490話 卒業パーティー 第三章(完)

 王女を筆頭とした卒業式は滞りなく終了した。王子も生徒会長として式の準備から進行を、先生たちや先輩の生徒会員の助けを借り、自分の側近予定の生徒会員をその気にさせやる気をなんとか出すことができたおかげで何とか乗り切ることができた。


 問題はこれから始まる卒業パーティー。


 パーティー会場は、公爵から男爵までの貴族コース、騎士コース、聖女コース、それと法衣貴族はいくつかのゼミが固まったグループで行われる。全て卒業生とその父兄、王族、そしてゼミの生徒が出席できる。また貴族の子女はエスコートする相手を招待することができる。


 貴族コースのパーティーでは、卒業生筆頭がキャロライナ王女と婚約者(仮)のライオット皇子。


 王族として王と王妃と王子。王子はパートナーとしてアリアをエスコートしようとしたが、アリアはあくまで生徒会の立場だと思っていたので一人で先に入場。


 シャルドネゼミからは、卒業生ナズナとパートナーとしてナノ。ポマール(四年)はイリアをパートナーとしてエスコート。アルフレッドは王子としての役割をしなければならない。そしてレイシアはお祖父様のオズワルトがエスコートをして入場した。


「ナノ様。もうじき公演ですよね。こんな所で油売っている暇あるでしょうか?」


 エスコートされていたナズナが、ドキドキを隠せないまま黒猫歌劇団団長のナノに聞いた。


「ああそうだね。今回の公演の稽古は大切だよ。でもね、本物を経験するのは未来への投資なんだ。特にイリアはこういうパーティーはずっとパスしていたからね」


「この格好だけでも辛い。っていうか恥ずかしいね。貴族のセンスが理解できない」


 イリアは自分の肩から肩・鎖骨・胸元へと目線を動かし、フッと息を吐いた。


「作品の幅を広げリアリティを出すには実践が一番なのさ。ほら始まるよ」


 楽団が音楽を奏でると、エスコートをされ満面の笑顔で会場に入ってくるキャロライナと、王妃をエスコートする王。一人で不服そうな顔をして入るアルフレッドは会場の女子生徒からの視線が集中していた。


 会場のメインの席に王族が座ると音楽が止んだ。王女が立ち上がり、メインステージに上がると簡潔に開式の挨拶を終えた。続いて王が側に立ち、開式の挨拶を終えると学園長が乾杯の声を発した。


 華やかなワルツが演奏されると、ライオット皇子が王女の前にダンスを申し込む。それに続いて卒業生で婚約者のいる者がダンスを始めた。婚約手前の者たちは、二曲目以降から踊らなければならない。


 王子は席に着きながら、アリアがどこにいるのか探していた。なんとしてでもアリアとファーストダンスを踊らなければ。その思いがおかしなオーラとなって王子の周りにあふれていた。


 そのアリアは会場の隅で場違い感を出していた。13歳で入学現在14歳のアリア。現代日本で考えれば中学二年生。一方卒業生はほとんどが18歳。出席者はほぼ16歳以上。高校生の集まりに中学生が混ざり込んだようなもの。しかもエスコートしてくれる人も近くにいない。完全なアウエー。完璧なボッチ。居心地悪いったらありゃしない。


(私は今、生徒会のお仕事としてこの会場にいるのよ。会長に呼ばれたからと言って、こちらからあの席に向かうのは論外。おいしそうな匂いがするけれど、仕事中は食べたらダメだよね。トラブルが起きたらすぐに対処できるようにしておかないと。分かりやすいように『生徒会・警備中』ってプレート作ってきたし。手に持っているのも邪魔だから首から紐でかけられるようにしたから目立つよね)


 参加者枠の筈が警備要員として、しかもドレスなのに胸元と背中に警備中プレートをかけている残念極まりないコスチューム。まだ制服の方が良かったのではないか?


 そんなアリアを見つけた王子は、すぐに駆けつけてプレートを外しダンスに誘いたかったのだが、挨拶に訪れる貴族を無視するわけにもいかず席を立つわけにはいかない。


 小柄な少女が罰ゲームのように独りぽつんと立っているカオスな場所に近寄る者などいない。王子が使用人に指図する隙も生まれることがない。側に置いて最初のダンスをと目論んでいた王子にダンスの申し込みをするお嬢様方が群がる。


  もっとも、王子の目論見通りファーストダンスなど踊っていたら、お嬢様達のいじわる、嫌がらせを一身に受けなければいなかったアリア。もともといつも王子の隣で学園を歩く、学園祭で髪がサラサラだった、文学サークルの発表であらぬ疑いが、かなりの女生徒に共有されている。目立ちたくないのに目立ってしまっている、男爵令嬢一年生寮暮しという最弱なステータスの持ち主。

 生徒会というプレートのおかげで、陰口・悪口・冷笑程度で済んでいたのも事実。


 貴族特有の嫌味が耳に入っても、別の世界の出来事として処理できる底辺平民魂のアリア。お嬢様達の悪意など孤児院育ちのアリアには猫にじゃれられている程度。実害がなければ問題なし。嫌われていても問題などないとしか言えないのだった。


 王子の目論見はまたしても失敗したのだが、アリアはバイト代を稼ぐことができてまあまあ良い結果になったのだった。



 一方シャルドネゼミの面々は一つのテーブルを占領して食事を楽しんでいた。というか食事を楽しむ以外の楽しみを見出すことができなかったしテーブルも一つで十分な少数ゼミ。


