閑話 学園祭はパーティーでお終いです②

【ポマール】


「もう片付けをなさるのですの」


 ナズナ先輩が驚いたような声で聞いてきた。


「うん」

「ポマールは才能がありますのに。もっと多くの人に才能を認めてもらえるはずですわ」


 そう言われても……。


「疲れた……」

「昨日大勢来ましたからね。ポマール先輩は頑張りました」


 レイシア君、その通りだ。もういい。あれだけ頑張れば十分だよね。


「それに、終わるのはシャルドネ先生とキャロライナ様の意向ですし」

「先生と王女様の? なぜですの?」


 なんでだろう? とにかく終わりたいから従ったけど。

 レイシア君はなにか知ってそう。


「まあ、仕方ないですわ。ここの片付けなんてすぐに終わりますから、後は明日のパーティーまですることがありませんわね。明日はエスコートお願いしますわ、ポマール」


「え? 先輩たち二人でパーティーに参加するんですか?」


「お互い相手がいませんもの。レイシアはどうなさるの? アルフレッド様エスコート頼むのかしら」


 アルフレッド君は王子だぞ。


「アルフレッド様も今噂のど真ん中になっていますわよね。文学サークルで……」


「入るよ、レイシアいる?」


 ナズナ先輩の声をさえぎるように入ってきたのは


「イリア先輩!」

「あ、ナズナ。お早う。昨日見たよ」

「あああああ! 有難うございます~! どうでした!」

「よかったよ。相変わらず声通るよね」


 ナズナ先輩、イリア先輩が大好きだから。


「レイシア様、お早うございます」


 誰?


「あ、ナノさん。どうしたんですか?」

「ちょっとお願いがあってね」


 誰、このカッコいい男。ん、男? イリア先輩、彼氏できたのか?


「ああ、紹介するね。シャルドネゼミの出身で私の先輩。今はナノって名前で劇団を主宰しているの」


 先輩の先輩⁈ きちんと挨拶しないと!


「私、現在五年生のナズナ・ナナシュですわ。声楽家を目指しておりますの」

「ぼ、僕はポマール・ヴィーニュ……侯爵令息……です。……よろしくお願いします」


 なんとか言えた。

 ってレイシア君、君の番!


「ところでレイシア様。お願いがあるんだけど」

「なに?」


 レイシア様⁈ どういうこと?

 って、レイシア君じゃなくてナズナ先輩の前に? あ、手を取ったよ。


「ナズナ嬢。昨日のステージを見たよ。いい声だった。よければボクの劇団と執事喫茶に来ていただけないだろうか」


 そう言って、今度はレイシア君に


「ということです。これだけの逸材、執事喫茶で活躍してもらいたいと思っています」


「ナノさんがそう言うのなら。ナズナ先輩、私のお店で働きませんか?」


 レイシア君がナズナ先輩に事情を話した。って、えっ、は? 王女と公侯爵のご夫人とお嬢様相手? なにそれ。


「ポマール先輩も私の商会で働いてくれる約束をしているんですよ」

「あたしはナノ先輩の劇団の脚本書いているよ、ナズナ」


 僕? そういえば確かに僕もレイシア君の商会で商品開発をする予定だけど。

 就職でいいのか? いいんだよね。


 ナズナ先輩が「急なお話ですので、落ち着いてからお返事してもよろしいかしら」と応えて、この話は終わりになった。


「それはそうとポマール、明日の学祭パーティー相手決まっている?」

「え? 去年と同じでナズナ先輩のエスコートですよ、イリア先輩」


「それなんだけど、あたしと組んでくれないかな。ナズナはナノ先輩と組んで欲しいんだ」


「イリアがね、学園祭サボっていてパーティーに出たことがないって言うんだ。演劇ってパーティーシーンが多くてね、身をもって体験して欲しいんだよ。脚本書く時に大切だからさ。ほら、エスコートだと学生でなくても入れるだろ。君たちがステディな関係なら邪魔はしないけど」


