第102話 旅行の終わりに

俺たちはホテルに戻ってきて、お風呂まで済ませた。


お風呂から上がって、結花はあえて部屋の照明を落とし、部屋を真っ暗にする。

 そして、俺の指に自分の指をゆっくり絡めていって、ぎゅっと俺の両手を握る。



「こっちの方が、なんだかどきどきしない?」


「そ、そうかも」



結花の表情は目が暗さに慣れてなくてまだ見えないけど、おそらく小悪魔的微笑みを浮かべているに違いない。


……ほんとにもう小悪魔じゃなくて悪魔なのかも。

尻尾はどこにありますか……? 角も生えてますよね?


そして2人でベッドにごろんと転がる。

もう目が慣れてきて、お互いに顔が見えるようになってきた。……角は生えてなかった。



「キス、してもいい?」


「うん」



俺たちは横を向いてお互いの顔を見る。


結花は大きな瞳で俺をじっと見つめる。……そんなに見られるとなんだか照れるな。


結花は昨日よりも、そっと優しくキスをする。唇の柔らかさとか、甘い空気とかがより味わえた。



2回目が来るかな、と思って俺はそっと瞼を閉じて待っている。

けど、なかなかその時が来ない。



「すぅ……すぅ……」



結花は気持ち良さそうに、夢の世界にへと入っていっていた。今日も遊びまわったし、そりゃそうか。



今の寝場所が悪かったのか、もぞもぞ動いて俺の腕の上に頭をのせる。



「えへへ……」



結花は良い夢を見てるのか、幸せそうに微笑んでいる。


イチャイチャしてこようとする結花ももちろん可愛いけど、こういう自然体な姿も、ぎゅっと抱きしめて守りたくなるような可愛さだ。




……俺も、結花と一緒に寝てしまおうかな。


少し時間は早いような気がしたけれど、俺はそっと目を閉じる。


 


 やっぱり、結花を抱きまくらみたいに抱きしめて寝ようかな。それぐらい、いいよな?


 ゆっくりと指を絡めているのをほどいて、結花の体に腕を巻き付けてから再び目を閉じた。







翌日。

俺たちはだらだら寝てしまって、時間ぎりぎりに空港にたどり着いた。



「危なかったね」


「うん、ぎりぎりセーフ……!」



もう少しで島に置いていかれるところだった。



「沖縄、楽しかったね」


「うん。……なんか結花がいつもより甘々で、ずっとどきどきしてたな」



俺はそう笑いながら結花に言う。ジェットコースターかってぐらいに俺の心は揺れていた。全然怖くはないけど。



「それなら、作戦成功かな」



なんとなく結花の言葉に含みがあるような気がした。



「作戦?」


「……うん。私たち、もうすぐ高校3年生になるよね」


「うん、あんまり実感湧かないけど」



ただ、学校で2年の3学期にずっと『3年0学期』とか言われてその度に陰鬱な気分になったのは覚えてる。



「それで、こういう風に旅行したりとかできなくなるのかなって」



結花は寂しそうに笑って、飛行機が離陸して遠くなっていく沖縄の青い海をぼーっと見る。



「だから、今のうちに一杯思い出作っておこうと思ったんだ」



そういうことだったのか。結花は、自分にも、俺にも思い出をあげようとしてたのか。……前言撤回。やっぱり天使だな。



「そっか。……気持ちはすごくわかるけど、結花は1つだけ間違ってるよ」


「……え?」



結花はぽかーんとした表情で俺の方を見る。



「3年生になっても色々行けるよ、まあ流石に冬休みは無理だろうけど。 例えば……夏休みに勉強合宿とか? あと卒業旅行も行きたいよね」



……高3の勉強合宿だから、1年の時の勉強会ほど甘くないかもだけど。


結花は俺の言葉を聞いて、光が差してきたような明るい表情をする。



「ほんとに?」


「うん、約束する。成績ずっとキープしないといけないな、俺」


「約束だよ?」


 「もちろん」



結花は、指切りしよ?って俺に誘ってくる。


こういう、不意に見せる子供っぽいところだよな。ほんとに可愛らしい。


俺はにやけそうになるのを抑えて、口元をぷるぷるさせる。


今回の旅行も、あっという間だったけど……たくさん思い出ができたな。






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