学園祭のパーティー 第二章(完)

 学園祭最終日。サークルやゼミの発表は続いているが、ダンスパーティーに関わる者たちは朝から忙しくそれどころでなかった。


 特に高位貴族が集まるパーティー会場。帝国の第三皇子のおかげで変更が多く、前日から仕込みに奔走していた。


「料理の方は何とかなりそうね。警備はいつもの訓練通りで大丈夫。私は王女様からの命令で目立っちゃいけないから、会場には近づかないでおきます。ドンケル先生、料理長、監督よろしくお願いします」


 レイシアはそう言うと片付けが終わったゼミの教室に向かった。


◇◇◇


 王女はひたすら帝国第三皇子の世話に追われていた。


「せっかくだから学園祭を見て回りたいんだけど」


 皇子がそう言うと、「そんな訳にはいきません。帝国の皇子をふらふらと歩かせる訳にはいけませんわ」と王宮に押し込め、王や大臣などと接見させながら時間を稼いだ。


「最終日の学生のためのダンスパーティーにご招待いたしますから、それで満足してください」


 せっかくレイシアとその功績を見せつけ、レイシアを自分の庇護下に置いていることを大々的に発表しようと思っていたのに。しばらくはレイシアと私の関係も秘密にしておかないと。

 王女は皇子のために変更になったことを苦々しく思いながら、笑顔を振り向けた。


「そうか。王国の学生がどんな勉強をしているのか興味があったんのだが。俺の事は放っておいても大丈夫だというのに」


 ――――大丈夫な訳があるか! あの時レイシアのメイドが取り押さえていなければ、護衛が剣で叩き切っていたかもしれないというのに。そうなったら外交上どうなるというのよ!


 言いたいけれど言えない言葉を飲み込んだ。


「迷惑をかけたことは謝ろう。まあ俺としてはこうして君を独り占め出来ているからそれはそれでありがたいのだけどね」

「んな!」


「君のステージでの挨拶を聞いて、君の姿を見て、ああ、俺の運命の人はこの人だって直感で分ったんだ」


 ――――私は分かりません! ええ、ぜんぜん! そんなこと言うからドキドキして困るじゃないですか!


 王女は赤くなった顔を隠すようにメイドの方に体の向きを変え、お茶を入れ替えるように指図した。


「ところで、君のお父様も含めて相談があるんだけど」


 皇子が赤くなっている王女の姿を見ながら、とんでもない提案をしてきた。


◇◇◇


 ポマールはイリアを、ナノはナズナをエスコートしてパーティー会場に入った。


「うう~、やっぱりこの雰囲気なれないや」


 イリアが顔をしかめながら辺りを見回した。


「まあ、取材だ。先入観を抜いて人間観察しなよ」


 ナノがイリアをたしなめた。ナズナはナノにエスコートをされながら、「ナノさんて女性ですよね」とたずねた。


「ああ。ナズナ、君もやがて男役をやってもらうからね。男性の観察を怠らないように」


 ポマールは普段は特に思ってもいない男らしさという、自分に足りないものを見つめなおさなければいけなくなった気がした。


 メイド役の生徒がワインに見立てたジュースを配り始めた。

 音楽ゼミの生徒たちで出来た楽団がファンファーレを鳴らすと、生徒会のメンバーが入場した。


 その後に、サチ・SP・を伴い、帝国の第三皇子ライオットが王女キャロライナをエスコートをして入場した。その後ろには皇子の側近スチュワートが控えている。

 一枚の絵画のような美男美女の登場に、会場内からため息が漏れた。


 ――――ほんとうは皇子じゃなくてレイシアがここにいたのに。


 王女は小さくため息をついた。


 最後に王子がSPと制服を着たアリアを引き連れ登場した。


 ――――まさかアリアが制服で待っているとは思わなかった。俺、ちゃんと言ったよな。「パーティーは俺の側にいてくれ」って。「はい」って言ってもらえたから分かっていたと思ったんだが。制服ではエスコートできないじゃないか。


 王子は何が悪かったのか分からなかった。ドレスを送ればよかったと後悔するのはだいぶ後になってから。本来だったら、姉をエスコートする予定だったのが、皇子の乱入で相手を見繕わなくてはいけなくなったのだ。だからアリアに頼んだはずだったのに。


