8月9日
8月9日、今日は登校日だ。久々に中学校に行く。大好きな友達や先生に会える。和夫は楽しみにしていた。
和夫は嬉しそうな表情で廊下を歩いている。とても懐かしい。夏休みが始まる前は毎日のように歩いた。
「おはよー」
誰かが話しかけた。優太だ。あの時会って以来だ。
「優太くん、元気だった?」
「うん」
和夫は笑顔で答えた。優太も笑顔で答えた。再会をお互い喜んでいるようだ。
「和夫、夏休み中、何してたんだよ。おばちゃんに聞いたら、いないって言ってたから心配してたんだよ」
後ろから誰かが声をかけた。智也だ。とても元気そうだ。いじめられたにもかかわらず、明るい表情だ。どうやら立ち直ったらしい。自分もそれぐらい立ち直りたいな。
「おじいちゃんとこに行ってた。普通は盆休みしかいないんだけど、なぜかいろと言われたんだ」
和夫は元気そうな表情だ。シゲとの夏休みをとても楽しんでいるようだ。
「まさか、悪いことしたから島流し的なこと?」
「そんなことないと思ってるよ」
和夫は島流しのような事だと思っていなかった。きっと傷ついた心を癒すためだと感じている。
「和ちゃん、いいこというじゃない」
智也は感じた。和夫は段々立ち直ってきた。これからもっと立ち直って、2学期になったらもっと成長した姿になるだろう。
「和ちゃん、最近変わってきた」
智也はうらやましそうな表情だ。自分もあそこに行けば、自分ももっと変われるんだろうか? 立ち直ったように見えるけど、まだまだ立ち直っていない。あそこに行けば完全に立ち直れるんだろうか?
3人は教室に入った。教室に入るのは何日ぶりだろう。何も変わっていない。
「和ちゃん、これからどうするの?」
「夏休みはずっとおじいちゃんの家にいるんだ」
優太もうらやましそうだ。一度行ったが、とてもいい所だった。ここなら自分も立ち直れそうだ。
「そうなんだ」
「今日の夜行列車でまた出発だよ」
今日の昼までの学校を終えてその日の夜、夜行急行に乗って再びシゲの家に向かう。東京にいられるのはあっという間だ。2人に会える時間を大切にしないと。
「ふーん」
「どうしたんだよ、智也」
智也は何かを考えている。優太はその表情が気になった。一体、何を考えているんだろう。ひょっとして、いじめの事をまだ考えているんだろうか?
「い、いや。何でもないよ」
その時、チャイムが鳴った。チャイムを聞くのも、何日ぶりだろう。
「あっ、始まる」
3人は席に座った。もうすぐ先生がやって来る。それにつられるように教室の子どもたちも席に座る。
今日の授業が終わり、3人は廊下を歩いている。今度教室に入るのは来月だ。その時にはどうなっているだろうか? 宿題は終わっているんだろうか?
「優太、大丈夫か?」
後ろから誰かが声をかけた。それに気づき、3人は振り向いた。担任の先生だ。
「うん」
優太は笑顔で答えた。だが、まだ立ち直っていない。来月になったら完全に立ち直れるはずだ。
「僕はもう大丈夫だよ」
両親の無理心中があって、何もかも失ったように見えるけど、だんだんその悲しみから立ち直ってきたようだ。
「転校することは?」
「ないよ」
転校の噂があったものの、近所の人々が世話をしてくれるそうで、一安心だ。これからもこの中学校に残る事になった。
「よかった」
先生も和夫もほっとした。もう会えなくなるんじゃないかと思った。シゲの住んでいる集落だけではなく、この東京でも近所づきあいは大切なんだなと感じた。
「和ちゃん、元気か?」
「うん」
先生は和夫の事も心配していた。いじめをしてしまって、いろんな人々を傷つけてしまったけど、また2学期頑張ってほしい。そのためにシゲの家に行って心も体もリフレッシュしているはずだ。そして、2学期になったら、大きく成長した姿になってほしい。
「まぁ、あんなことになったけど、頑張れよ」
先生は和夫の肩を叩いた。先生は和夫に期待していた。必ず和夫は大丈夫だと。
「わかった」
「おじいちゃんとこで気分をリフレッシュして、2学期待ってるぞ」
「うん」
先生は和夫の頭を撫でた。順調にリフレッシュしているようだ。
正午過ぎ、和夫は家に帰ってきた。父は出勤していて、まだ帰ってきていない。家には和子がいる。和子はすでに昼食を作り終えていて、あとは食べるのを待つだけだ。
「ただいま!」
和夫は玄関を開けて家に入った。和夫は元気そうだ。久々に学校に来れて嬉しかった。
「おかえりー。楽しかった?」
「うん」
和夫はダイニングを見た。ダイニングには食卓覆いをかけられた食事が並んでいる。今日のお昼は父の弁当に入れたとんかつの残りだ。冷蔵庫に入れておいて、帰ってくる直前にレンジで温めた。サクサク感はないが、そこそこおいしそうだ。
「食事の用意ができてるわよ」
「ありがとう」
和夫は一旦2階に向かった。鞄を置いてから昼食にしよう。
すぐに和夫はダイニングにやって来た。和子はすでに椅子に座っている。食卓覆いは取られている。
和夫は椅子に座った。昨日もそうだったが、家での昼食は楽しいもんだ。
「いただきまーす」
和夫は食事を食べ始めた。揚げたて程においしくないものの、まずくはない。
「今日はどうだった?」
向かいの席にいる和子は笑顔で話しかけた。久しぶりに一緒に食べる事ができて嬉しそうだ。
「楽しかった」
和夫は笑顔を見せた。久しぶりに友達に会えた。それだけでも嬉しい。長い間合わないと、こんなに嬉しく感じるんだろうか?
