第41話 春休み突入

気がついたら修了式の日を迎えていた。


講堂に俺たち生徒がぎゅうぎゅうに詰められて、式典がはじまる。




ホワイトデーが終わってしまったということは、高校1年生ももう終わりということだ。


この1年間、ほんとに幸せだったなあ……クラス替えしてほしくないなあ……。



はっ。いけね、寝てた。


最後の「全員起立」で目が覚める。


寝てたことがバレないように慌てて周りに合わせて立ち上がる。

なんとかタイミングを合わせられた。

良かった、悪目立ちはしてない。隣にいる結花がにやっとしてこっちを見たけど。


 結花はつんつん、と俺の脇腹を人差し指でつついて、「ふふっ」と大人っぽく微笑む。俺はこの表情を見るために今日学校に来たのかもしれない。



面倒な式典が終わってから、ホームルームで担任の長い話を上の空で聞く。


春休みって、高校生にとってはどの休みよりも価値高いと思うのは俺だけですか?

……意外と長いし、宿題もほぼないし!


高校生の自由は3月にのみあるんですよね。


高校3年なんか、大学入試で頭いっぱいだろうな、夏休みも。


俺の高校の特権である付属高校からの大学進学エスカレーターを使う場合はそんなの気にしなくていいんだけども。

ま、そんな先のことは今考えなくてもいいや。

春休み楽しもう。


  

 俺たちは1年間お世話になったクラスを後にして、帰路についた。今日は講堂にも入って、もうすぐ一年前のことになる、結花との出会いを思い出してなんだか感慨深かった。


「今日学校はやく終わったから、ゆうくんの家行ってもいい?」


帰り際、普段俺たちが別れる曲がり角で立ち止まった結花が言う。


「うん、もちろん大丈夫だよ」


 結花は嬉しそうにぐっと小さく拳を握る。

「やったー!」って感じが溢れ出てるの可愛い。やっぱ天使……!



俺の家にたどり着いた。

結花に上がってもらって、2人とも椅子に腰かける。


「……ゆうくんに、大切な話があります」


久しぶりに見た結花の真剣そうな表情に、俺はついつい固唾を飲みこむ。


「春休みをどう楽しみますか?」


まだ真面目な表情をして結花が聞いてくる。でも、声の調子が楽しそうで、感情を隠し切れていない。


なんか俺にとって悲しいお知らせがあるのでは?って思ったよ、さっき。


「え、どうしたのいきなり」


「いやー、やっぱり春休み楽しみだなーと思って。ゆうくんとどこ行こうかなって、えへへ」


「なるほどなるほど」


あまりにも真剣な表情で言ってきたからちょっと焦ったんだが。


急に結花はいつものデレデレモードに変わった。案外演技が下手なのも可愛い。


「んー、そういう結花はどこか行きたいところあるの?」


「あるよー」


「え、どこどこ?」


どこを提案してくるのか気になって少々食い気味に尋ねる。


「国営ひたち海浜公園ってとこ」


「あー、あのー、花がたくさん咲くところね」


「そうそう!」


我ながらなんで知ってるんだろう。行ったことたぶんないのに。ネモフィラ?だっけ。なんかそんな花が綺麗って聞いたことある。


 絨毯みたいに、見渡す限り花が咲き誇っている写真は、たぶん多くの人が見たことあるだろう。


「いいね、今度の週末に行く?」


「うん!」


よほど楽しみなのか、結花は元気そうな返事をする。


お花畑の中の結花かー。


容姿端麗で凛とした感じの結花と美しい花の共演は確実に映える。


黄色の菜の花の中に埋もれているかのように佇む白のワンピースを着た清楚なイメージの結花。


想像しただけで尊い。


その場面を写した写真は国営ひたち海浜公園の広告に使ってもらってもいいと思います!!


その様子まで妄想可能なんだが。


 あとは……一緒に綺麗な花を探して、しゃがみこんで一緒に眺めたり。


わくわくして、訪れる日の予定を立てる結花を見てると俺もとても楽しみになってきた。


 「まず、ここから行こう?」


 「おー、いいね。お昼はどうする?」


 「そうだね……」


 俺の隣に移動してきた結花と一緒に、公園の地図を指差しながら眺める。やっぱり、旅行は予定を立てているときも楽しいな。


 「ここも行きたいよねー?」


 「うん、楽しみ」


 俺は新たな絶景スポットを提案する。……正直に告白すると、すぐ隣で嬉しそうに話す結花を眺めていたかったから、話を伸ばそうと思って。


 あと、ちょうど話している花みたいに、いい匂いがするのを嗅いでいたかったから……ってこれは秘密。流石に。


 俺は、楽しそうな結花を見て、口元をほころばせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る