第120話 入試本番
ついに、二次試験当日がやってきた。
昨日もう一度時刻を確認しておいた電車に乗り込み、二次試験会場に向かい、試験を受けるという予定だ。
「緊張してる、ゆうくん?」
駅のホームで電車を待っていると、結花が参考書を眺めるのを止めて、声をかけてくる。
「まあ、そりゃあね」
そう苦笑いをしながら返して、結花の表情を見てみると、結花の方が緊張しているような気がした。
「……結花こそ」
俺は頑張って明るい声を出そうと努める。
「……正直、ちょっと不安なんだ」
結花は遠くを見つめて言う。ふぅ、と大きく、白い息を吐く。
このままだと、結花は普段通りの力を出し切れずに終わってしまうかもしれない、と少し心配になる。俺も結花も、模試では比較的いい成績だったけれど。
「大丈夫だよ」
俺は結花の手を優しく握る。
「結花がずっと努力してきたの、1年生の時から見てきたから」
気休めにしかならないかな、と思ったけど、声をかけずにはいられなかった。
「ありがとう、ゆうくん。……嬉しい。試験、頑張れそう」
「そっか、良かった」
俺は安心して、結花を優しく見つめる。
結花は参考書に視線を戻したけれど、ちょっと経ってパタンと参考書を閉じる。
「手、握っててもらってもいい?」
「うん。俺もその方が頑張れそう」
試験前に見ていたところが問題として出たとき、記憶が飛んだら、それでペースが崩れてしまったりするかもしれない。
それなら、結花と一緒に大学行くんだ、って想いを高めたほうがいいような気がする。
「じゃあ、頑張ろう」
「うん。いつも通りね」
試験が始まる前に俺たちはお互いに目を合わせて、頷く。
あとはやってきたことの成果を出すだけだ。
見直しを終えると同時に、1日目の最終教科の試験終了が告げられた。
「ふぅ……終わったあ」
まあ、あともう1日あるんだけどな……と思いながら、椅子から立って思い切り体を伸ばす。
今日の教科は、わりと実力を発揮できたと思う。あとは明日の教科で転ばないことだ。
「夜ご飯、どうする? 私が作ろっか?」
「ん……食べたいけど、結花の勉強時間が減ってしまったらいけないから、外食にしとかない?」
「たしかに、ゆうくんの言う通りかも」
そして俺たちは、自宅への最寄り駅から出てすぐのとこにあるレストランに入る。
「今度、一緒にお菓子作る?」
「いいね、何がいいかなあ。今年はクリスマスケーキ作れてないし、ケーキはどう?」
「ゆうくんの意見、採用します」
他愛もない会話を俺たちはする。入試関連の会話はなるべくしたくないな、と思って、そのことは口に出さなかった。
2日目の試験がはじまる。合図とともに、勢いよく問題用紙の1枚目をめくる。
……これ、前に結花に教えてもらったところだな。
考えがまとまり、俺は記述を解答欄に素早く書いた。取れるところは確実に取らないと。
最後の科目である英語を解き終わる瞬間まで、気を抜くわけにはいかない。
「お疲れ様、結花」
家に帰ってきて、玄関で結花を抱きしめる。普段通りの、穏やかな日常が戻ってくるんだ、と実感が湧いてきた。
外は息が白くなるぐらい寒かった分、結花の暖かさをより感じる。
「ゆうくんも。……しばらく、このままで居させて?」
「もちろん」
結花は、試験勉強から解放された安堵からか、一筋の涙をこぼす。
心の奥深くまで温まるぐらい長く、俺たちはぎゅっと密着していた。
「ゆうくんのおかげで頑張れたから……ほんとにありがとう」
「俺の方こそ、お礼を言いきれないぐらいだよ」
「……大学は、一緒に通おうね」
「も、だよ。結花?」
「あはは、そうだね。ゆうくんの言う通り」
結花に笑いかけて言うと、結花も柔らかな微笑みを見せて返す。結花も俺も、何日かぶりに上手く笑えた気がした。
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