メイの策略
メイド喫茶黒猫甘味堂では、メイによる『観劇の心得』講義が開かれていた。歌劇団を初めて見るお客様のために、基本的な観劇のルールを確認してもらうため、という名目で行われている。
「一般の演劇は、一時間半~二時間のあいだ会話によるストーリーを楽しむものです。オペラはそこに音楽を取り入れ、歌を中心に物語を進めます。しかし、歌劇団の公演はそれら伝統的な演劇のスタイルとは違った、全く新しいオリジナルに満ちた構成と演出になっています。そこを理解し、戸惑うことなく公演を盛り上げましょう!」
「「「はいっ!!!」」」
「約一時間半の構成はこうなっています。第一部、音楽劇。こちらは40分ほどの歌あり踊りありのお芝居になります。今回は大人気作家でレイシア様の先輩でもあるイリア・ノベライツ様の代表作、『制服少女シリーズ』の名場面を切り取り繋ぎ合わせ、歌劇団オリジナルストーリーにまとめたものです。原作を知っている方々にも、意外なラストで楽しませる。そんな作品に仕上がっております」
「「「おお~!!!」」」
「拍手は歌や音楽が終わるタイミングでよろしくお願いします。セリフや歌を邪魔してはいけません。また、セリフが始まったら速やかに拍手はやめる事。よろしいですね」
「「「はいっ!」」」
「第二部はダンスと歌のショー。その中にいくつかの
「「「おお~!」」」
「そして、今回私達黒猫甘味堂全面協力による演劇界初の試みをおこないます」
「「「???」」」
「それは……。甘美・黒猫歌劇団オリジナルグッズ発売です!!!」
「「「えええ~!」」」
「会場から開演前、また開演終了後にここでしか買えない限定グッズを売り出します。これはレイシア様のアイデアです。本当に商売に関しては既成概念の捕らわれない発想力があります。商品としましてはこのようなものになります。まずは今回の第一部、『制服王子と無欲の聖女・黒猫歌劇団オリジナル台本』です」
「えええ~~~!!!」
「観劇の感動と興奮を、家に帰った後も思い出せる、何度となく繰り返し堪能できる目玉商品です。なぜ今まで考えつかなかったのか。みんな、欲しいよね!」
「「「欲しいです~!!!」」」
「そうでしょう。その台本が手に入るのです! 買って! 全員買ってね!」
「「「はいっ!!!」」」
「次は今回の公演のポスター。ナノ様とニーナ様のお姿が描かれた折り目一つない美品のポスターです」
「「「買います!!!」」」
「よろしい。この中に黒猫のマークが書いてありますね。このマークは黒猫歌劇団のシンボルマークになります。デザインしたのはなんとナノ様!」
「「「ええっ!」」」
「ナノ様はこの猫様に『にゃんタン』という名称を付け、黒猫歌劇団の象徴にしました。そこでにゃんタンとロゴを印刷したレターセットやハンカチーフやトートバッグなどを取り揃えました。その中でも本命はこの扇です!」
「「「なんで?」」」
「公演のフィナーレに『黒い仔猫の鳴く頃』という黒猫歌劇団のテーマソングで終わることが決定しました。その際、客として劇団に感謝をするために、この扇を開きにゃんタンを掲げながら大きく左右に振るのです。もちろん曲に合わせながら! これにより、私達も劇団の一員として参加することになるのです。公演の締めに私たちが参加することによってステージが完成を迎えるのです!」
「「「おおお!!!」」」
「そして皆がグッズを買うことによってナノ様始め劇団を支援するパトロンの一員になれるのです! そう、買えば買うほど劇団を推してゆくことができるのです! グッズを買うのはお仕事、いえ、推し事なのですわ!」
「「「おおおおおおおおお――――!!!」」」
「ここにいる皆様には特別に先行販売いたします! セット! セット売りですが皆、買うよね!」
「「「もちろんです!!!」」」
こうして、見事全員に全てのグッズを売りつけることに成功したメイだった。もちろんグッズ販売の特許は取ってある。今後他の劇団や楽団が真似しようとした時は、レイシアの商会がグッズ製作を一手に引き受けるシステムが出来上がり、多大な儲けを出すことになるのだが、それはまた別のお話。
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