第115話 高校最後の文化祭①

「文化祭、高校最後の行事だね」


 「うん、目一杯羽伸ばそう?」



 ダブルデートから帰ってからは、ひたすら勉強!勉強!だった夏休みが明けて2週間。


 高校生活最後の文化祭が幕を開けた。


 ……まあ、羽を伸ばすって言っても、出店の仕事はあるんだけどね。


 男子は基本的に射的の出店を担当しているんだけど、俺は結花の推薦でたこ焼き屋台のシフトに入った。



 俺は結花の隣で、たこ焼きを箸でつついてひっくり返していく。

 つい最近、たこ焼き器で鈴カステラを結花と一緒に作ったので、その時と同じ感覚だ。


 それがいい予行演習になったのか、あっという間に全てのたこ焼きをひっくり返すことができた。


 たこ焼き器2つ分を管理するのは、流石に難しかったけど。



 「料理もできるなんてすごいね、一条くん!」


 「ま、まあね?」



 クラスの女子が、俺の作業の様子を眺めて褒めてくれる。一年前もこんなことあったような。たぶん去年は同じクラスじゃなかったんだろう。


 ぶっきらぼうに言うのも違う気がして、少しドヤり気味に返してみる。




 「……私の方が先に知ってたんだけど」



 結花は、俺との距離を縮めて、すねたように言う。



 「結花のおかげだから」


 「う、うん。どういたしまして」



 結花は俺には聞こえないように言ったつもりだったのか、俺がそう返すと一瞬驚いたような顔になる。

 そのあとすぐ、嬉しそうな表情に変わる。


 ジェラってる結花も可愛いな、なんて思ってたら、俺たちの様子を天野さんと橘さんが後ろで眺めていた。


 もちろん、天野さんはニヤニヤして、橘さんは羨ましそうだ。



 「最近、一条くんの方が恋愛上手になってきてる気がするなー」


 「そう?」



 結花が接客をしているタイミングで、2人が近寄ってきた。俺はたこ焼きをひっくり返すタイミングを見計らいながら言う。



 「それだけ、結花が一条くんに素を見せてるってことなのかもしれないけどね」


 「そう言われると嬉しいな」



 俺は自分でも、ニヤッとしかけてるの絶対抑えられてないよな……と思いながら言う。



 「結構湯気出てるけど、大丈夫なの?」



 横からたこ焼き器を眺めていた橘さんが心配そうに言う。この人、普通に優しいところあるんだよなあ。

 ……って!



 「あぶねえ……」



 俺は2人にも協力してもらって、なんとか焦げる前にたこ焼きを全てひっくり返し終えた。



 「一条くんも恋愛上手ってわけじゃないみたいだね」


 「うっ……」



 化けの皮がはがれてしまった。



 「似たものどうしでいいんじゃないかな?」


 「結花と似てるの……羨ましい」


 

 俺はくすっと笑ってから、たこ焼きの焼き加減を確認し始めた。


 笑ったあと、思い切り横腹を突かれたのは痛かった。やっぱ優しくねえよ。




 「お疲れー」


 1日目の作業が終わり、俺はエプロンを脱ぐ。



 「一条くん、このたこ焼きってもらっていいの?」


 「おー、いいよ」



 時間ぎりぎりまで人が並んでいたので、最後まで作り続けていた分だ。結果的には余ってしまったけど。



 「ん……美味しい」


 「お祭りで買うのぐらい美味しい! もっと食べたいな?」



 なかなか高評価をいただけたみたいだ。



 「あ、でも……5個ぐらい残しておいてもらえるかな? 食べてもらいたい人がいるから」


 「あ、うん!」



 俺はたこ焼きをパックに詰めて、このやり取りを聞いてたであろう結花に渡す。



 「あ、ありがと。……あとで一緒に食べよう?」


 「うん!」



 皆の前で渡したので、いつもの数倍恥ずかしそうに結花はパックを受け取る。


 

 「あんた、文化祭期間中だけは輝いて見えるね」


 逆にあなたは文化祭中、俺に毒を吐きすぎていませんかね。



 「結花にかっこいいとこ見せたいからね」


 「……ドヤ顔すんな」


 「うぐっ!?」



 また横腹に攻撃を食らった。橘さんはしてやったり、みたいな顔をする。理不尽……。



 「まあ、明日は結花と一緒に楽しんできなさい? ……私も、あんたのことは一応応援してるんだから」


 「唐突にデレないで、怖いよ? ……いえっ、なんでもありまs」



 最後まで言わせてよ……。



 「ゆうくん、一緒に食べよー? あ、花奈も来て?」


 「うん、行くよ! ほら、一条くん」


 「……もちろ、ん」


 俺は横腹を抑えながら返事をする。


 今日の結論、まじで橘さん怖い。

 明日はいっぱい結花に癒やしてもらおう……と決めた。




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る