 ナノはお嬢様達にダンスを申し込まれ、誘いに応えるとダンスをしながら劇団の宣伝をしまくっている。


 お祖父様はいろいろな意味での社交界の話題の人になっている。取引きのある領主たちと交流し自身の事情を話しながら、現領主と元妻の状況を探っている。


 イリアは場違い感が半端なく、ナズナにひたすら絡まれている。ポマールは相変わらずの社交性ゼロを発揮していた。


「先輩たち、踊らないのですか?」


 レイシアが聞くと、ポマールはぽつりと「無理」と言うだけ。ナズナは「さっき、ナノ様と踊ったからいいわ」とイリアにウザがらみを続けた。もっとも踊る相手がいないからなのだが。


「あなたこそ誰かと踊りませんの? レイシアさん」


 ナズナに聞かれたが、「相手がいません」と言うしかなかった。


「そうね。アルフレッド様もここには来ることができるような状況じゃなさそうだし」


「やめて下さい。ダンスの授業でアルフレッド様とばかり踊っていたから。目線が怖かったんですよ」


「そうでしたの?」


「他に誰も相手してくれなかっただけです」


「じゃあ、ポマールとでも踊りなさい。パーティーに出て一曲も踊らないなんて、マナー違反ですのよ」


 そんなマナーあったかな? そう思いながらシャルドネ先生に聞くと、「まあ、一曲も踊らないのは……そうねぇ、何しに来たのって思われるのは確かね」と暗黙にはあると指摘された。


「ほら、レイシアこういったパーティーとは無縁だったんでしょう。ポマールも一曲は私と踊っていたのですから。イリア先輩も一曲は踊らないと」


 ナズナの迫力に押され、ポマールとレイシアが踊ることになった。そして切りよくお嬢様達のダンスから解放されたナノがイリアと踊ることに。


 ポマールのダンスセンスは良くも悪くも平均そのもの。いや、やや落ちるくらいの腕前。侯爵の令息としてはぎりぎりの及第点。さしてレイシアは王子との戦闘的ダンスしか経験なし。お互いがかみ合わない歯車のように息が合わない。仕方なく初心者のようにゆったりと基本ステップを踏みながら左右に揺れるだけに落ち着いた。


 そう。二人は違う意味で目立ってしまった。水面下で思い切り足をばたつかせながらも優雅に見せる白鳥の群れの中で、飛び立てる気配もない迷い込んだアヒルのような二人のダンス。学園祭の文学サークルのおかげで広まった三角関係悪役令嬢の妄想被害者レイシア。その無様というしかないつたないダンス。ダンスの相性が悪かったために起こったレイシアの悪目立ち。


 ここに悪目立ちしたアリアとレイシア、それに変なオーラで悪目立ちしている王子が揃ってしまった。


 たまたまアリアとレイシアがいた場所が、王子を中心とした二等辺三角形になった。


 王子を狙う令嬢が文学サークルが広めた噂を知らないわけがない。

 王子を狙わない腐令嬢はむしろ広める側。


 知らないのは本人と関係者たちばかり。帝国に行っていたため学園の情報に疎かった。


(((なぜ? なぜこんな変な子たちが王子の趣味なの⁈)))


 トップグループのご令嬢たちはレイシアとアリアを完全に敵認定した。

 腐令嬢たちの養分は追加された。

 わずかにレイシアと王女の繋がり、特に石鹸関係を知っているご令嬢はかん口令が敷かれているためむやみやたらな行動に出ることができない。せめてこの二人が王女の目に入らないようにと王女を囲み、皇子ライオットとの婚約を讃え続けた。


 結局王子は、アリアやシャルドネゼミのグループに近付こうとしてもご令嬢たちに阻止され、パーティーが終わってもアリアにもレイシアにも一言も話すことさえできなかった。


 王女は始終ご機嫌でライオット皇子との幸せな時間を過ごした。


 アリアは仕事を終えた充実感と料理の残りをもって寮に帰った。参加できなかった寮生に配りたいといったら、料理長が持っていけるぎりぎりまで料理を詰めてくれた。戦利品の食料を持ち帰ったアリアは聖女様とほめ讃えられた。文学サークルの寮生三人に王子との様子を聞かれたが、警備していただけと報告するしかなかった。


 レイシアはパーティーに出席するより料理を作っている方が気楽なのにと思っていたが、ナズナ先輩の卒業パーティーを祝うことをミッションとしてして捉えていたので、お菓子や石鹸など様々なプレゼント攻撃ができたことで満足していた。


 様々な人々の様々な感情を揺らがせながらも、卒業生のためのパーティーは終了を迎えた。明日からは成人として歩み出す卒業生たちの最期の学園行事はこれで幕を閉じた。


 ここから王国の未来が大きく動くことになるのだが、それは次の章のお話。


  第三章(完)



 ………………あとがき………………


 難しかった!!! 書くの時間かかって申しわけありません! の、みちのあかりです。


 いつの間にかギフトを頂けるような身になっていますが、本当に読み続けている皆様に感謝しかないみちのあかりです!


 一話一話、書くのに時間がかかるようになってしまって、本当に申し訳ない!


 以前から言っていますが、本当に何万字も書けると思っていなくて始めた短編予定のレイシアでした。こんなに長く、読み続けていてもらえるとは想像もしていませんでした。


 ありがとうございます。


 やっと、オープニング回収できそうな感じになってきました。

 伏線回収や、増えすぎたキャラとその背景。

 暴走するヤツらに振り回されながらも軌道を修正する私の脳内。

 トラブルだらけの日常。


 それでもなんとかここまで書けました!


 誰か誉めて~!


 さあ、次から本気のオープニング回収です。回収してしまうと、凧の糸が切れた状態になります。


 自由とは制約の中にあるものです!

 制約が無くなったらどうなるのでしょうか。


 ここから波乱万丈な状況になるであろう貧乏奨学生レイシア!

 続きをお楽しみにお待ちください。



      みちのあかりでした!

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