8月24日
8月24日、4人はキャンプ場で目が覚めた。4人の他に何人かの人がいて、彼らは目が覚めているようだ。彼らはすでに朝食を終えて、朝からのんびりしている。
3人は泊まったバンガローで目が覚めた。シゲの家で過ごすのもいいけど、ここで過ごすのもいいな。
「おはよう」
声をかけたのは鈴木だ。鈴木はすでに朝食を終えて、生い茂る木々を眺めている。
「鈴木さん」
「ラフティングしようか?」
鈴木は急に、秋平の近くを流れる川でラフティングをしようと提案した。いろんな事を経験してから、東京に帰ってほしい。森琴村の事を忘れないでほしい。
「い、いいけど、ラフティングって?」
「いかだで川下りをするんだよ」
「ふーん」
和夫は全く聞いた事がない。だが、観光の川下りのようなものかなと思った。
「夏の暑さなんて、吹っ飛ぶよ」
「本当?」
「うん」
約1時間後、チェックアウトを済ませると、4人は鈴木の車に乗って、森琴川に向かった。和夫は車窓から、キャンプをした道の駅を眺めている。いい思い出だった。この体験を東京の同級生に伝えないと。
和夫は、キャンプに来ていた人々の事を考えた。その人々は毛木野という集落の存在を知っているんだろうか? この近くにあった集落の人々の生活を知っているんだろうか?
1時間ほど走って、4人は川岸にやって来た。川岸には多くの人がいるが、ラフティングをしている人はそんなにいない。
「着いたぞー!」
4人は車から降りた。鈴木はすぐに準備を始めた。和夫と優太と智也はわくわくしていた。ラフティングって、どんなのだろう。楽しいんだろうか?
しばらくすると、ラフティングの準備が整った。鈴木は用意したゴムボートを川に浮かべた。
「これで漕いで進むんだよ」
鈴木は3人にオールを渡した。これで漕ぐのか。やった事がないけど、まるでカヌーのようだな。
4人はゴムボートに乗った。3人はとてもわくわくしている。
「行くぞー」
鈴木の声とともに、ゴムボートは進み出した。いかだは急流を勢い良く進み出す。4人は気持ちよさそうだ。
「気持ちいいー」
その時、汽笛が聞こえた。単行のディーゼルカーだ。ディーゼルカーの乗客はまばらだ。川岸にいる人の中には、手を振っている人もいる。彼らは、もうすぐ廃止になるかもしれないこの路線の事をどう思っているんだろうか?
「あっ、電車だ!」
和夫は左を見た。ディーゼルカーはゆっくりと渓谷に沿って走っている。昔はどんな列車が通ったんだろう。どれだけ長い編成が見られたんだろう。
「本当だ!」
優太と智也もディーゼルカーを見た。都会の電車よりずっと短いけど、四季折々の風景を見られる所がよさそうだ。
「おーい!」
和夫はディーゼルカーに向かって手を振った。すると、乗っていた唯一の乗客が窓から顔を出し、手を振った。和夫は嬉しくなった。
「手を振ってる!」
優太と智也も喜んだ。声をかけてくれるのはやはり嬉しい。
「いい風景だね」
帰り道、4人は今日の事を思い出した。東京に戻ったらラフティングの事も話さないと。
「今日はどうだった?」
「楽しかった」
「そうか。気に入ってくれてよかった」
だが、和夫は国鉄の路線の事が気になった。あの路線は結局廃止になるんだろうか? 鈴木も廃止反対運動していたが、それは効果があるんだろうか? 第3セクターに転換になるんだろうか?
「電車、どうなっちゃうのかな?」
優太も気になった。ここ最近、国鉄の赤字ローカル線の廃止が進められている。この路線も廃止になるんだろうか?
「俺にはわからないけど、廃止になっちゃうのかな?」
智也もそのニュースを見た事がある。中には第3セクターに転換された路線もある。だが、この路線は転換されるんだろうか?
