シャルドネゼミの新体制

「そういうことでだな、シャルドネ先生がいない間このゼミの担当をするククリだ。よろしくお願いする」

「同じくルルよ。まあ、みんな私達に期待もしていないだろうけど。私達はレイシアのお守りみたいなものだから、自由にやってね」


 そう、彼らはあくまでレイシアのお守り。元々そのために教師になったのだから。


「私は就職も決まりましたし、単位も揃っていますので自由登校ですの。私の事は気にせずによろしいですわよ」


 ナズナがそう言うと、ポマールも


「僕はレイシア君のアイデアを実現可能にできるように研究しているだけですから、先生方にアドバイスなど求めておりません。シャルドネ先生からも助言など頂いておりませんから」


 と勝手に出来ると宣言されていた。


「あ~。俺たちにも君たちを指導できるなんて思っていない。トラブルやら面倒ごとが起こったら相談して欲しい。その程度の付き合いでいい。レイシアは物理的な厄介ごとは自分で解決できるだろうが、っつーか俺たちより強いからな。心配はしてはいないが、人間関係とかそういったトラブルがあったら報告してくれ。優秀なメイド二人が王女様について行ったんだろう? メイドの代わりはどうしているんだ?」


 サチとポエムは王女のボディーガードとして帝国まで付き合わされている。祖父のオズワルドも帝国に派遣されたので、お祖父様からメイドを借りることは出来なかった。


「まあ、私はドレスの着替えだけできればいいので、週二回ナノさんとニーナさんという私の店の従業員に来てもらっています。劇団員なのでドレスの着付けは慣れていますの」


「ナノ様は、私の就職先の劇団の主催者ですのよ」


「着替えながら新しいお店の相談などもできるので一石二鳥なんです」


 得意げに話すレイシアに、ルルが心配そうに聞いた。


「でも、レイシアのメイドのサチとポエムって、冒険者で組んでいたのよね。殺気が凄すぎて他の令嬢のメイドたちから恐れられていたっていうじゃない。そのおかげで嫌がらせとかなかったんでしょ。大丈夫なの? そのメイドたち戦闘力とかないんでしょ?」


「ニーナさんは可愛らしいので、いじめにあったみたいですね」

「ほら、やっぱり!」


「でも、『これがリアルな貴族の嫌がらせなのね。手ぬるいわ。でも彼女たちのドロドロした感情とちょっとした優越感や背徳感。なるほど、リアルって勉強になるわね。お芝居に生かせそう』っていじめの感情表現に対して研究を始めていますし、ナノさんは色気をあふれ出して、他のメイドさんから絶大な人気を集めているようですし。二人とも楽しんでいるみたいですよ」


 レイシアの周りって……。ルルはあきらめたようにため息を吐いた。


「まあ、問題ないならそれが一番だ。そうだなルル」

「そうね。私達はトラブルの解決しかできないから何かあったら報告だけは怠らないように。違和感みたいなものでもいいから報告して」

「で、月二回集まって何をするんだ? このゼミは」


 ナズナが胸を張っていった。


「お食事会ですわ。今日はアルフレッドさんが来ておりませんが、お昼にレイシアさんの料理を食べるのが一番の目的なのですよ」


 ゼミとは? 二人はそう思いながらも、


「レイシアの料理⁈」

「ああ、レイシアの料理か。美味いからな」

「懐かしいわね」


 と冒険者時代にクマデで食べたレイシアとの記憶を思い出した。


「ククリ先生とルル先生も食べます? シャルドネ先生は金貨一枚で食べていましたが」


「金貨一枚! 無理だな」

「私も無理! 食べたいけど無理よ!」


 もともと冒険者の金銭感覚。さらに講師の給料だけではそんな贅沢は出来ない。

 レイシアは二人の様子を見て言った。


「まあ、今日はアルフレッド様もいないし、シャルドネ先生とアルフレッド様の分、お二人に出しましょう。歓迎会です」


「いいのか?」

「いいの! 食べたい!」


 喜んでいる二人をほほ笑ましく見ながら、ナズナがレイシアに「じゃあ早いですが、お食事にしませんこと?」と提案し、食事を用意することにした。


 テーブルに白いクロスを掛け、料理を並べるだけ。あっという間に準備が終わり、祈りの言葉をささげ、ランチが始まった。


「美味い! いつもこんなことしているのか!」

「美味しい! レイシア! 最高よ!」


 先生二人が感動しながらガツガツと食べていると、バンとドアが開き王子が教室に駆け込んできた。


「レイシア、俺の飯は」


 アルフレッド王子が食事を取っているみんなの姿を見て、呆然としながら言った。


「あ、来たの? 忙しいそうだからゼミは休みだと思っていたのに」


 レイシアは「だから先生たちにあげたのに」と迷惑そうに答えた。


「そりゃ忙しいよ! 先生たちが抜け、姉がいなくて生徒会の負担が上がっているんだ。でもゼミは別だ! お前の料理をみすみす逃すと思っているのか?」


「ご飯ぐらい食堂で食べればいいじゃない。生徒会の人たちと食べているんでしょ」


「お前の飯は別なんだよ~!」


 レイシアは小さくため息をついて、しょうがないから王子の分の食事も用意した。


「これだ! これが食いたかったんだよ!」


「アルフレッド様。王室でも温かい料理出ますよね。私のレシピもだいぶ買ってもらったから普段から食べていると思うのですが」


「ああ、お前のおかげで美味しくなった。だがな、ここでみんなと食べる料理はまた別なんだ。分かるだろ!」


「分かりません。同じ料理ですよね。味は変わらないはずですが」


 ルルはナズナと目が合い、王子とレイシアを見て(ああ、そういうこと)と納得し、お互いに肩をすくめた。


「まあ、レイシア君。みんなで食べる料理は一人で食べるより美味しいということだろう。アルフレッド君も生徒会のメンバーでは、食事をしても仕事がちらついて気が休まらないのではないか? ここはみんな好き勝手しかしていないから。気を張らなくていいんじゃないだろうか」


 少しずれた感じでポマールが解説をすると、レイシアもそうかな? と納得をした。


 王子も、自分の深層にある本心を理解できないまま、ポマールの意見に納得をした感じだった。


「まあ、食事は気を使わなくていいヤツらとわいわい言いながら食べるのが一番だ。どんなに美味くても、気を遣う人と食うと味が分からなくなるからな。そんなもんだろ」


 ククリがそう言ってまとめると、食事が再開された。最高の笑顔で料理を頬張るアルフレッドを見て、レイシアは(まあいいか)と幸せな気分になった。

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