第44話 新クラスと後輩襲来

俺たちの学校は新学年になってからすぐに実力テストがある。


と言ったけれど、正直テストはあまり重要視していない。

新クラス発表に全てがかかっていると言っても過言ではない。


結花とは類型同じだからクラス一緒の確率は20%ぐらいか?

あ、あと翔琉と橘さんも類型同じだったかな。

 5分の1を引けるか、俺。


学校に行く途中、ずっとそんなことを考えていた。


「ゆうくん、なんか困ってるみたいな顔してるけど大丈夫?」


「あ、うん、まあ?」


結花が心配そうに見つめるなか、俺は歯切れの悪い返事をする。

 クラス替えのこと、顔にも出るレベルで心配してるよ。


「え、どうしたの?」


結花はさっきよりも顔を近づけて聞いてくる。通常通りいい匂いがするなとか思う。……いやいや!


「い、いやー。クラス替え、心配だなーって」


「あはは、そんなことかー」


「え……?」


「まあ、学校着いたら分かるよ」


 結花は普段通り、微笑みながらそう言う。

あんまり重要だと考えられてない……!? かなり大ダメージを食らった。


いやでも、学校着いたら分かるって言ってたからなあ。

違うクラスとかいう最悪な展開は回避できるのだろうか。


「おー、翔琉」


「俺、優希と違うクラスだったわ……」


あきらかにげんなりした感じで翔琉は言う。……俺のこと好き過ぎだろ。


 「え、もうクラス替え出てるの? 普通ホームルームの時間とかで言われるんじゃ?」


「特進クラスだけな」


「……え、特進クラスとかあるの?」


「知らなかったのかよ。1年間の成績学年上位40位までの人だけで固めるクラス」


「そうなんだ」


「ほんとに知らなかったのか!?」


「うん」


「まじかよ」


もっと学校でのイベント事に興味持った方がいいぞ?とアドバイスを頂いた。確かに、学校行事あるところにラブコメあり、だもんな。

……以後、気をつけます。


廊下に掲示してあった特進クラスの座席表を眺めて、自分の席に座る。


「今年もよろしくね、ゆうくん?」


結花は、去年と同じ俺の隣の席で、「ね、学校行ったら分かったでしょ?」って感じにニヤッと笑いながらこっちを見てくる。


「うん、特進クラスとかあるの知らなかったなー」


「知ってるかと思ってた」


周知の事実だったようで。俺以外は。


「結花ー、今年もよろしくー!」


この声は……橘さんだな。


「うん、よろしくね!」


やっぱ女子同士が仲良くしてるの見てるのいいかも……

なんか別の趣味に目覚めそうになった、あぶな。

クラスの男子も2人をまじまじと見ている。うん、同志だな。仲良くなれそう。


「一条くんもいるんだねー、よろしくー」


「あー、よろしく」


「……結花は独り占めさせないから」


橘さんは、俺にさっと近づいてきて、しっかり釘を刺してくる。文化祭あたりで多少好感度は高められたはずなんだけどなあ。


「2人とも、どうしたの?」


俺たちの様子を見て、ちょっと首を傾げながら結花は聞いてくる。あ、それめっちゃいいです最低でも1日に1回は見たいです。早口で言ってしまいそう。


「「いや、なんでもないよー」」


なぜかこういうときにハモるんだよね。そのあとジトーって睨まれるのもセットで。



 とにかく!

結花と同じクラスだった時点で高2も素晴らしい青春ラブコメを送れることは確定した。

結花とさっそくいろいろ話そー。


……あ、今からテストあるんだったわ。


*** 


 なんか最近、俺の周りが騒がしい気がする。新クラスになってから。

いつから俺陽キャの仲間入りしたっけ? いや、間違いなく仲間入りなどしていない。

現に今だって1人でお昼食べてるし。


「おいおい、あの一条ってやつ、一ノ瀬さんと付き合ってる癖にあの可愛い後輩とも仲良いのかよ」


「1年の時から噂は聞いてたが……さっさと爆発したらいいのに」


めちゃくちゃ不穏。これで1年間このクラスで過ごせと? 寝言は寝てから言ってくれ。


てか俺の名前のあとに『可愛い後輩』とかいうワードが聞こえたような。まあ知らね。


たまたま結花の用事(橘さんに連れ去られた)が重なって、俺はぼっち昼休みを過ごしてるわけなので、暇潰しに隣のクラスの翔琉のとこまで行こうかな。


立ち上がって教室のドアを開けた瞬間。


「一条先輩、何度も呼んだんですよ?」


1人の少女が目の前に立っていた。

語尾にぷんぷん!ってついてそうな感じ。誰このアイドル的少女。

 まあ、結花の方がアイドルやってそうだけど。……結花はアイドルじゃなくて女優か?


ふわっとした茶髪でミディアムロング。目はくりくりしてて大きい。ちょっと橘さんに似てんな、小動物的な感じが。あんなにとげとげしてないとは思うけど。


こんな女子、俺の知り合いにいましたっけ?


「ああ、すまん……で、どちら様?」


圧倒的デリカシーの欠如を感じる、我ながら。1年経っても改善されていないようで。まあ誰か知らなかったらそう聞くしかないよね!

……どこかで見たことある気がしないでもないが。


「聞き方が悪いですね、それじゃモテませんよ?」


「いや、これ以上モテなくていいから」


「あいつ殺すか」 「うん、それがいいな」ってのは空耳だよね!?シンジテル。

 俺、このクラスで1年過ごせる自信をほぼ失いかけてるよ。


「え、先輩、もしかして彼女とかいるんですか?」


その後輩は小首を傾げて聞いてくる。いちいち仕草があざといなあ。


「ああ。自慢の彼女がいるけどどうした?」


 俺は声の調子を変えずに言う。ちょっとデレ過ぎたか。また背後からの殺気を感じたんだが。


「いや、なんでもないです!……そっかー、やっぱりモテてたかー」


「ん、なんか言ったか?」


「いえ、なんでもないです!」


「……で、どちら様?」


 俺は出会ったときからの疑問をもう一度ぶつけてみる。


「今、実は先輩彼女いない説が有力になりましたよ? まあいいです、私は1年の姫宮萌音です」


「そうか、よろしくなー」


 イマジナリー彼女説、若干傷ついたからな!?


「雑ですねー、もっと女の子は大事にしないと!彼女さんにも嫌われちゃいますよ?」


「分かった、気を付ける」


相変わらず俺は棒読みで答える。


「じゃ、これからよろしくお願いしますね?

なんて呼んでもらっても構いませんよー、下の名前でも」


上目遣いでこっちを見ながらそう言う。制服の袖引っ張るなし。


しばらくすると、姫宮は手を大きく振りながら帰って行った。残されたのは俺とその周りのリア充許すまじという空気。耐えられない。


まあとにかく、このウザ可愛系(?)後輩女子には気をつけようと思った。結花と一緒にいるときは襲ってこないでくれ……と願った。





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