第三章 三年生後期 レイシア15~16歳 弟10歳

呼び出し

 学園祭も終わり、後期の授業が始まった。

 学園内では様々なうわさ話や憶測で生徒たちが盛り上がっていた。


 帝国皇子と王女のラブロマンス。

 王子と聖女のラブロマンス。

 

 この二つについては女生徒を中心にあることない事妄想が膨らんでいたのだが、男子生徒にとっても今後の身の置き方が変わる一大事。特に親へのこまめな報告が必要な事項。


 あのパーティー会場には親世代は出入り禁止だったのだから。


 そう、国の方向性すら変わりそうな重大報告が、学園内で最初に報告されたまま止まっているのだ。


 王女も王子も学園に出てこない状況で、噂と妄想だけが広がっていく。


 そんな状況で、レイシアはパーティーに参加していなかったためそんな大変な事になっているとも知らず、我関せずと商会の立ち上げのための準備をしていた。


 対照的にアリアは寮を始め各所で質問攻めにあっていた。何か答えるたびキャーキャーと叫ぶような声が上がる。嫉妬にまみれた視線も混ざる。


 貴族コースの令嬢たちは、自分たちがアリアをいじめた時の王子の態度を思い出し、王子の思い人がアリアであることを確定とした。身分的に正妻になれないのが分かっているため、それならと応援することに意見が一致した。格下のアリアに恩を売っていた方がメリットになると結論付けたのだ。


 しかしアリアは、自分が王子に気に入られているのは恋愛感情じゃなく、生徒会の後輩として仕事を仕込まれているだけだと感じていた。仕事量が三年生の先輩よりも多かったから。仕事を教えてくれるのは四年生の先輩と王子。三年生と四年生では段違いに仕事の量が違っていた。アリアも四年生の生徒と同じくらいの仕事量をこなしていた。


(まあ、あたしはバイト代貰っている組だからね)


 そう思って黙々と仕事をこなしていたため、王子のアプローチは全て生徒会の仕事の一環として行われているものだと思っていた。


 ゆえに、今のリアルな状況がよく分かっていない。思わせぶりな女子生徒の言い回しがアリアには伝わってこなかった。

 そして休み時間は女子生徒からの質問を避けるため、生徒会室で引きこもることにした。ここしばらく、王子は忙しそうで生徒会室にも顔を出せなかったから、アリアにとっては都合が良かったし気が楽だった。



 そんな状況の中、レイシアと祖父のオズワルド・オヤマーが王室に呼びだされた。


「……ということでだ。娘を帝国の学園へ二が呼ばれたわけはどのような関係があるのでしょうか」


「それだ。まずはこの案件に関しては、そなたの孫娘レイシアの存在が大きく関与している。レイシアの存在を帝国の皇子から隠すための意味も含まれている」


 オズワルドもレイシアも意味を計れずにいた。


「小型の魔道具を開発できる者。そんな存在が学生、しかも子爵程度の身分にいると知られてみろ。そなたたちが商会を打ち立てる前に知られたら引き抜き、いや攫われるかもしれない。そなたたちの地盤が弱すぎるのだ。名実ともに名を上げて地盤を固めてからでないと、レイシアという存在を帝国に知られるわけにはいかないのだよ」


 思った以上の状況を指摘された。


「なるほど。それで我々はいかがいたしたらよろしいのでしょうか」


「いくつかそなたたちにお願いがある。一つは娘のためにお前たちのメイド、サチとポエムを貸し出してほしい。女性であれだけの警備ができるものは残念ながら王室では用意できない。帝国での娘の安全のために頼む、貸して欲しい。特にサチは帝国の皇子に知られている。ついて行かなくては不自然になるのだ」


 レイシアとオズワルドは顔を見合わせ了承した。


「それからオズワルド、そなたも一緒に帝国に渡ってくれないか?」


「私が、ですか?」


「ああ。そなたたちが売り出す洗髪剤や石鹸。皇子が大層気にしている。それらを説明できる者が必要なのだ。あちらに持ちこめば必ず聞かれるだろう。その時、どれほど輸出できるか、どのように契約するか、そういった取り決めを行わなくてはならなくなるだろう。そのために誰か決定権のある者が必要になる。オズワルド、そなたが適任だと思うのだが」


「は。確かにその通りでございます。不肖ながら同行させて頂きます」


「よろしい。レイシア、娘が会いたがっている。この後面会するように。ではオズワルド、詳細を担当から聞くように以上だ」


「は!」


 そうして国王との謁見は終わり、それぞれが別室に別れ連れていかれた。



「レイシア、よく来てくれました。あなたと話をしたかったのよ」


 客間に入ってレイシアを見たとたん、王女は嬉しそうに声をかけた。


「お久ぶりでございます。キャロライナ様」


「ほんとよ。学園祭の開会式以来、あなたに会うのを控えていましたから。ずっとライオット皇子が側にいるものですから、あなたと会うのを控えなければいけませんでしたの。今は手続きのために学園に行っておりますから、やっと離れることができたのよ。今のうちに今後について打ち合わせをしないといけないわね」


 王女は自分が帝国に行っている間の基本方針をレイシアに伝えた。

 とにかく目立たない事。石鹸と洗髪剤に関しては、カミヤ商会を通して王室に定期的に運び入れる事。レイシアは関与しないように念を押した。

 王女とのつながりを隠すため、公・侯爵家のお茶会に出た事情を知っている者との接触もしないこと。これはあのお茶会のメンバーにも伝達済み。王女が帰るまでは無関係を装う事になった。

 

 王女と一緒に、オズワルド、サチ、ポエムが帝国に付き添う。他に学園から、シャルドネ先生とドンケル先生、他数名が行くことになった。シャルドネ先生は学園長の推薦。ドンケル先生は国のスパイとして。他にも王女の側近の生徒が数人。王室から執事やメイドが多数。国から大臣ほか官僚が十数名。かなりの数になるようだ。


「ただの留学ではないの。国を挙げての外交交渉なのよ。その中でもあなたの存在はトップシークレットなのよ。おそらく帝国のスパイ活動も国内で活発になると思う。学園外で目立つようなことは控えてね、レイシア」


 知らぬ間にトップシークレット扱いになっているレイシア。王女の言葉でやっと自分の置かれた状況を理解したのだった。

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