第100話 お風呂からの……?
「今度こそ着いたー!」
バスを降りた俺は大きく息を吸って、肺まで行き渡らせた空気を吐いてから言う。南国の空気が、体いっぱいに広がるのを感じる。
「ほんとに楽しみだね」
俺たちはホテルを目指してゆっくり歩いていく。
もう夕方か。まあ乗り継ぎとかあったからしょうがないな。
俺たちはホテルに着いて荷物を下ろすとすぐに、少しだけ早めの夕食をいただいた。
「ちょっと飲み物買ってくるね、結花もなにかいる?」
「コーヒーお願いしてもいい?」
「おっけー」
夕食を食べ終えてしばらくして俺は自分の分の鍵を持って部屋を出る。
せっかくだし、自動販売機じゃなくて下のカフェで買うか。
俺は、両手にカップを持って部屋へと戻ってくる。うわっ、ドア開けづらいな。
なんとかドアを開けて部屋の中に入ると、明かりは消えていた。
あれ……? 結花、どこに行ったんだろ。俺はベッドとかを確認するけど、どこにもいない。トイレかな?
「もう先にお風呂入ってしまうか」
俺は目の前に広がる海が眺められるお風呂に入ろうと準備をする。
「あ、ゆうくん」
「へっ……?」
そして照明のついていないお風呂へのドアを開けると、なぜか結花がそこにいて、俺の方を振り返る。
しかも、俺がお風呂に現れたことに対して全く驚いていない様子だ。あと、水着着てなくないか? タオル1枚じゃん。
「どうしてここに?」
「……ゆうくんを驚かせたいなって。あと、こうでもしないとゆうくんのブレーキは壊れないかなと」
「けっこうな賭けだなあ」
俺がお風呂に入ろうとしなかったら成立しなかったじゃん、その計画。
結花ならそこまで見通してそうだけど。
「ま、結花がそんなにお望みなら……遠慮なく行かせてもらうけど、いい?」
「じゃあ……背中流してもらってもいい?」
「……はい?」
結花は俺の顔を見上げて、少し恥ずかしそうに頼んでくる。幻覚聞こえたかと思って自分の耳疑ったよ。
「……してもらいたいな」
結花は追撃の手をゆるめない。
俺は空を仰いで、目をつむって暴走する鼓動をなんとか抑えようとする。
できれば髪であってほしかった、いや背中もほんとのとこは……。
結花は巻いているタオルをはだけさせて、俺が背中を洗うのの準備をする。
俺はボディソープの泡を立てて、ゆっくりと結花の背中を洗う。
「こんな感じで大丈夫?」
「うん!」
さっきから振り向きながら俺の顔を見上げる結花に心を揺さぶられまくっている。
覆われていない二つの山が見えかけて、俺はごくっと唾を飲み込む。
「次は私がゆうくんの背中流すね?」
こっちはまだやったことあるけど……。
結花はボディソープで泡まみれになっているだろう俺の背中を丁寧に洗い流していく。
タオル越しでもたまに結花の胸が当たっているような感覚がある。
「ひっ!?」
結花が優しくふーっと甘い息を耳に吹きかけてくる。今めちゃくちゃ変な声出たよ……。
「いつもとあんまり変わらないよ、ゆうくん?」
「……もっと頑張ります」
結花の顔が正面に来る。睫毛の長さまで分かるような距離だ。
まあ確かに、事を進めて行っているのは結花だな。俺から積極的にはあんまり行ってないかも。
「洗い終わったから、お風呂に浸かろ?」
「ありがと」
俺たちはゆっくりとお風呂に足を入れる。
「じゃあ……結花、ここ来ていいよ?」
「いいの?」
俺が結花を足で挟むみたいな形になるな。
結花は俺の両足の間まで来ると、俺の胸に体を預ける。
俺たちは夜空を一緒に眺める。俺は可愛すぎる結花をめちゃくちゃにしてしまいそうなので、無数の星を数えて理性をギリギリ保っている。
「私だけの特等席、だね?」
結花が嬉しそうに、声を弾ませて言う。それで俺のギリギリ保たれていた理性の糸はぷつりと切れた。
