第108話 体育祭が終わって

準備期間から濃密(?)だった高校最後の体育祭が終わった。


 あと残された学校行事イベントは、文化祭と卒業式だけか。


 そんなことを考えながら、昼休みに飲み物を買い足すべく売店に向かっていると、担任に呼び止められる。



 「今日、放課後時間あるか?」


 「まあ、あります」


 「じゃ、残っててもらってもいいか?」



 ……結花と一緒に帰れない、ってわけか。

 嫌だなーって思ってたのが顔に出ていたかもしれない。



 放課後。職員室とかいう魔界に連れてこられた。職員室って、悪いことしてなくてもなんだか息しづらいよな。

 「まあ、リラックスしてくれ」と担任が笑いながら言う。早く家に帰ってリラックスしてえよ……。



 「隣の一ノ瀬と喋ってるときはいつも締まりのない顔してるわりに、成績は順調そうだな」



 「締まりのない……?」



 最初の言葉がそれとか、普通にショックなんだが。ナチュラルにディスらないで?



 「難関大にチャレンジするんだろ?」


 「その予定です」



 最初はエスカレーターで大学行ければいいや、と思って付属校選んだんだけどな。

 結花と同じ大学行けそうだから、勉強してて良かった。


 そのあとも色々聞かれた。「一条は頑張ってるから、そんなに心配してないぞ」って言ってくれるのはありがたいけど……なら早く帰らせて?

 可能な限り、早く帰りたそうなオーラは出した。



 「ふぅ……」



 やっと職員室を脱出できた。

 空はだいぶ暗くなりつつある。



 「久しぶりにぼっちだな」



 遅くなりそうだったから、結花には先に帰っててもらうように伝えていた。


 俺は周りの景色とかを見ながら一人で歩く。 


 いつもは気に留めないような、通学路沿いの店とかを知れた。今度ふたりで行ってみるのもいいな。


 一人もいいことはあるけど……結花がいるから、進んで一人で帰ろうとは思わないな。



 鍵を玄関のドアに差し込んで、回して開けようとする。

 ……あれ、朝鍵かけ忘れてたのかな。


 少し違和感を感じながらドアを開けると、なぜかエプロン姿の結花が出迎えてくれた。



 「おかえり、ゆうくん」



 結花は料理の途中だったのか、お玉を持っている。って、え?


 俺が状況を掴めないでいると、結花はいつか渡したキーケースを持ってくる。



 「前、ゆうくんから合鍵もらってたから、先に帰って、夜ご飯作ってて驚かせちゃおうかな、って」



 結花はいたずらそうに笑う。

 こういう、案外いたずら好きなところも可愛いな、と思う。



 「ちょうど夜ご飯できたとこだから、一緒に食べよう?」


 「さっきからいい匂いするなー、って思ってたんだ」



 今日のメニューは、野菜の肉巻きとコーンスープのようだ。



 「美味しい!」


 「ふふっ、そう言ってもらえて嬉しい」



 結花は野菜の肉巻きを口に運んだ俺の表情を見てから、夜ご飯を一緒に食べ始めた。


 結婚したときの光景みたいだな、と思う。俺が早く帰ってくるときもあると思うから、そんなときは結花が帰ってくる前に夜ご飯作れたらいいなあ。



 「ありがとう、久しぶりに一人で帰って、まあ……正直寂しかったんだよね」



 俺は笑いながら結花に胸の内を告白する。



 「だから、帰って結花がいてくれて、驚いたし、嬉しかった」


 「じゃあ、私の作戦は成功ってことだね」



 俺の家の食卓は、今日も幸せに包まれている。

 




 「もうすぐ夏休みだよなー」


 「あんまり実感ないけどなあ」




 昼休み。次の時間の小テストに向けて勉強していた俺はため息をつきながら言う。


 翔琉は内部進学狙いだから、正直俺よりかは勉強しなくても大丈夫だ。


 ……正直羨ましい。



 「前、勉強合宿するとか言ってたじゃん」



 そんな俺の空気を察したのか、翔琉は慌てて声をかける。



 「うん。行くしかねえな」



 家の机でずっと勉強できるとは思ってないし。



 「俺たちも連れてってくれ」


 「それはちょっと……厳しいかな。2人ともあんまり勉強しないだろ?」



 天野さんも内部進学だろ。2人がいたら、俺も結花も遊びはじめてしまいそうな気がする。


 ……結花は、ちゃんとやろうと決めた分は終わらせてから遊ぶな。俺だけ遊び呆けてそう。



 「それはそうだな」


 「てか、結局付き合ってるの?」



 まーた、まだ告白してない、とか言うんだろうな。



 「うん。実は体育祭のあとにな……」



 翔琉は爽やかに笑って答える。



 「そうか、まだなのか。早く告白しろよー」




 脳に翔琉の言葉が伝わらず、つい反射で口が動く。まったく、ヘタレなんだからさー。




 「いや、付き合ってるってば」


 「……はい?」




 ようやく俺の神経はきちんと信号を伝えはじめたらしい。翔琉がようやく付き合いはじめたか。



 「おめでとう。ラブコメライフ満喫してね?」


 「おお、ありがとう」



 悲願を達成した翔琉はとても嬉しそうだ。



 「じゃあさ、夏休み遊びに行けたら行こう。俺と結花が休憩したくなったとき」 



 勉強合宿は一緒には行けないけど、遊び目的ならむしろいつでも行きたい。一回ダブルデートしてみたかったんだよ。



 「楽しみにしてる」



 親指をぐっと立てた翔琉に、俺は頷いて見せる。



 「2人とも、なに話してるのー?」



 天野さんが結花の手を引きながら現れた。今日もゆりゆりしてますね。

 売店でなにかしら買ってきたみたいだ。


 そして、結花は俺の隣の席に、天野さんは翔琉の隣の席にそれぞれ腰掛ける。



 「夏休みのこと話してたんだー」



 翔琉が天野さんにそう返す。



 「ゆうくん、前に勉強合宿するって言ってたね」


 「うん、俺は毎日でもいいかな」



 そう言うと、結花は夏休み、待ちきれないねと言って微笑む。



 「結花と一条くんみたいに私たちも合宿しようよ」


 「お、いいね」



 2人は勉強合宿じゃなくてイチャイチャ合宿になるだろ……と思いつつ、翔琉たちのやり取りをついニヤニヤしながら聞く。



 「どこでやろっか? 伊豆?」


 「またあそこに行けるのか。あそこなら、勉強以外も楽しめそうだね」


 「勉強がメインだからね、ゆうくん?」



 結花は、テンションが既に上がっている俺に微笑みかけながら言う。



 「でも、高校最後の夏休みが楽しみなのは私も一緒」



 結花も夏休みイベントを前に、胸を高鳴らせているようだ。



 「あと、勉強の息抜きにこの4人で遊びに行けたら……なんて」



 俺はさっき翔琉と話してたことを呟いてみる。



 「「いいね!」」



 結花と天野さんの反応も良かった。夏休みは勉強合宿&息抜きで!

 ……息抜きがメインにならないように気をつけます。














 








 




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