第3話 テストとご褒美お買い物デート?

俺と翔琉は黒板に大きく掲示されたテストの時間割を眺める。


「テスト期間って、案外楽じゃない?」


「優希、勉強のし過ぎで頭おかしくなった?」


心配そうに翔琉がじっと眺めてくる。普通にイケメンなんだよな、こやつ。


「いや、それはねえよ。(勉強してないから) テストって2、3時間で終わるじゃん?」


「そうだけども」


「俺もそろそろちゃんと勉強しないとなー」


 そんなこと言っていつも勉強やってこなかったのが俺なんだけどね。


 一ノ瀬さんは当たり前のように10分休みでも机に向かっている。


(俺も勉強するか……)


 とりあえずペンを握って課題を開く。


 授業はちゃんと聞いてるはずなのでわりと解ける。


(ま、8割は行けるかなー)



 気づいたらテスト1日目の朝になっていた。

 テスト期間ってやってくるの早くない? いつも気が付いたらやってきているような。



 ーーーテスト期間には1つ大きな問題がある。


 それは、一ノ瀬さんに家事代行を頼めないということだ。

 あの美味しい手作り料理も食べられないし、何より話せないことが辛い。


 学校で話せる雰囲気じゃないし……。

今テストに向けてめっちゃ追い込みかけてるだろうから。


 早くテスト期間終わってくれ!?


悲痛な心の叫びが危うく声に出るところでした、危ない危ない。



 1日目のテストが終わる。まあまあかなー。

 さてさて、明日の勉強も一段落ついたし、夕食はどうするかな……

 今日は何か作ろうと思って冷蔵庫を開ける。


 こないだ知ったコンソメなるものと冷凍されたミックスベジタブルでスープ作って、ゆで卵と白ご飯(レンジでチンするやつ)食べるか。


「できたー!!」


 これで料理を作った気分になっている。


 俺の脳内一ノ瀬さんが「それは料理と呼べるのでしょうか……」って少々引き気味で言ってる気がする。


 まあカップラーメンよりかは進化しているから許して?


「うん、美味しい」


コンソメ作った人マジ偉大。溶かすだけで美味しいスープが作れてしまうので。


 この調子で行けば来月ぐらいにちゃんと料理作れるようになるんじゃない!?と成長を感じた。


 テスト2日目。

 各教科をふつーにこなしていく。


 帰ろうとすると教室で残って勉強しようとする一ノ瀬さんを見かけた。


 一緒に勉強できたらどんなに幸せだろうか。


 まあでも勉強の邪魔になったらいけないし、まず俺が勉強しなくなる。


 しかし、テスト関係なく勉強会するのはありだな。誘ってみるか、今度。

 ……今誘う勇気がないだけなんだけどね。

 このヘタレが。


 テスト3日目。そろそろ限界が来そう。

 今日はカップラーメンで。。。


勉強が一段落ついたところで、お湯をカップに注ぐ。やっぱりカップ麺の発明も偉大だわ。


 テスト最終日。

 あと10分で終わるよ……。


 ちらっと隣を見たら、一ノ瀬さんはめっちゃ見直ししてた。……俺も見直ししますかねー。


 チャイムが鳴って、皆一斉にペンを置く。


「「やっと終わったー!!」」


 やっとテストから解放された。歓声が教室の至るところから聞こえる。


「……一条くん」


 一ノ瀬さんにいきなり耳元で名前を呼ばれて筆記用具落とした。


「ど、どした??」


俺は床の筆記用具をそのままにして一ノ瀬さんの方を向く。


「まだお昼前なので今から買い物行きませんか? 一条くんが良ければ」


一ノ瀬さんは学校でおそらく初めて(※俺調べ)男子に見せる笑顔で言う。

 幸いテスト後の喧騒に紛れて皆には聞こえていない。


「まじで!? もちろん、いいよ」


つい上ずりかけた声を抑えて一ノ瀬さんにだけ聞こえるように言う。

 テストのご褒美デート(?)も思ったより早くやってきた。



「さっそく行こうか?」


「はい、行きましょう!」


一ノ瀬さんと一緒に校門を出る。

そして、何駅か電車で移動して、商業施設に入る。


「じゃあ、ここでお昼食べませんか?」


「!? いいけど……?」


 一ノ瀬さんが提案したのは激辛メニューしかない店だった。これ食べれるの……?