 会場内で一人だけパートナー不在の王子。アリアは制服なのでスタッフ扱いだ。


 もっともアリアは、王子から命令されなければパーティーでは聖女として明かり役になっていただけだから、どのみちスタッフなのは同じだ。


 一人きりの王子の姿に、チャンスとばかり声をかけるチャンスを狙うお嬢様方。

 また、アリアを見ては妄想を膨らますお嬢様方。

 帝国皇子と王女の関係を心配するご子息方。


 様々な思惑にまみれ、ステージ上に視線が集まる。


「ほら、これだけで何本も芝居が書けそうじゃないか、イリア」

「ほんとうに」


「いいかいナズナ、警備人の動き、メイドの動き、演出をするボクはこういった細かい所も見ているんだ。こういう所を気に出来るヤツは使える役者。コロスやらせても目を引く演技ができるんだ」

「コロス?」

「ああ。群像のことだよ。役名なしでいろいろ説明したり歌ったりする役さ。そこで目立てれば本役にステップアップできるのさ。演劇はね、全ての事が勉強になるんだ。観察大事だよ」


 王子が乾杯の発声をした。

 全員がグラスを捧げ、飲み干した。


 楽団がワルツを演奏し、皇子が王女をエスコートしてホール中央に移動した。

 そのままダンスを踊ると、会場中から視線が集まった。


 一組、二組と高位な者からダンスを踊り始めると次々にダンスを踊るペアが出てきた。

 ファーストダンスを踊るのは王族と婚約者同士のみ。ここで踊らない者は、婚約をしていないフリーですと宣言している者となる。


 王子は王族であるにもかかわらず、そのダンスを踊る相手を決めていなかった。

 本当はアリアと踊りたかったのだが、制服のアリアは誘えない。


 仕方がないので、セカンドダンスで姉と踊った。

 踊りながら、アリアに整髪剤を渡したことの小言や、レイシアとの関係を小声で聞かれ続け、うんざりとしながらも美しく踊った。


 姉とのダンスが終わると、次々にダンスの申し込みが来た。断れない令嬢とは仕方なしに踊ることになったが、レイシアとの戦いのようなダンスを思い出し、ぬるいステップを適当にこなしてはつまらないなと思っていた。


 皇子は再度王女にダンスを申し込んだが、王女は丁寧に辞退をした。何度も踊ると貴族社会の中では皇子との仲を勘繰られるから。

 メイドに食事を用意させて、皇子を中心に生徒会のメンバーで食事をすることにした。


「いかがですか? 王国の料理は」

「学生が作ったのかい? 思った以上に素晴らしい。特にこのケチャップを使った、米の料理かい? 帝国の味を王国の味に昇華している。しかも片手で食べられるパーティー料理に仕立てているとは。以前はこのような食べ物はなかったはずだが」


「皇子が来たので新作を考えたそうですよ」

「この期間で? 凄いな。かがり火で調理したての肉を食べさせたり、スープが温かかったり。この数年でどれだけ変わったんだ? もしかして君の指示か?」

「ふふ? どうでしょうね」


 ――――やばいやばい。レイシアの事はばれないようにしないと。でも私の指示でもないし。


「その髪のきらめきにもどんな秘密が隠れているのか。君と君の周りにはどれほどの才能があふれているんだろう?」


「お褒め頂き光栄ですわ。さあ、お飲み物はいかがですか」


 心の中であせりまくりの王女。レイシアがいないのにレイシアの影響が強すぎる。


「あなたにはまだまだ秘密がありそうですね。ミステリアスな女性は惹かれてしまいますね」


「え? あ、皇子、他の方とダンスをしてはいかがでしょうか。ほら、皇子と踊りたがっているご令嬢がこちらを眺めておりますわよ」

「いや、俺は君がいればそれでいい」


 ――――うわ~! ちょっ、どうしたらいいの~! 距離感! 距離感が壊れていません⁈


 こういった押しに慣れていない王女のうぶすぎる反応を、皇子は内心で楽しんでいた。



 結局大きな事件も起こらず、レイシアが出てくることもなく、パーティーは終わりを迎えることとなった。王子が閉会の挨拶をしようとステージに上がると、隣に第三皇子が立った。


