第39話 バレンタイン

目が覚めた。気分爽快。


今は……2月14日の、5時か。


ん、5時? 一応窓を開けて外を確認してみる。まだ外は真っ暗だ。 良かった、夕方の5時じゃなかった。


やっぱりイベント事があると早起きしてしまうんだよなあ。


テスト前の朝に勉強しておきたい時には予定時刻よりだいぶ遅く起きてしまうのに。テストもイベント事だろ?



……やることないな。

朝ごはんいつもより頑張って作ってみるか。俺は張り切って袖をまくり、手を洗おうと蛇口をひねる。

 冷たっ。



「できた!」


メニューはご飯と味噌汁。


いや、いつもと変わらないじゃん!?って指摘が飛んできそうだけど、味噌汁はインスタントではないです。


やっぱ自分で作った料理の味は最高だな。

 結花が作ってくれるご飯の味に近づいているような気がする。


皿洗いも済ませたことだし、あとは結花が来るのを待つとするか。




 

「おはよー、いつもより早くきちゃったー、えへへ」


「うん、俺も早く起きたからだいじょぶ」


いつもより20分ぐらい早く天使様が玄関前に降臨される。

なぜ皆が着ている同じ制服をこんなに可愛く見せられるのだろうか。(前も言ったことある)


「ゆうくんはなんで私が早く来たのか分かるよね?」


朝から天才美少女はにこにこ笑って問題を出してくる。


「まあ……」


これどう返すのが正解なの?

どうしたって自意識過剰みたいになる。

うーん……。


結花は目を輝かせて俺が答えるのを待っている。


「……なんか俺に渡すものがあるとか」


「うん、当たりだよ」


まあ今日バレンタインデーですからね! 楽しみすぎて早起きしてしまったぐらいだし。


「じゃあ、正解したゆうくんにはチョコをあげます」


「ありがと」


綺麗にラッピングされたチョコを受けとる。正解してなかったらどうなってたんだろうか。どちらにせよ渡してくれただろうけど。


「いつ食べようかなー」


 帰ってから食べるのもありかなと思って悩む。


「……今食べてもらえると嬉しいな」


 結花は今すぐ感想を聞きたい、というふうに微笑んで言う。


「じゃあ今ありがたくいただきます! あ、1回家上がる?」


「いいの?」


「ま、時間はまだまだあるから」


急いで上がって、結花にお茶を出す。

そして座って、ラッピングを丁寧に開く。



美味しそうなチョコが現れた!

これ何て言うチョコなんだろう……?

(あとで調べたらブラウニーだった)


「いただきます!」


「どうぞー」


ひとくち食べただけで口の中でとろけるような甘さが広がる。


「今まで食べた中で最高のチョコだと思う」


「ほんと? 嬉しいな」


「美味しすぎて涙出そうになるとか今までで初めてなんだけど……」


「えへへ、そんなに?」


「うん!」


お世辞に聞こえてしまいそうだけど、全部俺の本心からの言葉だ。

これでも褒め足りないと思うほどだ。


「お返し、期待してるね? ゆうくんの手作り、楽しみだな」


 結花は俺の瞳を覗き込みながら、幸せそうに言う。


  ……あっ。


バレンタインのお返しって概念をすっかり忘れてた。何せ今までちゃんともらったことがないもんで。貰ってもコンビニで買って返してたよ。


俺はそこまで料理できるわけでもないのに、手作りチョコを指定されてしまった。作れるかな……。


まあでもお菓子作れる男子ってなんかいいな。


……まだこの時点では、お菓子作りの難しさを俺は少しも知らなかった。



ともかく、学校へ向かう足取りが過去1番に軽かったことは言うまでもない。羽が生えてるのか、って具合だった。




「今から終礼を始める、なにか連絡はないか?」


担任がそう告げる。

今日の授業は体感5倍速でした。正直ずっと上の空でした。


帰る支度をしていると、翔琉が話しかけてきた。


「で、何個もらったんだ、優希?」


「俺は2個だ」


 結局例の何個もらえるかゲームはやるのか。


「あれ、数おかしくないか?」


「いや、なんかあの人からもらっちゃったんだよな」


「え、誰?」


翔琉は不思議そうに聞いてくる。


「橘さんだよ、なんか『別にあげたいわけじゃないけど、1個余ったから』って言ってきてな」


「そうか、優希はほんとにラブコメ主人公なんだな!?」


なに言ってるか分からない。


「いや、テンション大丈夫? 怖いよ?」


「そうか……」


「別に深い意味はないだろ。 そもそも俺付き合ってるんだし」


「まあ、そうだよな」


まあこれで橘さんに苦めのチョコをあげられるというわけだ。



手作りチョコ練習するか……


もちろん、結花のためにね!


橘さんに返すの忘れてそうで怖い。


まあ俺の腕を見せるときが来たかな。

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