第99話 いざ沖縄へ!

俺たちは、ホワイトデーのうちに旅行の予約を取った。


3月末の平日。俺は朝早く結花の家の下まで、結花を迎えに行った。


旅行が楽しみすぎてだいぶ早起きしてしまったので。



「おはよ、結花。だいぶ早く起きちゃった」


「うん、おはよう! 私もわくわくして早起きしちゃったんだ、ゆうくんと同じだね」



そっか、結花と同じだったか……! 

 まだ東京を出てすらいないのに、既に俺のテンションは最高潮だ。




俺たちは羽田空港に到着した。

キャリーバッグをゴロゴロ転がしながら、搭乗口を目指す。



「あそこだね、結花……?」



確認しようとして、右側にいる結花を見ると、なぜかサングラスをしていた。

隣に芸能人いるかと思ったよお……。


結花はサングラスを上げ、「ん?」と俺の反応を疑問に思っている様子だ。



「サングラス?」


「あはは、南国旅行っぽいかなーって」


「たしかに」



俺はすんなり納得して、ゆっくりと歩き始める。急に納得したのがなんだかおかしかったみたいで、結花は隣でクスッと笑った。



「似合ってる?」


「うん、モデルかと思った」


「お世辞はいいからね?」


「ほんとだよ、すごく似合ってた」


「じゃあ、砂浜でもかけようかな」



俺たちは航空券を手にして、飛行機に乗り込み自分たちの席を探す。



「あそこだね」



俺たちは窓側の席に座った。

沖縄だからわりと時間かかるし、何しようかなと思っていると飛行機は離陸した。



「この飛行機から富士山見えるらしいよ、そろそろかな」



俺はルートマップを見ながら結花に言う。



「一緒に見よ? もっと寄っていいよ」



窓側に座っている結花が、俺の方を向いて誘ってくる。飛行機の窓は小さいからだいぶ近づかないと見えないな。



「わあ、見えたよ!」


「おお、綺麗だね。こっち寄って見る?」

 

「うん!」


窓の外を眺める結花の瞳はきらきら輝いているように見える。


俺たちは富士山が見えなくなるまで、密着して窓の外を眺め続けた。

そろそろ元の体勢に戻るか、と思った瞬間、機体が揺れる。


俺は咄嗟に結花を後ろから抱くような形を取って、結花が揺さぶられるのを最小限に留める。



どうやら乱気流にあおられたらしい。機長がもう安全だとアナウンスで知らせてくれる。



「結花、大丈夫?」


「う、うん」



なぜか結花は恥ずかしそうに耳まで赤くしている。どうしてだろ……最近は結花の方からぎゅっとしてくれたりするのに。


そう思って俺は頭をフル回転させる。


……ん? いま俺の両手は……。


なにか柔らかいものを鷲づかみにしている。弾力があって……両方の手に当たってて……それで……。


いやいやいや!


