第4話 草元有馬

 品山哲を取調室に呼んだ。品山は不服そうに、向かい椅子に座った。

「白鳥果歩さんとは、どういう関係だった?」

「ただのセフレ」

「本人は性被害にあったと言っているんだけど」

「いや、同意してましたよ。あの女。噓つきだね」

「そう。」

 やっぱり、品山が噓とついているようには見えなかった。

「白鳥さんとは、どこで知り合いましたか?」

「富川定食屋ですけど」

「そうですか。白鳥さんとはいつも2人で会うですか?」

「いえ。最初に、野乃花ちゃんと果歩が富川定食屋に来ているところに、光也と合流する形です。」

「下釜さんと、白鳥さんは仲は良かったですか?」

「下釜って、誰ですか?」

 品山に問われて、下釜野乃花の聞きなじみない様子だった。まあ、友人の彼女の苗字なんて、知らなくてもいいものなのだろう。

「下釜野乃花のことです」

「ああ、野乃花ちゃんのことね。う~ん。果歩と野乃花ちゃんね。仲は良かったと聞かれたら、それは微妙だね。」

「微妙とは?どういうこと?」

「果歩は楽しいそうだったけど、野乃花ちゃんは、つまんなそうだったね。なんか、光也も言ってけど、野乃花ちゃんは煙たがっていたみたいだね」

「そう。じゃあ仲よくは見えなかっただね。」

「ああ」

「そうだけど、それが何か問題でもあるんですか」

「いや、何もないよ。本日はご足労かけてました」

「終わり」

「ああ、終了だ」

 そのまま不服そうに、品山は取調室から去って行った。


「草元さん、これでいいですか?」

 パソコンを打っていた書記の田辺が言った。

「品山が噓をついているように見えたか?」

「いいえ、見えませんけど。ただ、釈然しないので」

「誰も嘘はついてないよ。人間なんて、ご都合主義だからな。都合よく話がすり替っていく。真実なんてあるようで、ないようなものだからな。」

「それって、なんか困りませんか」

「ああ困るな。だた、本人が嘘をついているつもりがないんだよ。悪気がないのは本当に嫌なものだ」


 白鳥果歩は、アパートの首を吊って死んでいた。発見した堤巡査が、白鳥は笑っているような顔をしていたらしく、床には下釜野乃花のとのツーショット写真が落ちていて裏には、”大好きだよ野乃花、一生私のこと忘れないでね”という言葉が書かれていた。これは遺書のようなものだろう。ただ下釜の恋人の山田光也に伝えないでほしいと言われ、このことは下釜は伝わっていないようだった。


 「失礼します」取調室のドアが開いた。そこに、白鳥の父親が入って来た。

「すみません。ご足労をかけまして」

 少し頭を下げて、白鳥宮人が椅子に座った。

「どういったご用件ですか?」

「娘さんの自殺について、もう少し詳しくお話がさせていただきたくて。」

「あの子は、やっぱり下釜野乃花のストーカー行為をしてたのですか?」

「まあ、一般的にはそうなのが、下釜野乃花自身はあまり気に留めていなかったようでして。ただ、下釜のアパート部屋から隠しカメラが発見されて、そのカメラの映像が、白鳥果歩のパソコンから見つかりました。」

 父親は血の気の引いた表情になっていく。白鳥果歩は嫌がらせをしてたわけではないく、ただ下釜野乃花を監視したかったのだろう。

「それで、果歩はなぜ自殺したのでしょうか?」

「下釜に振り向いてもらえなかったからだと、考えれます。」

「恋愛感情があったのでしょうか?」

「それは、分かりません。」

 父親は混乱しているようにも見える。

「そうですか。妻も混乱していて、とても話せる状態ではなくて」

「お父さんは気づいていたのでしょうか。果歩さんの様子が変だったことに?」

「それは、まあ。ただ、最初に気づいたのは、果歩の姉である美玖だったですけど。美玖が果歩のアパートを訪れた時に、下釜野乃花の大量の写真が見つかりまして、それを聞いて、何となく、変だとは思っていました。写真をすべて捨てさせたのですが…」 

 父親は娘の異変に気づいていたが、ただ、どうすることもできなったのだろう。母親は見て見ぬふりをして、話をすり替えて、娘の異変を美化していのだろう。

 白鳥果歩の死は、彼女の自身の葛藤によるものだったのだろう。たぶん、誰も助けることはできなかったのではないのか。それに、責任は誰も取ることはできなかったのだろう。

 


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責任の迷走 一色 サラ @Saku89make

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