでした。それだけ、考えていたはずでした。

……君たちに、先輩と、そう呼ばれた時。どうしてでしょうか。受け継いでいきたいという思いより、私たちが得たたくさんの楽しかったこと、大変だったこと、幸せだったこと、嬉しかったこと、その全て――。

贈りたいと思うようになっていました。

私たちが初めて書いた拙い記事を、褒められた時の嬉しさも、読み返した時の恥ずかしさも。自分の書いた文の載った新聞が刷り上がっていくどうしようもなくむずむずした思いも。また読ませてねと言われた時の嬉しさ、面白いねと言われた時のしてやったという気持ち。いろんなものを、残らず与えてしまいたかった。

君たちが、私たちの与えたかったものを、少しでも受け取れたと思ってくれたら、幸せです。

君たちもいつしか先輩になって、私たちと同じ気持ちを抱くのかもしれません。そうじゃないかもしれません。でも、いろんな思いを抱いて、今の私たちと同じ歳になった暁に、君たちがどんな言葉を贈るのか、私たちは楽しみにしています。どうか、今みたいに録音を残してくださいね。

改めまして、卒業祝いありがとう。私たちの初めての後輩のみんな。これから先の君たちに、たくさんの学びと幸福がありますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花束と共に @shinomiya0403

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