俺は正気に戻って慌てて両手を離す。



「ごごごめん!」



「……たまたまだし、しょうがないから」



結花は窓の方を向いて言う。あ……やっべえ。まあ怒らせて当然かもしれない、俺結構な時間触ってた気がするし……。


俺はどう謝るべきか、もう一度頭をフル回転させて考えていると、結花がこちらを向いてくれた。



「責任は、取ってもらうね?」


「はい、いかなる形でも」



結花はニヤッと不敵な微笑みを見せて言う。なにやんなきゃいけないんだろ……。



その後は普通に、和気あいあいと喋っていたらいつの間にか那覇に着いていた。



「沖縄初上陸!」



俺は地上に降り立っておもいっきり体を伸ばしながら言う。結花も同じように体を伸ばす。


……それ、だいぶ胸の主張が激しいんですけど。

俺は多少の罪悪感は感じつつ、さっきの両手の感覚を思い出した。



「まあ、また飛行機乗るんだけどね」


「あ、そっか」



俺たちは目的地の、宮古島行きの飛行機の搭乗口に向かった。




俺たちを乗せた飛行機が宮古島空港に降り立った。那覇からは45分ほどの空の旅だった。



「宮古島上陸ー!」



俺は高めのテンションで飛行機から降りる。



「まあ、まだゴールじゃないんだけどね」


「伊良部島、だっけ」



 さっき那覇で聞いたようなやり取りだな、と自分でも思う。

最終目的地の伊良部島へのバス乗り場を結花と探す。

島へは橋がつながっていて、車で行けるらしい。



「あれかな?」


「おっ、そうみたいだね」



結花は声を弾ませてバス停を指差す。結花の方を見ると、額に少しにじんだ汗が日光を受けて輝いていた。



「ふー、暑いね」



俺たちは汗を拭きながら、2人でバスを待つ。俺たちの知ってる3月じゃねえよ。

暑いけど、海から吹いてくる風が気持ち良い。



結花は黒髪を結びはじめる。Tシャツの袖から、ちらっと腋が見えた。


目のやり場に困るなあ……。


とは言っても、やっぱりチラチラ見てしまう。


Tシャツは胸の破壊力も強調されてしまうし、露出度も上がるからなあ。それに久しぶりにTシャツ姿見たし。


……さてはお前、反省してないな?



「……?」



俺はずっと結花の動きを目で追っていたみたいだ、結花は飲み物をごくっと飲みながら、首を傾げる。


ポニーテールがそれに合わせて揺れる。



「いやー、なんでもないよー?」



俺は頭の後ろを掻きながら誤魔化そうと試みる。



「んー、なんだか怪しいなあ」



結花にじとーっとした目を向けられて、距離を詰められる。

鼻に甘い香りが届いた。



「私に隠し事はなしだよ、ゆうくん?」



結花は髪をゆらゆらと海風になびかせながら、爽やかに笑って言う。



「……つい結花が髪を結ぶときに見えるとこ眺めてました」



俺は尋問を受けた容疑者みたいに、正直に白状する。

結花は俺がどこを見ていたのか気付いたみたいだ。



「……ゆうくんのえっち」



結花は少し頬を赤らめて言う。おわっ、最近にしては珍しい表情だな。


俺は昇天しそうになるのをなんとか堪えながら立つ。



「……ヘタレのくせに」


「そ、それは……」



結花は唇をツンと尖らせながら言う。

甘々攻撃の後にいきなり精神攻撃食らわせてくるのやめて? 俺のHPはもうゼロだよ?



「そんなこと言って、結花が煽ってくるなら……俺のブレーキ壊れちゃうよ?」



俺は半分本気になって言う。実際、いつもは理性のブレーキが邪魔してるだけだから!


可愛い彼女のことを撫でまわしたい、愛し尽くしたいとかいう風に思うのは彼氏としては当然のことだ。



「そう言っても、壊れないでしょ?」



結花はまだ俺のことを煽りながら、俺を見つめる。少し期待のこもった目のような気がしたのは、俺の気のせいだろうか。


……今回ばかりはほんとに俺の理性はなくなってしまいそうだ。理性を沖縄に置いて帰ってしまうかも。



「あ、バス来たよ」



向こうからゆっくりとバスが近づいてきた。



「いつもと違うゆうくん、楽しみにしてるね?」



結花はバスが目の前に到着して、ドアが開く寸前に、ぼそっと言う。


そしてなにもなかったかのようにバスに乗る。


俺は、大して高くもない乗り口に置く足を踏み外しそうになりながらバスに乗り込んだ。



「うおっ」



俺は窓の外に広がる景色を見て、感嘆の声を漏らす。


外には、快晴の空の下にスカイブルーの南国の海が広がっている。今までに見たことないぐらいの透明度で、サンゴ礁が広がっているのがよくわかる。



「海に入るのも、楽しみだね」


「そうだね」



結花の水着姿がまだ3月なのに拝めるのか、最高だな。


俺たちは南国の海に期待を膨らませながら、伊良部島への橋を渡った。




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