第2話 憧れの人
キャプテンの女の子が「みんな集合!」と叫んだ。
選手たちが監督を真ん中に円陣を組んだ。
アキトとヨシト君も円陣に加わった。
アキトは自分もチームの一員のようだと思った。
監督が話しだした。
「みんなおはよう」
一同「おはようございます」
「今日は見学の子が来てくれた。みんな拍手」
一同拍手。
「見学の子にはキャプテンのアズサが面倒みるように。じゃあいつものウォーミングアップからはじめよう」
一同「はい!」
みんなはウォーミングアップをしに、グランドの端っこにいった。
アキトとヨシト君のもとにキャプテンのアズサがニコニコしながらやってきた。それは誰もが気を許してしまいそうな笑顔だった。
アズサが大きな声で言った「おはよう」
「おはようございます」
「おはようございます」
アキトとヨシト君はやや小さい声で言った。
「あたしの名前は梓川梓。6年生。キャプテンしてます!あなたたちの名前は?」
「仰木明人です」
「大道義人です」
「何年生?」アズサは屈託なく言った。
「ふたりとも三年生です」アキトは言った。
「野球好き?」アズサは大きな目をエヘヘと言うように細めた。
「好きです!」アキトは今度は大きな声で言った。
ヨシト君も「好きです」と言った。
「今日は見学に来てくれてありがとう!いろいろ見ていって。うちのチームの部員は33人。野球は9人でするスポーツやから、だいたい3チームぐらい作れるな。ほんでから〜カクカクシカジカ」
アズサはよく喋る先輩だった。
それになんかいい匂いがする。柔軟剤の匂いだろうか。
それからアキトとヨシト君はアズサといろいろな話をした。
ウォーミングアップを終えた選手たちは、一旦休憩したあと、大きな声を出しながらキャッチボールをはじめた。
アキトはアズサに「なんでキャッチボールしてる時に大きな声だすんですか?」と聞いた。
アズサは一瞬逡巡したあとに「なんでやろなあ?アキト君はなんでやと思う?」とアキトに聞き返してきた。
アキトは考えた。なぜキャッチボールの時に掛け声を出すか。
「気合をだすためやと思います」
「まあそういう意味もあるかな。正解は雰囲気を盛り上げるため。声を出したら楽しくなるねんな。だから声をだす。やっぱり野球は楽しんでやらなあかん」
アキトとヨシト君はうんうんとうなずいた。
キャッチボールを見ているとひとりの選手が上手くキャッチボールできていなかった。
すると監督の怒鳴り散らす声が聞こえてきた。アキトは怖いと、思った。なんで怒鳴ったりするだろう。自分もチームに入ったとき、怒鳴られたりするんだろうか。
アズサになんで監督は怒鳴ったりするのかと聞きたかったが、聞けなかった。
その後、ノックと試合形式の打撃練習をしてから、練習は終わった。監督はその後何回も怒鳴ったりしていた。だいたい3時間ほどで終わった。アズサいわく、グランドは3時間しか借りられへんから、練習も3時間しかできないということだった。
アキトとヨシト君はその後、アズサに「今日はここまで。もう帰っていいよ」と言われたので帰った。
アキトは玄関を開けた。
ママが野球どうだった?と聞いてきた。
アキトはちょっと監督が怖かったと言った。
「野球チーム入るの?どうする?」ママが笑顔で聞いてきた。
アキトの脳裏にアズサの笑顔が思い浮かんだ。アズサみたいな人と野球がしたい!アズサともっと色んな話をしたり、一緒に野球をしたい。
オレはアズサみたいな人になりたい。
だからチームに入ろうと思った。
「オレ。チームに入る!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます