第8話 テスト終わりに

期末テストの終わりを告げるチャイムが鳴る。

1学期はもうテストがない、という事実が嬉しすぎる。


「やっと終わったー!」


今回は俺の人生史上一番勉強した気がする。貼り出される順位表が楽しみになるほどに。


(これなら学年1桁は行ったかも……)


「テストどうでしたか、優希くん?」


帰る前に一ノ瀬さんが尋ねてくる。勝負、勝ってたらいいなあ。


「まあまあ良いかなー。一ノ瀬さんは?」


「どの教科も結構自信あります!」


(まじかよ……)

もう結果分かってしまったようなものじゃん……。


「ま、とりあえずテストお疲れ様ー」


「優希くんも、お疲れ様です!」


週末はいつものように一ノ瀬さんに来てもらい、月曜がやってきた。



「俺、何位かなー」


順位表の上から探していくか。

お、見っけた。


「3位!?」


「おー、優希、トップ10入れてんじゃん!」


翔琉が俺の方を見て、イケメンオーラ出まくりのニヤッとした笑顔で言う。


「「なんだと!?」」


周りの男子たちが俺の方を見る。


「あの一ノ瀬さんにいつも話しかけられてるやつ、頭いいのかよ」


「なんだよ、勝ち組じゃねーか」


「非リアの敵……!」


そんな声が聞こえてくる。

わー、俺って有名人なんだねー、褒めてくれてありがとー(棒読み)。


しかし! 俺は勝負に負けている。



今回も成績トップである一ノ瀬さんと20点差もつけられた。

まあテスト前しか勉強しないから当たり前なんだけど……。


(いつか勝つんだ……! 一ノ瀬さんと同じレベルまで行きたい……!)


それにラブコメにありがちな勝った後の告白もハッピーセットで。


俺はまだがやがやと騒がしい廊下を後にして、一ノ瀬さんの隣の席に腰を下ろす。


「優希くんに勝ってましたね」


「えへ」って声が聞こえてきそうな感じな笑顔。

この笑顔が見れるなら負けた甲斐もあった……というのは冗談です。

そんなこと言ってたらほんとに負けっぱなしになりそうだ。


「そうだね……まだ一ノ瀬さんほど頑張れてないかな」


「次も勝ちますからね?」


一ノ瀬さんは、クールに微笑んで言う。クールな笑顔には長髪が良く似合うなと思った。


一ノ瀬さんは最近、色んな表情を見せてくれる。

他の男子に話しかけられているときの対応の様子と比べると、全く違うような気がして俺は心の中で踊り狂っている。


「俺も頑張るよ」


「ふふっ、次が楽しみです」


……なんか煽られてる?



「「テストおつかれー」」


テスト返却後の週末。


翔琉をはじめとする友達4人でカラオケに来た。

今日は家事代行の予定をキャンセルして


「たまにはゆっくりした方がいいと思うから」


と一ノ瀬さんに送っておいた。毎週末俺のために時間を使ってもらうのは、嬉しいけれど、同時に申し訳なくもあるんだよな。



テスト後のカラオケは高校生の定番すぎる。


「一番点高かったやつに菓子買うぞー!」


「おー、いいね」


「燃えてくるな」


俺たちは白熱した(?)カラオケバトルを楽しんだ。


「7時間もいたんだな」


俺たちは店の外に出て、辺りがすっかり暗くなっているのに気付いた。


「はい、優勝賞品」


「おー、ありがとう」


なんか俺が一番点高かった。

って、これ子供が食べるやつじゃん!?

あの練ったりするやつ。

小学生の時は実験みたいで面白かった記憶があるけど。


「優勝賞品ってこれ?」


「久しぶりに食ったら案外旨いかもじゃない?」


「ほんとか……?」


……まあ、帰ってから食べよ。


翔琉とは帰る方向が同じなので、一緒に電車に乗る。


「で、一ノ瀬さんはどんな感じなの?」


「ん、なにが?」


「付き合えそうなの?」


翔琉はほんとにラブコメ脳が過ぎる。


「んー、最近は距離縮まってきてる気はするんだけどね……」


……「気がする」じゃないか。一ノ瀬さんはそこまで男慣れしてないのか、距離の縮め方が心臓に悪いときがある。


「じゃあもう告ればいいじゃん」


「いやー、テストで勝って、格好良く決めたいんだよ」


俺はちょっと苦笑いしながら言う。そのこだわりは譲りたくないというか。

……ベ、別に先延ばしにしてるわけじゃないからね!?


「……ははは」


翔琉は面白そうに笑い出す。


「なぜ笑う……?」


「なんかそういう純粋なところいいよね、優希。ラブコメテンプレ主人公か」


そう言って翔琉はまだ笑い続ける。


「そんなに笑うか?」


「いやー、ちょっとおかしくて。でもそんなところが好きになってもらえる要素なんだろうな」


「おー、それ褒め言葉?」


「じゃあそういうことで」


「急に適当になるの、なんなんだ」


「まあ、頑張れよ。夏休みでなんか良い報告聞かせろよー?」


「……おう」


正直俺も夏休みは期待で一杯だ。

一ノ瀬さんとどっか行けたらいいなー。

今のうちに行きたいところを考えとこう。


……最有力候補は海だな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る