俺は結花のお腹にかけて腕をゆっくり回して、ぎゅっと抱きしめる。結花のスタイルが良いのは、腕の感覚だけでもよくわかる。
「……ゆうくんもやっぱり男の子だね」
「へ? なんで?」
ほんとに俺の理性は消え去っているんじゃないのかと心配になる。
「腕とか胸ががっちりしてて、抱きしめられてて安心するから」
「そっか。なんか嬉しいな」
俺たちはそのままの体勢で長風呂を楽しんだ。
俺たちはお風呂から上がってきて、部屋へと戻ってくる。長く入りすぎて全身がふやけてしまいそうだ。
「さっきみたいな、いつもと違うゆうくんをもっと見せてね」
「あれくらいたまにやってる気がするが」
結花は俺の心もふやけさせようとしてくる。
……俺、そんなにいつもひよってるかなあ。
結花はごろんとベッドに転がる。結花はいつか着ていたのとは少し違うけれど、同じようにはだけていて解放感があるネグリジェを着ている。
俺は、抑えきれなくなって結花に近づく。
そして、上から結花に覆いかぶさろうとする。
「ゆうくんにしては、大胆だね?」
結花がまだ余裕そうに言う。少しでもその余裕を崩したいなと俺は思う。
「……」
俺は無言で結花に顔を近づける。結花は俺が何をしようとしているのか気付いたみたいで、ゆっくりと目を閉じる。
俺は結花の唇に自分の唇を重ねる。
結花は腕を伸ばしてきて、するすると俺の体に絡ませる。そしてさらに俺を結花と密着させる。
俺は長い間結花の柔らかな感触を味わいながら、結花の表情が徐々にとろけてきているのを感じる。
ふにゃあと結花の腕の力が抜けていく。一旦離れるか……。
結花は顔を赤くして、息を荒げながら俺のことをじっと見つめる。
苦しいからちょっと休憩させて?、っていう目にも、もっと続けて?って感じにも思える、懇願するような少し潤んだ瞳を結花は俺に見せる。
まあ、どちらにせよ続けるけど。
俺は再び結花の唇を奪う。
結花も、俺を求めてまた強く抱き寄せる。
俺は結花の唇をさらに味わおうとする。
それが思いがけないことだったらしく、結花はぶるっと小さく震える。
普段は整えられている黒髪が、乱れきってベッドの上に広がっている。
結花は、さっきよりも息を荒げている。耳まで真っ赤になっていて、それに気付かれないように顔を背けようとしている。……俺、気付いてるけど。
今の結花の行動ひとつひとつが、俺のブレーキを壊していく。
俺は3度目の口づけをする。
結花は目がとろんとして、口元もゆるんできている。
「……んっ」
悩ましい小さな声がその口元から漏れる。
「なんだか、ゆうくんが狼みたい」
「俺が狼なら……結花は狙われた可愛らしい赤ずきんってとこ?」
……いや、赤ずきんと言うには結花は攻めてきすぎでは?
最初の頃の少し甘い空気になっただけで恥じらっていた頃ならともかく。
「ゆうくん、どうしたの?」
俺はそう考えていると自然に微笑んでいたみたいだ。結花にじっと見つめられている。
「いや、結花は赤ずきんではないかなと」
そうちょっと笑いながら言った次の瞬間、視界の天地がひっくり返った。
結花に袖をぐいっと引っ張られて、俺はベッドに仰向けになっていた。
「……そうだよ? 私もどちらかと言えば狼、かな」
さっきまでと逆転して、俺が結花に覆い被さられている。
結花がなんだかめちゃくちゃカッコよく見える。
結花の頬の赤みはさっきまでよりも増している気がする。
「今からは私の番だね」
「あの……お手柔らかにお願いしま……!?」
俺が言い切るまえに口を塞がれる。
結花のスイッチも俺は押してしまったみたいだ。
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