閑話 オープニング回収 その後②

 俺は何も悪い事はしていなかったはずだ。

 全てはアリアに失礼な態度を取った店員が悪いはず。


 だけど……。


 アリアに言われて世界が広がった。

 俺は、俺の目線でしか物事を見ていなかった。


 やがてはこの国を担う俺の未熟さを気付かせてくれたアリア。

 やはり、君は最高の女性だ。


 目の前で美味しそうに料理を食べている。うん。それをみているだけでとても幸せな感覚になる。


「なにみているんですか、会長」

「ん? なんでもないよ」


 あまり眺めるのはマナー違反だよな。俺も目の前のステーキにナイフを入れ一緒に食べた。熱いまま食べる方がおいしいよね。


 きちんと思いを伝えないといけない。そう思いながらもなかなか言えないのはどうしてだ? もしかして否定されるのが怖いのかもしれない。

 生徒会の仕事を丁寧にしてくれていることへの感謝とか、そういった事しか口から出てこない。アリアは仕事を認められたのが嬉しいのかにこにことしてくれているんだけど。


 ダメだ。レイシアに言ったようになってはいけない! 思い返してみたらなんて一方的で事務的な告白だった! あの時は必死すぎて……焦っていて……うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~! 恥ずい! ぐぉぉぉぉ~~~!


 思い出してはいけない! レイシアに呆れられたに違いない! 俺としたことがぁぁぁぁ~~!


 アリアがいぶかし気に俺を見ている。

 そうだ、落ち着け。今はアリアといるんだ。レイシアの事なんか考えるな! 彼女とのデートの途中で他の女の事考えているなんて、さっき読んだラノベの最低王子みたいじゃないか! アリアに集中するんだ! 褒めろ! とにかく褒めるのだ! そうだ、ネックレス! それを皮切りに告白すれば!


「似合っていてよかったよ」

「え?」

「そのネックレス。エメラルドの輝きはとても君に似合っているよ。君の瞳の色と同じアメジストのイヤリングとよく調和している」


 ここまで言えば伝わっているよな。俺の瞳の色の宝石を身に付けている意味を。

 

「もったいないお言葉。私なんかに……。ありがとうございます」


 よっしゃぁ! 告白成功した!


「俺といる時、いつも身に着けてくれ」

「え? それでは平日は毎日付けることになりますが」


 毎日付ける! そんなに会いたいのか。


「このようなお高いものを」

「いいんだ。そうして欲しい!」

「……分かりました」


 やった~! なんで今は休みなんだ。もう四月まで会えないっていうのに。


「会長もそんなお顔をなさるのですね。意外ですわ」


 俺の顔を見てにこやかに微笑むアリア。ああ、本当に付き合えたんだ。


「俺の事はこれからアルフレッドと呼んでくれ。なんならアルでもいい」

「え? そんな。恐れ多い」


「そう呼んで欲しいんだ。アリア」

「会長。では、アルフレッド様。これでよろしいのでしょうか」


「様なんか付けなくてもいいんだが。まあ最初はそこからか」


 幸せな気分で食事を終え、アリアへの告白は成功した。



【アリア】


 制服に高級ネックレス。これってちぐはぐじゃないの?

 オシャレに無縁なあたしでも、違和感ありすぎな組み合わせだと思う。


 それに対して宝石店から頂いたイヤリングのささやかさ。値段じゃないのよね。いかに似合うかを考えてコーディネートしたんだと思う。私の瞳と合わせながら、小粒で主張しないアメジストの石。それを銀細工の繊細な台座で引き立てている。お手入れは大変な銀だけど、制服にはとても似合っていると思うわ。


 さすがプロは違うね。


 まあ、ネックレスはここぞという時だけ付けることにしましょう。卒業式とか。王都を去ったら売り飛ばせば部屋を借りる資金になるし。王都で売らなければいいよね。ありがたくしまっておきましょう。


 会長との食事は高カロリーだから助かる。明日の朝ごはんは抜いてもいいよね。昼も抜けるか? うん、おいしい! って会長、あたしをじっと見てるよ。卑しいのばれた?


「なにみているんですか、会長」

「ん? なんでもないよ」


 絶対見ていたよね。お上品にしないと。

 あたしは必死に猫をかぶった。危ないあぶない! さっきのテキヤモード出ていないよね。


「似合っていてよかったよ」

「え?」

「そのネックレス。エメラルドの輝きはとても君に似合っているよ。君の瞳の色と同じアメジストのイヤリングとよく調和している」


 嫌味か? いやあの顔はマジだ。あたしの認識が間違っているのか? 貴族のオシャレは分からないし、これがいいというのだろうか? そうなのか? まあ、会長がそう言うのならそうなんだろう。認識を改めないと。


「もったいないお言葉。私なんかに……。ありがとうございます」


 どう返事していいか分からないから、とりあえず感謝の意を伝えておこう。


「俺といる時、いつも身に着けてくれ」

「え? それでは平日は毎日付けることになりますが」


 生徒会、毎日あるよね。学園につけて来いって事? いやいやいやいや、こんなお高いものを! 遠慮させて頂きます。


「このようなお高いものを」

「いいんだ。そうして欲しい!」

「……分かりました」


 業務命令ですか。仕方ない。生徒会としてなにか必要なことなのですね。


 すごく嬉しそうなのはなぜ? いつも取り澄ました会長の顔が、普通の学生みたいに見える。


「会長もそんなお顔をなさるのですね。意外ですわ」


 にやけた顔って言うの? こうしてみると会長も男の子ね。まあ気取っているのも疲れるのかもしれないね。


「俺の事はこれからアルフレッドと呼んでくれ。なんならアルでもいい」

「え? そんな。恐れ多い」


 無理無理無理無理無理!!!! 何を言い出すのですか会長! 身分差ありすぎですよね! ましてやアル⁈ まあ、ふざけているのでしょうが。


「そう呼んで欲しいんだ。アリア」


 どんな意図があるのでしょうか? 生徒会をもっと心地いいものにしたい? そういうこと? まあ、業務命令ならば仕方がない。


「会長。では、アルフレッド様。これでよろしいのでしょうか」

「様なんか付けなくてもいいんだが。まあ最初はそこからか」


 いや、様は付けないと不敬になりますよね! あたし、男爵で後輩なのですよ!


 もう少しで食事は終わる。早く帰って寝たいよ~!

 あたしは猫が逃げてしまわないように、必死にお上品にしていた。

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