第11話 お泊まり後の朝とお買い物

「んー、眠いな」


 ほんとに全く寝れなかった。寝れなすぎて昨日より疲れたまである。


(一ノ瀬さんは……?)


 隣に、普段は感じない人肌の温かさを感じて、一ノ瀬さんの方を見る。


(……可愛い)


 枕をぎゅっと抱きしめて寝ている。


 寝顔を覗きこんで見たいけど、流石にやめとこう。俺にも一応自制心はある。


「んー……」


 一ノ瀬さんは寝返りを打ってこっち側を向き、小さな寝息を立てて、すやすや眠っている。


 一条優希は意図せずに一ノ瀬さんの寝顔を拝むことに成功した!


(これは狙ってないからセーフ!)


 とりあえずこの光景は目に焼き付けておこう。


「……お、おはようございます」


 一ノ瀬さんはパッと目を開く。


 俺はびっくりして、見とれていたことを悟られないように慌てて目を逸らす。


「そんなにびっくりしなくても大丈夫ですよ?」


ふふっ、と一ノ瀬さんは優しく笑って俺の顔を覗き込んでくる。


「え、いや、びっくりシテナイヨ?」


「別に、優希くんに寝顔見られても嫌だとか思わないので」


一ノ瀬さんはそう微笑みながら言ってくれる。


「……可愛かった」


「ええっ!? は、恥ずかしいです」


 つい、本音が口から漏れ出てた。

 距離感バグってるのに可愛いって言われることには慣れてないらしい。


 一ノ瀬さんは耳まで茹で上がったような赤色になってる。


「あ、朝ご飯食べましょう! 何がいいですか?」


 一ノ瀬さんはバタバタと台所に逃げて行ってしまった。


 そういうところも普段の学校でのクールな感じとのギャップでめちゃくちゃ可愛いんだよなあ。


「何食べますかー?」


「一ノ瀬さんが作ってくれるならなんでも食べたいな」


「その言い方はずるいです……!」


 俺が思ったことをそのまま口に出すと、ちょっと照れてた。

 それを隠すように、ぷくーと頬を膨らませる。


 ……その表情も回復力がすごいんです。


 朝、一ノ瀬さんが起きてから絶好調だ。

 普段の7時間半睡眠より、今までの30分の方が体力回復してると思います!



 一ノ瀬さんはフレンチトーストを作ってくれた。


「どうですか?」


「めちゃくちゃ美味しい……!」



卵と砂糖と食パンでこんなに甘くて美味しい食べ物が出来るんだ、と俺は感動した。


「えへへ、嬉しいです」


 一ノ瀬さんはなんだか溶けていきそうな感じで笑ってる。


 尊い。


 あと、久しぶりに誰かと朝ごはんを食べられることの素晴らしさにも気づきました。


 いつも朝は黙々と食パンを口に詰め込むだけだったけど。


「今日は何しよっか……?」


「どこか行きますか?」


「んー、でも一ノ瀬さんも疲れてるだろうし、俺も今日あんまり寝られなかったから、良かったら俺の家で過ごさない?」


「いいですよー」




(家でなにしようかな……)


 俺ん家、そんなにものないわ。


 一人暮らしに必要なものしかない。


 家具といえば、冷蔵庫、洗濯機、ベッド、ロボット掃除機(あんまり働いてない)とテーブル、椅子ぐらい。


 テレビ? そんな文明の利器はねえ。


 やっぱり前言撤回。

 どこかに行こう。


「ごめん、やっぱりウチあんまりものないから、どっか行かない?」


「いいですよー! でも、家でゆっくり過ごすのもアリだと思いますよ?」


「んー、じゃあ何か家でも遊べるもの買いに行こうかな」


「いいですね!」


「じゃあ、支度するからちょっとだけ待っててー」


「分かりました!」


「一回一ノ瀬さんの家寄った方がいいよね?

 一ノ瀬さんの準備もあるだろうし」


 別に他意はない。

 そのときに家上がりたいとか思ってないからね、ほんとだよ?