「本日はお招きありがとうございます。初日に皆さんを驚かせてしまったことをここで謝辞を述べさせていただく。今回、お忍びで王国を巡り、王女や王室の方々と話し、そしてこのパーティーで王国の素晴らしさを体感させて頂いた。よき指導者と人材豊富な王国はこれから素晴らしい発展をすることでしょう。そこで私はこの学園に留学できないかと相談いたしました。しかし、急な事で許可は頂けませんでした。残念でなりません」


 何を話すか分からない皇子の挨拶に聞き入っていた生徒たち。留学という皇子の言葉に期待したご令嬢からため息がもれた。


「開式の時、私はキャロライナ王女に婚姻の申し込みを致しました。今もその気持ちは治まるどころかこの胸を押しつぶしそうな程燃え上がっています」


「「「キャー」」」と悲鳴にも似た歓声が上がった。


「このままキャロライナ王女と別れるのは私としては不服でしかない。なにとぞ王女と学園生活をさせて欲しいと何度も頼んだ結果、王女が我が帝国の学園に短期間ではありますが留学して下さることになりました」


 様々な声であふれる会場内の生徒たち。警備の者達にも緊張が走る。

 SPが皇子を囲みながら下がらせた。

 アリアは、所詮他人事とステージの下で冷静にこの出来事を記録していた。

 王子は独りステージに残され、閉会を宣言するとそのままアリアを連れ会場を出ていった。


「これは、面白いネタが飛び込んできたね、イリア」

「こんな旬なものは小説で手早く出さないと!」

「来年の戯曲の元ネタになるといいね。来てよかっただろう」

「ほんとうに! 今すぐ帰る。書く!」

「まあ待ちな。これから出てくる噂話を聞いておくのは大切だよ。ナズナもちゃんと観察するんだよ」


 イリアとナノのグループは、斜め方向で楽しんでいた。



「姉さん! どういうこと!」


 王子は姉の控室に訪ねに行った。


「しょうがないじゃない。この学園に残られたらレイシアの事が知られてしまう。今知られてはいけないのは分かるでしょ! だったら私ごと帝国に帰ってもらった方がましなのよ。それに」


「それに?」


「帝国が私と婚姻させたいのが第二王子。そこに私が嫁いだらかなり帝国の状況が軍部よりになりそうなの。そこら辺りの状況を調べるためには、直接接触を持った方が良さそうなの。時間がないわ。第三皇子のライオット。何を考えているか読み切れないかなりの切れ者。敵に回すと厄介よ。彼と組めればいいのだけれど。どこまでが本心でどこまでが演技なのか。思惑が同じ方向なら手を結びたいわ。それを確認したいの」


 ――――卒業まで時間がない。レイシアの事を知られたくない。それに……。


「それに、あなたへも帝国から婚姻を打診されそうよ。そうなる前に相手を探しておくことね。身分や立場にあった相手をね。あと二年半しかないわ。婚約は卒業後だけど、相手選びは別だから。よく考えておきなさい。生徒会とレイシアを頼むわよ」


「着替えるから」、と言われ王子は退室した。外ではアリアがノートを抱え待っていた。最後まで付いて来たのは護衛を除けばアリア一人だった。


「生徒会室へいくぞ。残っている会員を集めて」


 アリアがパーティー会場に行くのを見てから、大きく息を吸うと、ゆっくりと生徒会室に向かった。




 ………………………………………………………………


 やっと夏休み終わりました🎉 疲れました。

 なぜか閑話で進めるという思い付きからこんなことに・・・

 なんで閑話で書こうと思ったんだろう。直感が恐ろしい・・・


 書ききったよ! 褒めて! 128000文字くらい書いたよ!本一冊分だよ!


 いや~、いろんな人書いたね。キャラも増えたし、予定外もいっぱい。

 帝国皇子かき回しやがって! 全然考えていない方向へ行っちまいました。


 さあ、いよいよオープニングが起こる第三章。行けるのでしょうか。誰が何を間違えたらあのシーンにいけるんだ?

 まあ、間違えたのは作者でしょうが・・・


 これからも応援よろしくお願いします!

 みちのあかりでした!


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