第103話 高3スタートと誕プレ選び

 「今日から、私たちも3年生なのかー」


「なんだか早いよね」




始業式の日、俺たちはいつもよりちょっとだけ早く学校へと向かう。



「クラス替え、どうなるんだろう」



2年の時の成績でシビアに判断されるから、こないだまでいたクラスメイトがいるとは限らない。



「まあ、私はゆうくんと一緒だと思うから、心配ないけどね?」


「そうだね」



結花はいたずらっぽく笑いながらそう言う。

……確かに、その点については心配いらないな。



沖縄から帰ってきてからも、結花との距離がなんだか近いような気がしてずっと心臓がばくばく鳴っている。


なにかしらのトレーニングになってそうだ。



「それに、花奈たちもいるだろうから、今年のクラスも楽しみだね」


「いつものメンバーがいるのはいいよね」



高3でもどたばたした日常を繰り広げそうな予感……!



「もう学校か、結花と登校してたらほんとに早く着くなあ」


「話してたらあっという間だよね」



俺たちは笑い合いながら校門をくぐる。


そしてクラス替えの掲示を見ーー



「優希~~!」



翔琉が猛スピードで走ってきて、俺の目の前でブレーキをかけて止まる。



「ふぅ……お、俺特進クラスらしいぞ!? 優希たちと一緒だ」



走ってきて荒くなった息を整えると、よほど嬉しかったのか、翔琉は勢いよく話し始めた。



「今年も楽しくなりそうですね!」



結花はそんな翔琉を見てそう声をかける。その声は弾んでいた。



「うん。 天野さんと同じだし……優希たちも眺められるし……最後の1年間、楽しみっす」



真ん中の言葉はたぶん俺にしか聞こえてない。



「あ、せんぱいだー! なんだ……先輩たち、か」



姫宮が茶髪を揺らせながら走ってくる。


おい、後半。ちゃんと聞こえてるぞ?


結花は姫宮の姿を確認すると、さっと俺と姫宮の間に立って姫宮の進路を塞ぐ。

 ……そんなに警戒しなくても、俺はそっちに行かないけど?



「2年になってちゃんと成長した私のこと、見ててくださいね?その……」



姫宮が結花をかわして俺になにか囁こうとしたらしいけど、結花に制服の首のとこを掴まれてじたばたしている。


端から見ればなんだか微笑ましいような光景だ。端から見れば、ね。



「新しいクラス行こっか、ゆうくん?」



姫宮を解放した結花に手を引かれて、俺は新しいクラスへと向かう。


翔琉も少し離れて俺たちについてくる。


教室には、いつものメンバーがもう集まっていた。



「おはよー!」



天野さんの元気な声がする。今年も賑やかになりそうだ。



「……」



姫宮は廊下のドアのところからじとーっと羨ましそうな視線を向けてくる。


……まあ、君はどこかしらでかき乱してくるだろうから心配いらないよ。


俺としては心配だけど。



「結花は春休みどうだった?」


「もちろん楽しかったよ! ゆうくんと沖縄に行ってね……」



楽しそうに春休みの思い出を話しているのが聞こえて、俺はついニヤニヤしてしまった。

 







「お待たせ、翔琉」


「全然待ってないから、大丈夫だよ」


「……なぜ俺は朝からラブコメテンプレを翔琉とやってるのだろうか」



俺は頭をかかえながら言う。



「優希が一ノ瀬さんへの誕プレ選ぶから、ついてきてくれないかって言ったんだろ?」



……そうだけどさ。


朝からラブコメテンプレやって?とは頼んでない。

あと妙にクールな感じで言うのやめて? 思い出したら吹き出しそうになったんだが。



「まあ気を取り直して、行きますか」



翔琉はそう言うと、歩き始める。……今日俺メインなんすけど。


「どういうのが良いとかあるのか?」



様々なお店を見てまわっていると、翔琉は俺に心配そうに尋ねてくる。


さては翔琉、俺が計画なしに店を回ってると思ってるな? ……ちゃんと計画はある。



「結花に似合って、俺も着れるような服を探してるんだ」


「ペアルック……!?」



なんでペアルックが必殺技みたいな響きしてんだ。



「彼氏がしてみたいことランキングトップ5には間違いなく入るな。繋がりを感じられてむずがゆいような喜びが……ま、俺も付き合ったらぜひやりたい」



翔琉は謎の早口で前半を言い切り、正直な本音が最後に出てきた。



「じゃあ早く告白しよう」


「……」



分かりやすく静かになるイケメン、本当に面白すぎる。



「こんなのはどう?」




暖かそうなパーカーを指差して、翔琉は言う。


確かに、結花に着てほしいなとは思う。


けど、暑くなってくると出番が減りそうだ。




「んー、それもいいけど……パジャマとかどうかなって」


「なるほど……って泊まりの時だけじゃないか」


「いや……まあ……結構泊まったり旅行行ったりするから」




答えてて恥ずかしくなってきた。



「普通に羨ましいっっ!」



翔琉は両の拳を握りしめて言う。俺も立場が逆だったら、たぶん同じリアクションしてたわ。



冬だったら、もこもこしたパジャマを絶対買ってた。それを着てもらってぎゅっとしたら、気持ちよかったに違いない。



「こんなのは?」



翔琉はベージュの半袖シャツを見つけ出して俺に渡す。



「おお、着てみる」



俺は試着室に入って、さっと試着してみる。



「どうでしょうか」



翔琉は無言で親指を立ててくる。そのキメ顔すんなし。

俺はこれは買いだなと思いつつ、半袖シャツをたたむ。



「上から羽織るのも買っておこうかな」



さっき見たパーカーよりも多少風通しの良さそうな生地のを手に取る。


シャツ+パーカー姿の結花を想像してみる。

チャック付きの、ねずみ色のパーカーで、あえてチャックは閉めないでいてほしい。

俺のベッドの上にちょこんと座っててほしいな。

 ……後ろから抱きしめて暖めたい。

 


「……これも買いだな」



そう呟いてからレジに向かいかけて、俺は足を止める。



「どうした?」


「いや、これも……ありだなと」



俺は猫耳つきのパーカーを指差す。俺が着るとなると微妙だが。



「もう買っちゃおう」



俺は、腹を決めてカゴに猫耳パーカーを追加する。ばいばい……諭吉。また会おう。



「喜んでくれるといいな」


「そうだな、あとなにかしらサプライズもしたいな」



そういうわけで、俺たちは買い物を続けた。


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