第4話 終わり良ければ……?

「先に私がしてもいいですか?」


「いいよー」


 まだ鼓動がうるさい。

 たぶん今すぐプレイしてもまともに腕前を見せられない。落ち着け、俺。


「あれ……? 上手くいきません……」


一ノ瀬さんは困った顔をして、機械の中の景品をじっと見つめる。

 アームには引っ掛かっているが、持ち上げるときにすぐに落ちてしまう。


 流石にこれは負けられない。今まで数えきれないほどプレイしてきたからね!!


「もうちょっと色んな角度から見た方がいいかも、斜めとか」


「わかりました!」


 まあでも、アドバイスしてすぐにはなかなか上手くいかない。


「一回やってみせてもらってもいいですか?」

「おっけ」


 めっちゃ一ノ瀬さんに見られながらプレイする。

 いや、プレッシャーかかりすぎなんですが!?


「何取ってほしい?」


「あれが欲しいです!」


そう言って一ノ瀬さんが指さしたのは、なんか可愛い猫のキャラが描かれたお財布だった。


(めっちゃ意外……)


 これがギャップ萌えってやつなんだろう。


 クール系美少女がこれ持っているのを想像するだけで尊い。

 その姿を拝むためにも、この戦いには負けられない。


「おっけ」


 100円を入れてスタートする。

 5プレイもいらない。一回で十分だ!!


(タグとかついてないから難しいな)


 慎重に位置を確認してアームを動かす。


(ここだ!)


 ジャスト。あとはアーム君が頑張るだけだ。俺はレバーから手を離す。


(そこ、そこ!)


 アーム君はお財布をしっかり掴んでくれた。


(あと15cm、頑張れ!)

俺はのろのろ動くアームを、祈りながら見守る。


「おっしゃ!」


 財布が取り出し口の所に落ちてくる。

 勝ちました。


「ありがとうございます!これから使います!!」


「喜んでもらえて嬉しいよ」


 一ノ瀬さんは笑顔を見せる。


 それだけで俺も凄く良いことをしたような、幸せな気分になる。


「次どこ行こっか」


「そうですねー、服見に行きたいです」


「いいねー」


 一ノ瀬さんにはどんな服でも似合うだろうな。

 家事代行のときの服も格好いいし。


 そして歩き出そうとするのだが、人が多くて思うように進まない。

 やっと店の外に出られた。


「いや、全然進まなかったね……!?」


右にいる一ノ瀬さんに話しかけ……

え。あれ。一ノ瀬さんがいない。やば。


 俺は辺りを見渡したあと、急いで人の間を縫うように戻っていく。


 何回か人にぶつかった気がする。


(すみません……)と心の中で謝る。


 見つけた……


 でもなんかチャラそうな大学生ぐらいの男たちに絡まれている。


 ようやくその場までたどり着いた。


「今日1人で来てるの?」


「……友達と来てます」


「女の子ならその子も連れてきてよー」


「……っ。もう、いいですか?」


「まあまあ、そう言わずに~」


一ノ瀬さんは奴らを振り切ろうとするけれど、しつこくついてこられている。


「俺、だけど。残念だったね、男で」


 騒がしい店内の音に負けないぐらい大声で言う。


「は?」


 そいつらが一斉に俺の方を見る。

 で、俺のとこに詰めよってくる。


(なんだこいつら……)


 どうする、俺。考えろ。


「困ってるの、見たら分かりますよね?

 あと通行の迷惑なんですけど」


「初対面の人に向かって生意気すぎない?」


 そう言って俺の肩を押してくる。危ないな。


「別に暴力振ってもいいですけど、刑務所入ったら今よりもモテませんよ?」


「チッ」


俺は最後にやっと笑って見せる。奴らはめっちゃ睨んできたけど、どこかへ行ってくれた。

……ふう、心臓止まるかと思った。やっぱり強がりは危険だな。


「大丈夫?」


「……はい」


「ごめん、俺がちゃんと見てなかったから……」


「いえ、私の不注意です……」


 ちょっと一ノ瀬さんの瞳が潤んでいた。

こんなとき……なんて声をかけたらいいんだろう。


「……これからはしっかり掴みます」


「え?」


予想外の言葉が聞こえて、俺は目を丸くする。

 一ノ瀬さんは俺の服の裾をぎゅっと掴みなおした。

 そして柔らかい微笑みを見せる。


(少しでも笑ってくれて良かった……)


 そう思って俺たちはまた歩き始めた。


ようやく衣料品売り場にたどり着いた。

都会って移動大変すぎません!?


 エスカレーターがどこにあるかも分かんないし……。


ちょっと疲れたなあ。


 しかし!


 ……今日の一大イベントはこれからと言っても過言ではない!!!


 これから疲れも吹き飛ぶはずだ。

 なぜなら美少女様の試着会を眺められるからね!! 控え目に言って最高っす。


「あれ着てみてもいいですか?」


色々な服をチェックしていた一ノ瀬さんがその中から1つ選び出す。


「うん!」


 選ばれたのは白のワンピース。

 ワンピースさん、光栄だね……!!


 試着室に一ノ瀬さんが入って着替えている間、ワクワクしながら待つ。端から見れば不審者かも……。


「着替え終わりました」


 そう言って試着室の扉が開く。


(おおっ……!)


俺は一ノ瀬さんの天使みたいな姿につい息をのむ。

 想像通り、めちゃくちゃ似合っている。

 いつも以上に清楚美少女感がある。透明感3倍増しって感じ。


 なんか後ろから光が差してきている気がする。圧倒的聖女パワー。心が洗われていく……。


「……どうですか?」


「……可愛いです。めちゃ似合ってる!!

 なんか一ノ瀬さんのイメージに凄く合ってるというか」


「……あ、ありがとうございます」


 若干恥ずかしそうに試着室の扉を急いで閉める。


(あれ? あんま褒められ慣れてない?

 意外だなー)


 いつもと違った表情を見ることができて、本音ではワンピース姿の美しさも相まって悶絶しそうなところなんだけど、ここは平然と待っておこう。


「次は何を着てみましょうか……?」


 悩んでいる一ノ瀬さんと一緒に店内を歩き回る。


「これはどう?」


 着て欲しいな、と思った黒のパーカーとベージュのプリーツスカートを提案してみる。


「じゃあ、着てみますね!」


 そして、試着室へ入っていく。


「どうですか?」


「何着ても似合うのすごいなあ……

写真撮りたいぐらい似合っているよ……!」


 おっと。本音がデテシマッタ。


「そう言ってもらえて嬉しいです。じゃあ2つとも買ってきます!」


 やっぱりささっと戻っていった。照れ隠ししてるの可愛い。




 駅まで帰ってきた。辺りは薄暗くなっている。


「今日はありがとうございました。色んな所を見れて楽しかったです。あと、その……助けてもらいましたし」


一ノ瀬さんは頬を少しだけ赤くして、目をそらしながら恥ずかしそうに言う。


「俺も楽しかったよ!

あの時は嫌な思いさせてしまったと思うけど、最後は笑ってくれて良かった……!」


「はい、またいつか行きましょうね?」


「もちろん!」


 一ノ瀬さんが見えなくなるまで、と思って手を振る。


「家まで、気をつけてねー」


「はい!」


 すると、手を振り返してくれる。

 美少女様は最後にも癒しをくれた。


(色々あったけど……また距離縮められたかなあ、?)


今日のお出かけデートはかなり収穫を感じられた。
















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