500話 公演初日の準備です
ナノは朝食を取った後、にゃんタンに向かって話した。
「今日はあなたの力を借りない。ここで留守番していて」
「ワカッテイルヨ。コレカラハ戦イノ日々。君ノ仲間ト勝利ヲ目指スンダ」
「うん! にゃんタン、頑張るよ」
公演初日の他人から見れば本当にどうでもいい儀式を終え、ナノは劇場へと向かうのだった。
◇
公演は基本午後の2時~3時30分の
いつも差し入れをしてはナノ様に貼りつこうとしているメイなのだが、今日は黒猫甘味堂主催の観劇と交流会の責任者のためお店で準備をしている。
そのため、スポンサーでもあるレイシアとオズワルド、従者としてサチが差し入れと劇場スタッフへの挨拶やリハーサルの見学をすることになっていた。
10時過ぎにレイシアたちが劇場に着くと、ナノと支配人始め劇場スタッフ、それから興行主であるテキヤの親方が迎えに出てきた。
支配人一同はもちろん平民。いきなりの貴族、それもオヤマーの元領主の来場に襟を正して挨拶をした。
「本日はようこそお越しくださいました。私は支配人のイコロでございます。オズワルド様、レイシア様におきましては、これからも『甘美・黒猫歌劇団』へのご贔屓をよろしく申し上げます」
貴族がパトロンにつくことはほとんどない平民街の劇団に劇場。ましてや子爵とは言えあのオヤマー領の元領主。冬だというのに汗だくになっている。
「ああ、気を使わんでかまわん。儂の孫のレイシアが贔屓にしているんだ。それより、儂よりも高貴な公爵家のご婦人方もパトロンだ。さすがにここには来ないが、それに比べたら儂など大したことがあるまい。わはははは」
プレッシャーが半端ない。ナノが支配人にハンカチを手渡しながら、「大丈夫ですよ」と声をかけている。スタッフ一同も役職と名前を伝えた。彼らにとって今はそれが精一杯。
レイシアは気さくな態度で返事をしながら声をかけた。なんとかお祖父様のプレッシャーを減らすことに成功していた。
最後に、興行主が挨拶をした。
「あ、あっしはこの辺りを仕切っているガラン組組長ガランだ。祭りや芝居の興行をまとめている。こんな言葉しか話せねえが、申し訳ねえ」
オズワルドは「ああ、テキヤ稼業のことは理解している」と言葉遣いに対しても咎めることをしなかった。
「あ、ありがてえ」
ガランがそう言うと、レイシアが挨拶を返した。
「あっしは黒猫グループの
いきなりの豹変とはみ出した軽い殺気に辺りは凍り付いた。
それなりに死線をくぐってきたガランは、(こいつ、マジもんでやべえ)と格の違いを感じていた。
「レイシア様、言葉遣いを一般人対応にお戻しください」
サチがたしなめると、レイシアはすぐに普通に戻った。
「では、お昼ご飯はこの広場で私達がご用意させて頂きますね。皆様もお忙しいでしょうからお仕事にお戻りください」
支配人以外は各自仕事に戻った。支配人の仕事はオズワルドへの接待。レイシアとサチはお昼の準備を始め、オズワルドは支配人から劇場の案内をしてもらうため移動を始めた。
◇
とは言っても、すぐに準備が終わってしまうのはレイシアとサチだから。大体の料理は温かいままレイシアのカバンに入っていたし。
せっかくだから、二人は客席の後ろの席で練習をみせてもらっていた。
「今は衣装を着けていないけど、衣装を着けてメイクをするともっと凄くなるの」
脚本家イリアが自慢げにレイシアに語った。
「今さら私の仕事はないから、何かあったら私に言って! レイシア、本当にオーナー様なのね」
その時、舞台で本物の悲鳴が上がった。
役者の一人が足をくじいてしまったようだ。
「大丈夫か! ノン」
ナノが駆けつけた。
「ノンの手当てをする。みんな早めのお昼にしてくれ。状況は分かり次第連絡をする。一旦休憩だ」
ナノとニーナがノンの両側から肩を貸し楽屋に連れていく。
レイシアとサチは食事を配ることに専念した。
団員とスタッフはノンを気にしながらも、いつもより豪華で美味しい出来立て温かな料理に心を奪われていた。
◇
「ノンの怪我については問題ない。明日から復帰できるとお医者様は断言してくれた」
休憩が終わって舞台に集められた関係者はほっとした。
「だが、今日は舞台に上げることができなくなった。ノンの出番は4つ。それぞれに代役が必要になる。本番まで仕上げてくれ」
代役と聞いて役の少ない団員の目の色が変わった。心配はするが、少しでもチャンスがあれば多く出たいのは役者としての本能。ダンスパートで二人、コントパートで一人名前が告げられた。
「そして、メインの演目『制服王子と無欲の聖女』での彼女の役だが、……あの役は役なしの皆には出来ると思える人がいないんだ。ちょい役に見えるが重要な役だ。だから。レイシア様、今日だけ代役お願いできないでしょうか」
(((はあぁぁぁぁ???)))
団員全員が疑問しかなかった。なぜ、素人もド素人のレイシア様に? そう思うのは必然。
ところが、舞台スタッフからは「いいんじゃないの」とか「なるほど」とかの声が上がった。イリアも「レイシアならできそうね」と賛成していた。
何が何だかわからぬまま、イリアとナノに説得されたレイシアは舞台に代役として立つことになった。
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