第117話 勉強祭りの冬休み
文化祭が終わると、俺たちも周りも受験勉強に本腰を入れ始めた。
高校最後の定期テストも終わり、もう小雪が舞うような季節がやってきた。
「冬休み、どう過ごそうか……」
俺は頭を抱えながら翔琉に言う。ってか、特進クラスからエスカレーター進学ってわりと珍しい気がする、翔琉たちだけか?
「また勉強合宿する、とかは?」
「あー……どうしよか」
俺は机に突っ伏して言う。もう勉強疲れてきたよ……。
今追い込まなくていつ追い込むんだ、って感じだけど。
「ん?」
ピロン、とスマホから音が鳴る。あれ、俺勉強の妨げになるからって通知切ってなかったっけか。言うまでもなく結花からの通知と、流石に親のは切ってないけど。
「年末、家で勉強する?」
とメッセージがあった。誰から送られてきたんだ!? 結花か? 結花だよね?と確認すると、親からだった。
……流石に結花じゃないか。2人きりであの部屋にいたら、イチャイチャせずに何をするんだ、って雰囲気になりそう。
「んー……結花も一緒に行っていいの?」
「もちろん! 未来の花嫁でしょ?」
恥ずかしいこと言わないでよ……と思いながら親になんて返そうか考えると、結花がやってきた。
「どうしたの?」
「い、いや! なんでもないよ?」
俺はさっとスマホの画面を消して隠す。文化祭でほぼプロポーズしたみたいなもんだから、恥ずかしがる必要はないような気もするけど。
「ん?」
結花はきょとんとした表情をして、俺の仕草をいぶかしがる。
「年末、俺の親が家で勉強しないかー?って言ってきて。……家事の負担も減るから、俺は行こうかな、って気持ちなんだけと、結花はどう?」
最近は家事は半々ぐらいで分担してるけど、結花は自分の家のこともあるだろうし。
「お邪魔していいの? それなら、私も行きたい!」
……親には、俺たちを連れて出かけないように言っておかねば。どこかへ行きたいのはやまやまなんだけど。
「いつから行く? 親は何日いてもいいって言ってるんだけど」
「んー、今週末はお母さんが家にいるらしいから、たまには一緒に過ごそうかな、って思ったり」
「そっか……!」
久しぶりに結花のお母さんのこと聞いたな。良い関係を築けてるのなら良かった。まるで自分のことのように嬉しい。
「じゃあ、週明けから行こっか」
「うん、ありがとう! 楽しみだね」
そして、月曜になって、俺たちは電車に乗り実家へと向かう。
俺も結花も、単語帳を眺めながらの旅になる。……辛い。
「「いただきます」」
お昼ごはんの時間が、唯一の癒やしだ。
結花は美味しそうな駅弁を食べている。俺もそういうのにすれば良かった。
さっきはお腹空いてないかな、って思ってたので、おにぎりとバウムクーヘンしか買ってない。
「ゆうくん、どうぞ」
俺の視線に気付いたのか、結花は箸で卵焼きを挟んで俺の方に近づけてくる。
……そんな物欲しそうな目してた? ちょっと気まずい。
俺が固まっていると、結花は箸をさらに近づけて促してくる。
「ん、はむっ」
結局、俺は卵焼きをいただいた。柔らかくて甘い。
「バウムクーヘン、一口もらってもいい?」
結花はいたずらそうに、にやっとしてそう言う。
「もちろん」
バウムクーヘンが狙いだったのかもしれない。
美味しそうに一口分のバウムクーヘンを頬張る結花を見ると、その表情をまだ見ていたくなって、半分ちぎって渡した。
「いいの?」
「うん、どうぞどうぞ」
ランチタイムはめちゃくちゃ楽しかった。……ランチタイムは。
そのあとはずっと勉強ばっかりしていた。いつの間にか、乗り換えのタイミングがやってきた。
乗ってる電車が変わっても、やることは同じだ。
実家の最寄り駅までたどり着いて、俺たちは下車する。家までの道のりも、結花と話せる貴重な時間だ。遠回りしようかな。
「久しぶり、結花ちゃんと優希」
ちょっとだけ遠回りをして実家までやってきた。
たぶん数分しか変わらないけれど。
玄関まで出てきた親が俺たちを迎え入れてくれる。
「勉強に集中してくれたらいいからね? 特に結花ちゃん」
「いいんですか?」
「うん、食べたいものがあったらリクエストしてね? じゃあ、勉強頑張って」
「うへぇ……」
結花がいることで、ぎりぎりメンタルは保たれるか……。
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