「そう。夏休みが終わるまでに自分を取り戻そうね」
「うん」
和夫は誓った。みんなのためにも、この夏休みで自分を取り戻そう。2学期にまた頑張るためにも。
夜7時、まだ外は明るい。夏の日の入りは遅い。
和夫が再びシゲの家に向かう時間だ。すでに俊介は帰っていて、家でのんびりしている。だが、自分はもうすぐ行かなければならない。
和夫はすでに荷物をまとめて1階にのリビングにまとめてある。
「和ちゃん、行こうか?」
和子の声で和夫は横を向いた。和子がいる。和子もすでに支度を終えている。
「うん」
その声とともに、和夫は準備していた荷物を持った。いよいよ出発の時間だ。夜9時に上野を出る夜行急行で出発だ。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい。元気でね」
和夫と和子は自宅を後にした。俊介は和夫と和子をじっと見ている。また会えたらいいな。その時には成長していますように。
2人は上野に向かう営団地下鉄の中で登校日の事を話していた。和夫は嬉しそうな表情だ。
「久々に友達に会えてどうだった?」
「楽しかった」
夏休みは何度も経験しているのに、今日は何倍も嬉しい。やはりシゲに家にいると友達と遠く感じる分、久々に会った時の嬉しさは大きいんだろう。
「そう。来月、元気な姿が見たいときっと思ってるよ」
「そっか。おじいちゃんとの生活で頑張らないとね」
「うん」
和夫は笑顔を見せた。もうすぐ上野だ。また東京を離れる時が近づいている。今度来るのは31日だ。その時にはどれだけ立ち直っているのか?
2人は上野にやって来た。上野は今日も賑わっている。この時間帯になると、寝台特急や寝台急行に乗る人々であふれている。彼らはキャリーケースや重いバッグを持っている。
21時近くになって、寝台急行がやって来た。ホームには何人かの乗客が寝台急行を待っている。彼らの多くは大きな荷物を持っている。これから旅に出るんだろうか?
2人は寝台急行に乗った。今度も3段式の寝台だ。すでに寝台の準備はできている。東京に帰る時もそうだったが、少し古い。
21時過ぎ、寝台急行は大きな汽笛を上げて上野を出発した。今度、東京に戻ってくるのは30日だ。それまで東京の夜景とはお別れだ。和夫は東京の夜景を名残惜しそうに見ている。絶対に成長して、またここに帰ってくる。
和夫は通路の折り畳み椅子に座り、東京での出来事を思い出した。久々に友達や先生に会った。いじめがあったものの、みんな元気そうだ。まるで何事もなかったかのようだ。そんな中、自分は何を悩んでいるんだろう。早く前に進まなきゃ。
寝台急行は山間に入り、家々の明かりが少なくなってきた。すでに車内は暗くなっている。和夫はベッドに入り、寝る準備をしている。
「おじいちゃん、元気にしてるかな?」
和夫は寝台のベッドから顔を出した。和子はその下のベッドにいる。
「きっと元気だよ」
和子は笑顔を見せた。薬は飲んでるけど、きっと元気にしているだろう。
「どうしたの?」
薬の事を考えると、少し落ち込んでしまった。何か悩み事があるようだ。
「おじいちゃんがいなくなったら、寂しい?」
「うん」
和子は悲しそうな表情だ。やはり悲しい。だが、もうすぐ来る。だが、永遠の別れは誰しも経験しなければならない事。それを乗り越えてこそ人は成長する。
「そうか」
和夫も薬の事を考えた。このままではシゲとの永遠の別れはそう遠くない事だと思っていた。
「ど、どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
母は不審に思った。ひょっとして、和夫はシゲの病気の事を知っているんだろうか? あれほど秘密にしていろと言ったのに。
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