青春ベースボール

久石あまね

第1話 絶対にプロ野球選手になる!

 「アキトっ、起きなさい!アキト!」

 ママがアキトの部屋を開け、アキトを起こそうとしていた。アキトは枕元の目覚まし時計を見た。

 時刻は朝の8時だ。

 もう起きないと。

 アキトは起き上がり、ぐちゃぐちゃになった掛け布団をきれいにベッドメイクした。

 

 今日はアキトにとってワクワクするイベントがあった。

 

 それは少年野球チームに見学に行くことだ。見学にはヨシト君と自転車で行くことになっている。ヨシト君はアキトのベストフレンドだ。アキトは最近、親友のことを英語でベストフレンドということをヨシト君から教えてもらった。ヨシト君はなんでも知っている物知りだ。


 

 アキトはママが作ってくれた目玉焼きとご飯と味噌汁を食べた。おいしかった。

 パパはスポーツ新聞を読んでいた。

 「アキト、野球チームの練習に行くんか?」パパが言った。

 「せやで!野球チームの練習に行ってくるわ!」アキトは笑顔を弾けさせた。

 楽しみになってきた。胸がワクワクする。

 早くチームに入りたい。

 そして絶対にプロ野球選手になるんだ。

 「オレ、絶対にプロ野球選手になるから!」アキトはそう宣言すると、自宅から飛び出した。パパとママがうれしそうにニコニコ笑っていた。


 アキトは自転車に乗り、チームの練習場を目指した。商店街を抜け、国道を越えたところに練習場はあった。そこでヨシト君と待ちあわせしている。


 「一番、センター、仰木明人、背番号一」

 場内アナウンスでアキトの名前がコールされ、観客から声援が飛ぶ。素振りを2回してバッターボックスに立つ。相手のピーチャーはかつてメジャーリーグでMVPを取った名選手だ。

 第一球。 

 アキトはホームランをライトスタンドに打ち込んだ。

 ガッツポーズを決め、ダイヤモンドを一周する。

 スタジアムは観客の声援で最高潮に達した。


 アキトは頭の中でそんなことを空想しながら、自転車を飛ばした。


 チームの練習場にはヨシト君が先に到着していた。ヨシト君はなぜかソワソワしていた。緊張しているのだろうか?

 「おはようヨシト君」

 「おはようアキト君」

 二人は挨拶をしてから、チームの集合場所であるグランドのベンチに向かった。

 ベンチにはすでに選手やコーチ、監督などがいた。 

 二人はまず、監督に挨拶することにした。


 二人はグランドに入った。

 監督、コーチ、選手の視線が二人に集まった。

 アキトは一気に緊張してきた。心臓がドキドキする。額には軽く汗が出ていた。

 チラッとヨシト君の方を見たら、緊張して表情がぎこちなくなっていた。

 監督の前に立った。

 監督は帽子を取っており、髪をオールバックにしていた。目は細く、かなり怖い顔だ。

 アキトはあいさつしようと思うがなかなか声が出ない。

 ヨシト君も同じようだ。

 「えっと…えっと」アキトは頭の中がぐちゃぐちゃになった。えっと、こういうときなんて言えばいいんだろう。

 「おはようございますやろ?」

 監督がすごみのある低い声で言った。

 「あっ、おはようございます」アキトは言った。

 「おはようございます」ヨシト君もそれに続いた。

 監督が帽子をかぶり言った。

 「今日は見学やな?見てるだけでええからな。よう見とけよ。見て学ぶ。それが大事や」

 監督はそう言うと、キャプテンを呼び出し、集合をかけさせた。


 アキトはなんだか怖くなり、緊張が一気に跳ね上がった。

 隣のヨシト君は泣きそうな顔をしていた。


 なんとキャプテンは色白で目の大きな、ショートカットの女の子だった。

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