「久しぶりに外食行くので楽しみです!」


「外食で何食べたことあるの?」


「えっと、お寿司とかですかね」


(絶対回らないやつだ……)


タワマン住みということをこないだ知って、俺の中で一ノ瀬さんの令嬢イメージが強くなってる。



 俺たちは連れ立って店内に入る。


 店中の視線が俺たち(9割は一ノ瀬さん)に集まっている気がする。まあ当たり前だ。


 学校帰りだから高校の制服を着ているが、溢れるオーラが違う。


 そして俺への視線が冷たい気がする。……気のせいだよな。


「何頼みましょうか?」


「んー、やっぱカレーかな」


「じゃあ、私もそうします!」


 しばらくすると見るからに香辛料の分量を間違えたような赤色のカレーが運ばれてきた。


(え……)


これって人間が食べていいやつですか?たぶん違うと思うんですけど。


「「いただきます!!」」


 とりあえず一口食べてみる。


 辛いじゃなくて痛い。もう味感じないよ……。


「美味しいですね!」


 え、普通に食べてるんだけど。普通に、というより味わって美味しそうに食べてるな。

 なんで?

 また一ノ瀬さんの強いとこを見つけてしまった。


 そしてカレーを口に運ぶ所作が育ちの良さを伝えている。スプーンの音とかも全然しないし。


(激辛カレーとか食べたことなかったよね……?)


(お嬢様的タワマン住みの天才美少女なのに、なんでバレたらいけないバイトなんかしているんだろう?)


 いつもお金もあんまり受け取ろうとしないし……。

つい先日も感じた疑問が俺の頭の中にまた浮かんでくる。


 謎が深まるなあ。

 まあここで聞くことではない。


 俺も一応激辛カレーを食べ終えることができた。口めちゃくちゃヒリヒリするんですが!?


「甘いもの食べませんか?」


「うん、それがいい」


 そしてアイスクリームを注文する。


 いやーこれですね。とろける甘さ。激辛カレーを耐えきったからこそ生まれる感動。


 今まで食べたアイスでランキングトップに来る美味しさ。

 一ノ瀬さんもめちゃくちゃ美味しそうな表情をしている。


「それじゃあ、次はどこに行きますか?」


「んー、一ノ瀬さんの行きたいとこは?」


「そうですね…… あそこに行きたいです!!」


 次の提案は……ゲーセン?


「賑やかで楽しそうです!」


 一ノ瀬さんはきらきらと眼を輝かせてる。



 音の洪水が起きているゲーセンに足を踏み入れる。

 人多すぎません!? 歩きづらいほどなんだけど!? 平日なのに繁盛してんなー。


「!?」


 一ノ瀬さんが俺の制服の裾をぎゅっと掴んでる。

 え? あー、離れたら危ないから?


 いやでもこれは、美少女がやったらダメなやつだよ!?


 これされたら、世の中の男は皆意識するに違いない。

 俺の心臓もうるさい。


 まだ俺は一ノ瀬さんに釣り合うレベルじゃないのに、期待してしまうじゃん……


「あれ、しませんか?」


「いいよー、UFOキャッチャーねー」


 ふー。やっと平静を取り戻せた。


 でも一ノ瀬さんの顔を覗いたら、ほんのり頬が赤くなっていた。

 その表情も見せちゃダメなやつ……!!


 心臓バクバクなまま、UFOキャッチャーに挑むことになった。

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