8月12日

 8月12日、快晴の日々が続いている。昨日来た智也は1階で寝ていた。ファミコンのソフトを持ってきたようで、深夜までやっていたそうだ。シゲはそれを気にしていて、やめるよう言っていたという。


 和夫も智也も朝から勉強をしている。智也の方は和夫より進んでいないようで、やや焦っているようだ。


「おはよう」


 突然1階で声がした。翔太のようだ。登校日の後、旅行に出かけていたようで、ドラゴンクエストを全くやっていないそうだ。前回、呪文を間違えて入れず、一気に落ち込んでしまったが、旅行で気分を晴らす事ができた。またもう一度頑張ろうという気持ちになった。


 和夫と智也は2階から降りてきた。翔太だ。久々にゲームをしに来たようだ。


「あれっ、この人誰?」


 翔太は驚いた。あの子は誰だろう。見た事がない。


「智也くん。僕の同級生」

「ふーん」


 翔太は考えた。ひょっとしたらこの子をいじめたからここで夏休みを過ごす事になったんだろうか。でも、どうして来たんだろう。


「来てみようかなと思って」

「そっか。ここもいいとこでしょ?」


 翔太は笑顔を見せた。せっかく来たんだから、翔太はここのいい所を教えたいな。


「うん。空気は澄んでるし、気分が晴れそうだ」


 まだ来て1日だが、和夫が気分を取り戻したのもわかる気がしてきた。自分もそれぐらい気分を取り戻したいな。


「和ちゃんが立ち直ったのもわかるでしょ?」

「うん」

「で、どうしたの?」


 翔太は右手にゲームソフトを持っている。ドラゴンクエストではなく、自分が持っているソフトのようだ。


「こっちでテレビゲームやろうと思って」

「やるの?」

「うん」


 翔太は嬉しそうだ。久しぶりにゲームができる。ドラゴンクエストをまた1から進めて、29日までにクリアしないと。


「智也くんもゲームやるんだ」


 翔太は智也が左手に持っているゲームソフトが気になった。何を持っているんだろう。


「ああ。スーパーマリオブラザーズ持ってるよ」

「そうなんだ!」


 翔太は驚いた。あの世界的に有名なゲームを持っているとは。自分も持っていて、クリアした事がある。


「今からやろうと思ってたんだけど、やる?」

「うん。でも、ドラゴンクエスト進めたいな」


 翔太は何としても進めなければならなかった。復活の呪文を忘れてまた1からやり直しだ。何が何でも早くクリアせねば。


「そっか、俺、和夫同様クリアしたことあるよ!」


 智也は笑顔を見せた。智也は和夫より先にドラゴンクエストを購入し、より早くクリアした事がある。他の友達にもアドバイスをした事がある。


「教えて教えて! どうしたらクリアできるの?」

「わかった、教えるよ」


 智也は一旦勉強をやめ、ドラゴンクエストのアドバイスをする事にした。翔太は喜んでいる。和夫とはまた違ったアドバイスが聞けて、こっちならもっと進むかもしれない。




 昼下がり、和夫は2階で勉強をしていた。午前中、翔太が来るまでは2人で仲良く勉強していた。だが、翔太のアドバイスをするために下にいる。


 突然、電話の声が聞こえた。シゲは出かけていて家にいない。1階では智也と翔太がゲームをしている。2人は電話に出る様子がない。ゲームに集中しているようだ。


 和夫は受話器をを取った。


「もしもし」

「お母さ・・・、じゃなくてどなたですか?」


 電話から女性の声がした。だが、和子ではない。誰だろう。母からだと思っていた和夫はびっくりした。


「智也の母です。ところで、どなたですか?」


 電話の主は智也の母、明子だ。1人でシゲの家に向かった智也が心配そうだ。


「和夫です」

「まぁ、和ちゃん。元気にしてる?」


 明子は心配しているようだ。いじめがわかって謝りに行った時でも、智也はもちろん、和夫や優太も気にしていた。


「うん」

「よかった。あんなことやっちゃったけど、また2学期から頑張ってね」

「誰からの電話?」


 智也は振り向いた。智也は電話の内容が気になったようだ。


「お母さんから。智也がどうなったかなって。1人で和ちゃんに会いに行ったから、心配して電話したんだと思うよ」


 智也は嬉しそうな表情だ。遠い所まで来て、どうしているんだろうと考えていた。


「智也くん、無事に着きましたよ。今、家にいるんでかわりましょうか?」

「はい」


 和夫はやって来た智也に受話器を渡した。


「もしもし」

「智也、元気にやってる?」


 明子は安心した。元気でいるようだ。


「うん」

「それはよかった」

「とてもいい所だよ。昨日は花火大会を見てきたんだ」


 智也は昨日の夜の花火大会を思い出した。昨日はとても楽しかった。ぜひその楽しさを東京の友達に言いたいな。


「そう。楽しかった?」

「うん」


 智也は嬉しそうな表情だ。こんなに気にいるとは思っていなかった。


「私も行ってみたかったな」


 明子は生まれ育った山里の花火大会を思い出した。昨日、智也が見た花火大会もきっとそんなんだったんだろうか? きっと楽しかったんだろうな。


「今日はそっちの村の友達とテレビゲームをしてるんだ」

「そうなんだ」


 明子は安心した。そっちでも仲良くやっているようだ。夏休みが終わるまでに気分を取り戻してほしいな。


「楽しいよ」

「それはそれは。しっかりと心を休ませてから帰ってきてちょうだい。待ってるわよ」


 必ず元気になって帰ってくるはずだ。明子はとても期待している。


「ありがとう」

「それじゃあね」


 電話が切れた。智也はほっとした。明子は心配してくれている。明子のためにも頑張らねば。




 その夜、和夫と智也は夜空を見ていた。昨日も見たんだが、東京と比べて空が美しい。邪魔な建物が全くなくて、夜空がよく見えるからだろうか?


「おじいちゃん、どこかに出かける事が多いんだ。以前はそんな事なかったのに」


 和夫はいまだにその事が気になっていた。来年は生きているんだろうか? 今年の夏はずっとここで過ごす事になった理由は、もっとあるんだろうか?


「ふーん」


 智也は気になった。これは何かあるに違いない。智也は下を見た。その下ではシゲが寝ている。


「それに、引き出しから薬が見つかったんだ。一体何だろう」


 智也は考えた。薬とすると、病気に違いない。一体、どんな病気だろう。とても気になる。


「病気だろう」

「だよね。どんな病気なのか気になる」


 和夫は下を向いた。ひょっとして、自分のいじめが病気の原因だろうか?


「そんな気分が悪くなる事、言わんとこよ」


 智也は汗をかいていた。病気とか気分の悪い事は言わないようにしよう。いつもと違う夏休みを思いっきり楽しもう。


「そ、そうだね」


 和夫は黙り込んだ。知ってはいけない事だろうか? もしもがんで余命宣告されているなら、重大な事だ。和夫はますます気になった。

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