 ……上がりたいのは上がりたいけどね。



 そんで俺たちは一ノ瀬さんの家の下までやって来た。

 かなり高いな。。。


 何階建てなんだろ。上の方見てたら首痛くなるよ。


「じゃあ準備してきます!」


「うん!」


(家上がりたい……)


 俺の隠れた願いには気付かずに、黒髪を風になびかせながら走って行ってしまった。


 ……結局今日のところは一ノ瀬さんの家に上がる夢は叶わなかった。


 まあ、俺の夏はまだまだ始まったばかりだ!!


「お待たせしましたー!」


「……おぅ」


 つい感嘆の声が出る。

 一ノ瀬さんは前買ってた白のワンピースを着ていた。

 ほんと清廉って言葉が似合う。

 天使って形にしたらこんな感じなんだろうな。


「それじゃあ、行きましょう!!」


 都会の方向とは真逆のショッピングモールを目指す。夏休みの都会は人の量が尋常じゃないだろうから。

 前回の買い物での事件みたいなことは起こしたくないからね。




 ……やっぱ人多いわ。


 ショッピングモールなめてました。すみません。

 通りすがりの人たちが一ノ瀬さんに目を奪われてる。


 男がずっと眺めてて、隣の彼女さんにしばかれてるの今日だけで何回も見た。


 まあ一ノ瀬さんのことを眺めないでいられる男はたぶんこの世に1人もいないと思うんです!


 本人はチラチラ見られてることに全く気づいていないんだけどね。


 おしゃれな感じの雑貨店に入る。

 家で遊ぶと言ったら何がいいんだろうか……?


 トランプとかボードゲームとか?

 まあそんな感じだったら一ノ瀬さんも楽しめるだろうな。


「……あのチェス格好いいですね!」


 指さしてるのは透明なチェス。

 チェスのルールあんまわかんないけど、格好いいイメージはある。


「いいねー、じゃあ買おうか」


ノリと雰囲気重要、これ大事。


 あとはトランプと人生ゲームをとりあえず買っておいた。


「じゃあ、さっそくやりませんか?」


「おっけー、負けないからね……ルールは分かんないけど」


最後の一言だけでかなりカッコ悪くなったのは否定できない。


「あ、心配しなくても大丈夫です、教えますよ?」


ありがたいけどカッコ悪さが倍増したような……


 俺たちは家に帰ってきた。


「この駒はこう動くんです」


「う、うん」


 俺のすぐ隣に座って教えてくれる。

 俺の手に触れてもそんなに気にせずに教えていってくれる。

 意識してるの俺だけ?……恥ずかし。


「それじゃあ、やりましょうか、私も負けません!」


 勝負事になったら、普段は天使のような可愛さを持つ一ノ瀬さんも圧倒的強者のオーラを放ちはじめる。




「チェックメイト、です!」


「な……負けました」


 今のとこ0勝3敗。


「まだまだ優希くんには負けられません!」


「うう、くやしー」


一ノ瀬さんはえへへーと笑いながら負けず嫌いな一面を見せてくる。


「次はトランプしましょう!!」


「いいよー」


 スピードをやってるんだけど……

 圧倒的な反射神経。動きが素早すぎる。


(まじで何でもできるじゃん……!)


「チェスも入れたら5勝ですね!」


 めちゃくちゃ楽しそう。それなら勝ちを譲った甲斐もあったってもんだ。

 ……それ、負け惜しみって言うんですよ。一番やっちゃダメなやつ。


 最後は人生ゲーム。


 これは正直運ゲーだから俺にもチャンスは大有りだ。


「これは負けないよ」


 30分後。

 見事に負けた俺がいた。


「今日は全勝ですね……! また一緒にやりましょう!」


「次は負けないからね、ほんとに」


「ふふっ、それはどうでしょうか?」


一ノ瀬さんは少し挑戦的な感じな笑みを浮かべる。

 なんか煽り属性もつけてきたな。


「今日は負けまくったけど、久しぶりにこんなにゲームで楽しめたよ、やっぱり一ノ瀬さんと一緒にやったからだろうな……」


「あ、ありがとうございます」


 それでも、まだ俺の攻めには対応できないらしい。

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