第6話 来訪と羨望

俺は基本的に毎週末、家事を一ノ瀬さんに頼んでいるのだが……


(今日は頼みづらいよ……)


 そりゃそうだ。昨日の事件は気まずくならないはずがない。


 今後の関係が心配で、いつもより眠れなかったし。


 いつも7時間以上寝る健康優良児が4時間半しか寝ていない。流石に非常事態宣言レベルだ。


(どーしよ。。。)


俺は今日をどうやって生きていこうか考えていた。

またカップ麺依存生活に逆戻りかな。

俺はたぶんハイライトの消えた目をしてるかな、いま。


「今日は家事代行しなくていいんですか?」


 救済措置発動。

 一ノ瀬さんから、待ちわびていた通知がやってきた。


「やってほしいですお願いします」


 俺はできる限りのスピードで指を動かし、即返信する。


 放っておかれて、昼カップラーメンだったらマジで午後乗り切れないとこだったよ。。。



「……こんにちは」


「……今日もよろしく」


お互いの様子の探り合いみたいな感じになっている。


(はじめから若干気まずいし……)


正直頭抱えたいほどなんだけど。昨日の俺やらかしてくれたなあ!?


「とりあえずお昼作りますね?」


探り合いが続いてるなか、一ノ瀬さんが先に話を切り出してくれる。

 俺はやることがない。 何するかなー。。。


 ピンポーン。


「あれ、俺なんか宅配便頼んでたっけ?」


 玄関まで走って行って、ドアスコープを覗く。アマゾンとか頼んだの忘れちゃうよね。


「え……!」


「どうしましたか?」


「なんか俺の親来たんだけど……?」


「え、一条くんの友達として、やっぱり挨拶したほうがいいですよね?」


一ノ瀬さんは、俺に確認するように聞く。

友達として認識されてることが少し嬉しい。昨日のことがなければおもいっきり喜んでたな。


……昨日のやらかしがあっても友達の最低ラインは超えてるのか。

心の中で俺は少しニヤニヤしてしまう。


「あんまり出たくないけどなあ、恥ずかしいし」


 俺はそう言いつつもドアを開ける。

一ノ瀬さんのさっきの発言のおかげで、多少気分が良くなってる。


「久しぶりー、優希ー。何でゴールデンウィーク帰って来なかったの?」


「あー、テスト勉強してたから」


……まあ、実際のとこはそんなにしてないけど。


「そうなのー、学校はどう?」


母さんは俺の本音に気付くことなく、楽しそうに聞いてくる。


「うん、楽しいよー。友達も割と出来たしね」


「良かったじゃないー!玄関でずっと喋るのもあれだから上がるね?」


「……うん」


 玄関より先へ侵攻されてしまった。防衛失敗……。


「すみません、ご挨拶遅れました、優希くんの友達の一ノ瀬です!」


 一ノ瀬さんは聖女としか例えようのない笑顔で挨拶する。


「あら、こんにちは!」


 なんか母さんが目を輝かせてめっちゃ俺の方見てくる。そして俺の腕をぐいぐいと引っ張る。

 一回玄関の方に戻るらしい。


「彼女できたの?」


 ひそひそと小声で聞いてくる。声が弾んでいるのを頑張って抑えているような感じだ。


「違うよ、ふつーに同じクラスの友達だからね? ほんと余計なこと言わなくていいからね!?」


 俺は母さんにしっかり念を押しておく。


自分で言っておきながら、彼女ではない同じクラスの友達(女子)がお昼作ってくれるってたしかにどういう状況?とは思った。

……ふつうに考えたら彼女にしか見えねえな。


 ていうか、なんでこのタイミングでやって来るかなあ!?

 ちょうど一ノ瀬さんお昼作ってもらってる時に来るとか、凄い偶然だな。


「てか父さんは?」


「優希の高校見に行ってるー」


「そうなんだ」


……なんで今?

ほんとに父さんの行動には謎なところがあるんだよなあ。近くまで来たら俺に会って帰ればいいのに。


「出来ましたよー?」


台所からエプロン姿の一ノ瀬さんが出てきて、料理を盛り付けたお皿を運びながら声をかけてくれる。


「あ、ありがとう!!ごめん母さん、お昼食べるわ」


「うんー」


 今日のメニューは、ミネストローネとコールスローサラダ。


 一ノ瀬さんはやっぱり何でも作ってしまう。 すげー。


「わざわざ優希のために作ってくれてありがとねー」


「いえいえ、いつも美味しいって褒めてくれるので、私も作ってて楽しいです!」


「そうなんだー」


 母さんと一ノ瀬さんはなんか楽しそうに台所で話している。


「一ノ瀬さんと優希はクラス一緒なの?」


「はい!席隣なんです! 優希くんは毎日話しかけてくれる友達です!」


「優希も一ノ瀬さんと話せて喜んでると思うよ」


「だったら私も嬉しいです!」


 会話の内容はバッチリ聞こえてます!

 ちょっと恥ずかしいけど、胸が温かくなるような嬉しさが込み上げてくる。


「じゃあ、そろそろ帰るわね」


「うんー、ごめん、俺ちょっと外まで送ってくるわ」


 そう一ノ瀬さんに言う。


「一条くんはお母さんと仲いいんですね」


「そうなのかなあ……。じゃあ、行ってくるねー」


「はい!」


一ノ瀬さんは笑顔で俺のことを見送ってくれる。エプロンを着けたまま見送ってくれるとか……結婚後の風景なの?


俺は玄関から一歩外に出る。



「……羨ましいな」


 一ノ瀬さんがそう呟いたような気がしたけれど、ちょうどドアを閉めるタイミングでしっかり聞き取れなかった。

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