「廃止になるかもしれないって言ってるけど、本当にそうなるかもしれないな。残念だけど」
鈴木は絶望していた。反対運動を展開しているけど、廃止はやむなしという所まで来ている。もう諦めている人もいるぐらいだ。鈴木も半ば諦めかけている。
「残念だね」
智也はがっかりした。モータリゼーションや過疎化の中で、こんな乗客の少ないローカル線は廃止されていくんだろうか?
「僕もそう思うよ。でも、それが時代の流れじゃないかな?」
優太も仕方ない事だと思っていた。そして、世界は生まれ変わっていく。それが自然のさだめなんだ。
「おじいちゃんと共に、思い出になっちゃうんだね。そして、おじいちゃんも、電車も、いなくなっても心の中では永遠にあり続けるんだね」
和夫はこの路線の事、そして、秋平の事を考えた。この路線も、秋平の集落も36年経てばなくなってしまうんだろうか? タイムカプセルを掘り起こす時にはまだこのままの風景であってほしいな。
その夜、和夫は縁側で星空を眺めている。昨日と今日、病院に行っていたシゲは戻ってきた。今はいつも通りテレビを見ているようだ。あと何日、この家にいるんだろう。和夫は気になりだした。
今日も星空は美しい。このきれいな星空を、東京の同級生にも教えたいな。
「和ちゃん?」
和夫は後ろを向いた。そこにはシゲがいる。
「夜空を眺めてるんだ」
シゲも星空を見上げた。今日も美しい。これから俺は空から和夫を見守る事になるんだな。そう思うと、少し寂しくなくなってきた。
「もうすぐ帰っちゃうんだね」
「うん」
シゲは寂しそうな表情を見せた。もう会う事ができないかもしれない。もうすぐしたらこの家を去って、病院に行ってしまう。いつかはわからないが、その時は刻一刻と迫っている。
「東京に行っても、この夏休みの事を、忘れないでね」
「うん」
2人は仲良く星空を見上げた。この星空をいつまでも忘れないでいよう。
「星空がきれいだね」
「うん」
和夫は、この夏休みの出来事を振り返った。反省するためにここにやって来たのに、こんなにも心に残る思い出になるなんて。ここにいると気持ちが落ち着く。もっとここにいたい気分だ。だけどもうすぐ東京に帰らないと。東京には夢と豊かさがある。だけど、秋平のような自然はない。東京と秋平、どっちがいいんだろう。わからなくなってきた。
「この夏休みを、忘れないでおこうよ!」
和夫とシゲは後ろを振り向いた。そこには優太がいる。どうやら優太も星空を見に来たようだ。
「優太くん・・・」
「お父さんやお母さん、僕の事を空から見守っているかな?」
優太も星空を見上げた。優太は星空を見て、笑みを浮かべた。星になった両親は優太をどんな気持ちで見ているんだろうか? ここに来て立ち直った優太を見て、喜んでいるんだろうか?
「きっと笑顔で見守ってると思うよ」
和夫は笑みを浮かべた。きっと喜んでいるだろう。だから、来月からは胸を張って東京でも頑張ろう。きっと両親もシゲも喜んでくれるだろう。
「そうだね。あんなことしたけど、ここに来て気持ちを切り替えることができた」
2人はここに来てよかったと思っている。東京であんな悪いことしてしまって、家庭を崩壊させてしまった。だけど、ここに来て自分を見つめ直す事ができた。もう何も悩む事はない。胸を張って東京に戻ろう。
「僕もだよ。2学期からはまた前向きに生きていこう。お父さん、お母さんの分も頑張って生きよう」
「いいこと言うじゃん!」
和夫は優太の頭を撫でた。優太は嬉しそうだ。シゲはその様子を嬉しそうに見ている。この夏休みに立ち直ってよかった。これで心置きなく天国に行ける。
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