第45話 結花の嫉妬

最近ゆうくんの様子がおかしいんだよなあ、と私は思う。


昼休みに可愛い女の子とどこかに行ってしまうの何回か見たり、平日あんまり一緒に帰れなかったり……。


なんか隠し事してるのかなーって。


初めてそんなことを思う自分に対する戸惑いもあった。

気持ちもなんかどんよりと重くなってきてる気がする。


「せーんぱい、一緒にお昼食べませんか?」


「いや、おい待てよ……!」


「恥ずかしがらないでいいですからー」


後輩ちゃんに半ば強引に引っ張られて、ジタバタしながら連れていかれるゆうくんをぼーっと遠くから眺める。 


 その後、ちょっとしたらゆうくんは戻ってきたけど。


「ねえ、花奈? ちょっと相談があるんだけど……」


「ん、どうしたの? なんでも聞くよー」


久しぶりに花奈と一緒におしゃれな喫茶店に入る。

フラペチーノとかじゃなく、なんとなくコーヒーを飲みたい気分だなあと思う。それも、そんなに甘くないのを。

とりあえず飲み物注文して、席でゆっくり話そう。


「……こんなことがあったんだけど、これって嫉妬、なのかな?」


「うん。あいつ、そんなひどいことを……!」


 花奈はぐっとコップを握る手の力を強める。めしめし、って変な音が聞こえた。


「あ、いやいや! 付き合ってても他の女の子と話すことぐらいあるだろうし……そんなこと、私も分かってるつもりだったんだけど」


自分の心の中のモヤモヤした感情をなんて表現したらいいか分からないで、適切な言い方を探す。


「……なんか、遠くに行っちゃう気がして」


「そう思っちゃうよね……あいつ、結花を困らせるようなことはしないと思ってたのに」


「私の魅力が足りないのかな?」


「いや、そんなことは絶対ないから! 結花の魅力が分からないなら、あいつがおかしいだけだから!」


花奈は冷静さを失ってしまってるかのように、怒りのこもった声を出す。声は大きくないのに、すごく重い。


「どうしたらいいのかな」


ついつい、どうしようもなくなってそんなことを呟いてみる。


「ほんとに、魅力が足りてないなんてことはないからね!

もう限界だと思ったら、本人に聞いてみたほうがいいと思うな。 聞きづらいなら、私がそれとなく聞いてみるけど?」


 花奈は早口で、私を励まそうとフォローしてくれる。


「じゃあ、ゆうくんに聞いてみてもらってもいい?」


「もちろん、結花のためならなんでもするよ!」


「ありがとう、花奈がいてくれて嬉しい」


「なんかちょっと照れるな」


話聞いてもらえて、ちょっとだけ心が軽くなったような、そんな気がした。


でも、結局は自分も向き合わなきゃいけないことなんだろうなとは思っている。今みたいに目を逸らそうとしてもダメだって。


「……でも、私にも足りないところあるよね? もっと好きって伝えないとだめなのかな?」


「いや、今のあれでもかなり伝えてると思うんだけど」


急にすっと真顔になって言われる。自覚なかったの……?って顔だ。


「まあ、あれで伝わってないなら一条優希は鈍感野郎ということだね。ほんとに。 ……あ、コーヒー全然飲んでないよ? 冷えちゃう」


「あ、ほんとだね、じゃあ、今からは一緒に美味しく味わおう?」


 「うん!」


一緒に写真撮って、コーヒーを味わうことにした。


苦いようで、ほんのすこしだけ甘いような味だった。


◆◇◆◇◆

 

 日曜日。


なぜか結花には2日連続で用事があるからと言われてしまい、橘さんに呼び出された。


どういうことだ?

必死に考えたけれど、何の話をされるか分からない。


最近某後輩のせいと結花の用事のダブルパンチであんまり話せてないから、週末楽しみにしてたんだけどな。


 学校の行き帰りぐらいしか一緒に過ごしてないよ。。結花成分の欠乏を感じる。


「……とりあえず集合場所行くか」


指定された場所にたどり着くと、いつもの数倍ほど冷気を放っている橘さんがいた。……ひっ。


「え、どうしたの?」


「ちょっと話があるんだけど」


いつもより声のトーンが低い。体に突き刺さるような声だ。


「あ、うん。ナンデショウカ?」


命の危険を感じた。


人があまり通らない、薄暗い公園の木の下のベンチに座らされる。


 ……昼間なのになんでこんなに暗いの、極夜じゃないよね?


「私は前、結花を困らせたら殺すって言っておいたよね?」


「あ、はい」


「もっとはっきり答えて」


「はい」


「じゃあこれはなに?」


目の前にスマホの画面が突き付けられる。橘さんと結花のトーク画面だ。


内容は俺がここ最近、後輩と一緒に過ごしてるところを見てモヤモヤする、といったもの。


たぶん、これを見せられたときの俺は青ざめていた。さっきの尋問のときからか。


「待ってくれ、話せばわかる」


「とりあえず聞くから、ちゃんと私が納得できることを喋ってね?」


「……これはあいつが勝手に近づいてきただけだ」


「ほんとに?」


「ああ、ほんとだ」


橘さんは試すような表情で俺に聞いてくる。これは間違ってないから断言できる。


しかも、あいつは実際には彼女いないと思ってる気もするし、ぐいぐいくるだけじゃなくてなんか妙な話してくるんだよな、昔助けてもらったとか。


「そう。でももっと強く断ればいい話じゃない?」


「そう、だな」


「どーせ、相手の心に傷を負わせたくないとか考えてるんでしょ。今みたいに中途半端な態度されて、相手に行けるかもって思わせた方がダメージ大きいと思うんだけど」


確かにそうだ。


俺の中途半端な態度が、結花を困らせてる。大事なのはなにか、優先するべきはなにかは俺自身分かってるはずなのに。


「ごめん、自分でどうにかするから」


「自分でどうにかできてないからこうなって……!


あ……強く言い過ぎたかも。でも、私の大切な結花を傷つけないで。それだけ分かったら、いいから」


結花のことを大事に思ってるからこその、心からの言葉だと思う。


……俺は、結局誰のためにもならない、中途半端な優しさでしか行動できてないな。


そんなに自分に呆れて小さくため息をつく。


「俺、ちゃんと結花と話をして、それからその後輩にも説明するから」


「分かったわ」


明日、この問題に決着をつけようと固く決めた。





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