第114話 ダブルデートの帰り

「今日は帰るだけかあ……」



 俺は窓の外の朝日を眺めながらぽつりと呟く。現実に引き戻されたくない……!



 「おはよ、ゆうくん」



 結花は、昨日の朝と違って、俺より先に起きててホテルに備え付けのコーヒーを淹れてくれていた。



 「一緒に飲も?」


 「うん、ありがとう」



 結花は俺の隣に座って、窓の外の景色を見ながらコーヒーを落ち着いて飲む。



 「帰りも楽しもうね?」


 

 俺が行きの道中、ちょっと恥ずかしがって結花とあんまりイチャイチャしようとしていなかったことを知ってか知らずか、結花は言う。



 「そうだね。楽しまないと損だよね」



 あの2人は普通に俺たちの前でもイチャイチャしてるし……恥ずかしがるのがなんだかおかしく思えてきた。


 コーヒーを飲み終えると、結花は俺に寄りかかってきて、体を預けてくる。


 帰る前は、これぐらいのイチャイチャでいいか。




 7時になろうか、というころに翔琉たちの部屋を訪ねて起こしに行く。



 「んー……おはよう」



 ふたりは2日連続で眠そうに起きてくる。まったく、何時まで起きてたんだよ。たぶんイチャイチャラブコメやってたんでしょうね。


 俺たちはホテルを後にして、近くの駅を目指す。


 翔琉と天野さんは俺たちの前を行く。



 「……結花」



 俺は結花の耳元で囁く。結花も俺の意図に気付いてくれたみたいで、俺の方に手を伸ばしてくれる。


 翔琉たちの後ろで、俺たちはそっと手を繋いで歩く。


 しばらくして、前のふたりがこちらを振り向く。やっぱりラブコメセンサー搭載してるだろ。



 けど、俺は結花の手を握ったまま離さない。初日の俺なら恥ずかしがってたかも。それで結花にむーっとした表情されるまでがセット。



 「私たちも、手繋ご?」



 天野さんは翔琉を見上げて言う。翔琉は俺と身長あんまり変わらないけど、天野さんと並ぶと急に高身長な完全無欠イケメンに見えてくる。



 新幹線に乗り込み、行きと同じように、俺は結花の隣に座る。


 名古屋を過ぎると、翔琉たちふたりは眠ってしまった。どんだけ眠るんだよ。


 

 「ふたりは寝ちゃったけど……楽しもう、ゆうくん?」


 「もちろん。最後まで遊びつくそう」



 俺はバッグからトランプを取り出して、結花と一緒にババ抜きをする。ふたりでやったら最後の心理戦が面白い。



 「んー……」



 俺がジョーカーとハートのAを持っていて、結花はあと対になるA1枚を持っているだけだ。



 結花は俺の表情の細かな変化を見抜こうと、2枚のカードに交互に触れて俺の方を確認している。



 「……こっち、かな」



 結花は俺の表情を観察し終えたみたいで、勢いよく片方のトランプを引き抜く。



 「ふふっ。結花もまだまだだね?」



 狙い通り、ジョーカーが持っていかれた。



 「やられた……」


 

 けど、俺がもう一度引いて、Aを当てる必要がある。これは難しいぞ……。



 「こっちだ!」



 俺は勢いよく1枚引き抜く。



 「……もう一回やるよ、ゆうくん?」


 「あはは、何回でもいいよ」



 結局、結花が勝つまで俺たちはババ抜きをした。相手の表情を観察するのは俺の方が得意なのかもしれない。

 ……たぶんそんなことはない。



 「楽しかったね」


 「うん。ほんとに」



 俺たちは駅で解散する。



 「ダブルデートだったから皆のいろんな一面が見れたかなー。特に、結花とか」


 「え、私?」



 天野さんが、思い出を振り返るように呟く。



 たしかに、結花が天野さんや翔琉と話してるとき、どんな感じなんだろ……と思って見てはいた。


 そうしていると、翔琉とか天野さんが前言ってたみたいに、ほんとに俺だけにしか見せない表情を、結花は見せてくれているような気がした。


 俺の思い違いだったら恥ずかしいけど。



 「またこんな感じで遊ぼう、翔琉と天野さん」


 「うん!」



 間違いなく収穫があったダブルデートだった。








 

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