第43話 結花との日常

「おはよー、ゆうくん」


「おはよ、結花」


 ハイネックのニットトップスを着た結花が、スカートを春風で揺らしながら玄関前に立っていた。


今日は平日だが、春休みに入って時間があるので結花が来てくれた。


「お昼ご飯、何が食べたい?」


可愛いらしいバッグを下ろしながら、結花が聞く。


「あー、そうだねー……ハムエッグとか?」


「わかった、じゃあ一緒に買い物行ってくれる?」


 中身が無に近い冷蔵庫をさっと確認して、結花は言う。中身、たしかちくわとエナドリとヨーグルトしか入ってなかったな。


「喜んで!」



冷蔵庫の中に、ほぼなにもないのは昨日から気づいてました。

あ、一緒に買い物したいからわざと空にしてたわけではないですからね!


 断じてそのような事実はありません! 結花にお昼作ってもらうのに、わざわざ手間を増やしたわけではない。


 いや、結花と買い物行くため、ってのが百パーないとは言い切れないけど……


ただちょっと、スーパーが一人で行くには遠く感じられただけです……。


 「こないだは楽しかったね」


 「うん、また結花と一緒に行きたいって思った」


 「約束だよ?」


 こないだのお花畑デートの思い出を、結花と一緒に振り返る。


結花と話しながら歩いていると、スーパーまでの道のりも短く感じられる。



ミックスベジタブルとか玉ねぎとかハムとかを買い物かごに入れる。


少し外が暖かいからって半袖着たのは間違っていた。冷蔵庫のあたりが寒い。

 結花は寒そうにしてないかな、と思って横をちらりと見ると、袖をぎゅっと握って、少し寒そうにしていた。

なるべく早く買い物終わらせよ……。


「じゃあ、荷物持ってもらってもいい?」


「うん、お任せを」


 俺はひょいっと買い物袋を持ち上げる。そして、結花と一緒に家へと歩き始める。


いや、夫婦かな?って光景だな。第三者目線で見ると。

高校生のうちにこんな生活を送れるとは贅沢だなあ。

荷物持ちなんてお安い御用です!


家に帰り着いて、買った食材をさっそく調理する。


俺は包丁でリズムよく野菜を刻んでいく。 俺も少しは成長したってわけだ。


ま、焼いたりする工程は結花に任せるんだけどね。


俺がやったら焦がしてしまう危険性が大いにある。謎の物質を錬成してしまうかも。異世界に行ったら活躍できそうだけど。


「今日のお昼はハムエッグとトマトスープだよ」


 結花は、エプロンをつけたまま料理が盛り付けられた器を運んできてくれる。


「おー、ありがとう!」


「ゆうくんもけっこう手伝ってくれたじゃん」


「そう?」


「うん、助かる」


そう言うと結花はにこっと笑う。

結花に感謝されながらいただく昼食は、1人で食べるのよりもずっと美味しかった。



お腹が満たされた俺たちは次にやることを探す。


「春休み明けのテストの勉強でもする?」


「いいねー、そうしよー」


2年になってすぐに実力テストが待っている。


あのー、実力テストなら10割実力でお願いしたいんですが……。変に課題とか混ぜないで、勉強しないといけないじゃん!?


「ごめん、ここちょっと教えて?」


「おっけー」


珍しく分からないところがあるのか、結花が質問してくる。結花はさっきまでよりも椅子を近づけて、距離を縮めてきた。


色んな意味で汗出てきた……。

 すんすんと匂いを嗅ぎたくなるような甘い結花の香りが、俺の鼓動を早める。


「あー、ここはこうして……」


「うん……あ、そっか。分かった! ありがとね、ゆうくん」


 結花は俺の顔と、問題を指している俺の指を交互に見ながら解説を聞く。

しっかり聞いてくれているのが分かるので、教えているこっちも気持ち良い。


……先生の話、いつもちゃんと聞いてないなあ。

ごめんなさい。心の中で謝ったから許して?


 「俺にここ教えてもらえる?」


 「うん! 私、そこなら分かるよ。ここはね……」


 結花は得意気に微笑んで、解説を始めてくれる。

 さっきと入れ替わって、今度は俺が結花に教えてもらった。



結花といればどこでも楽しいって前にも言ったけれど、普段通りの、なんの変哲もない日常も結花と一緒ならもっと楽しくなるんだ。


下書きの絵に、鮮やかな絵の具をのせていくみたいに、日常が色付いていく。



でも、その感謝を伝えるのはなんか恥ずかしい気がして結局伝えられなかった。

まあいずれ伝えられたらいいやと思った。

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