「「それはないです」」


「ならお願いできるかな」


「私はよろしくてよ。イリア先輩のお役に立てるなら」

「ナズナ先輩がいいなら」


「じゃあ決まりだね。イリア先生、取材よろしく」

「先生はやめて~!」


 からかわれてはずがしがっているイリア先輩を中心にほほ笑ましいような笑いが広がった。


「レイシアはどうするのさ。王子と行くの?」

「まさか! イリアさん! 私は裏方です!」


「え? イリアの作品で、王子と聖女とレイシア様の三角関係がって考察がされていたんだけど」

「先輩! あれは酷かったね。あたしそんな風に……、いやもともとレイシアをモデルにはしたけど」


「レイシア様とは書いてなかったけど、あれ、見る人が見たらレイシア様だって思うよね。入学式の状況とか。制服少女と無欲の聖女との三角関係って、よく行間足していくよね。読者凄いよ」


「別の話だから! つながっていないから!」


「どういうことですか?」


 僕が聞くと、ナノさんが丁寧に教えてくれた。イリア先輩の小説がとんでもない拡大解釈をされているそうだ。


「そういえば、私も噂を聞きましたわ。開会式でいつもアルフレッド様の隣に控えている一年生の生徒会女子。王女様がサラサラの髪をしていたのと同じサラサラの髪だったって。王女様が使っていた石鹸と同じものを王子様から貰ったんじゃないかって。王子様の思い人だからじゃないかって言っていたわ」


 ナズナ先輩が楽屋での噂話を披露した。


「え? サラサラの髪って、レイシアがいつも使っているヤツ? あたしも使っているよ」

「っていいますか、レイシアさん、今日もサラサラの髪ですよね」


「私と弟が作った石鹸ですから。毎日お風呂で洗っています。ナズナ先輩も試しましたよね」


「ああ、あれですか。確かに素晴らしい石鹸でしたわ!」


 僕も試したことがある。確かに素晴らしい商品だった。


「ふむ。もしかして、昨日サラサラの髪をして王子様と一緒にいたのは、王女様と生徒会の聖女とゼミで一緒のレイシア様? なるほど! 確かに展示通りだね!」

「あたし、そんな風に書いてないよ~!」


「イリア、それで書いてみない? 来年のお芝居。王子と二人の令嬢を巡るコメディ!」


「いやだ~!」


「評判になりそうなのに!」


 あれ? きのうアルフレッド君にレイシア君のもとに行くように僕言ったよね。なんか大変な事になってなかったらいいんだけど。


 レイシア君は困ったように二人の先輩を見つめていた。




【チーノ】


 初日の朝から人がいっぱい来ています~!

 私達のサークル『子猫たちのおやつ』の出店ブースが賑わっています! 準備期間中に貼っていたポスターが評判を呼んでいたのですわ! 大成功です! みんな王子様の恋愛事情に興味津々なのです!


 あ、この展示はいかなる個人団体とも関係ありませんわ! たまたまそう見えるだけですのよ!


 私達は小説を読んで考察しているだけですし、たまたま王子様が女の子といた場所とセリフを書きとどめていただけです。もちろん王子様とは書いておりませんよ。


 それでも分かる人には分ってしまうものです。いえ、そう読んでしまう人が勝手にそう読んでしまうだけです。文学など、作者の手を離れたら読者の解釈次第なのですから。


 私達の展示も読者の解釈次第です。


 それにしても驚きました。開会式で王子の隣で秘書のように控えていたのが我らが聖女アリアさん。みんなが正装でめかしこんでいるのに、相変わらずの制服姿。それだけでも目立つのに、王女様と一緒のキラキラサラサラの髪なんですもの! もちろん王族のようにゴールドは入っていませんが、それでも一目で同じ石鹸を使っていることは女子には分かります。ご令嬢たちが差すような目線を投げかけています。


 さらに王女様への帝国皇子によるプロポーズ。情報が欲しい方々がここに詰めかけています!


 こんなに来るとは! 嬉しい悲鳴はすでに通り越してむしろ怖いです。ご令嬢様達の本気がぁぁあ!


 あ、桜の木の件、ご覧になられていたのですか? そうです! 入学式の!

 え? この告白シーンですか? これはレストランの帰りの出来事ですね。お店の名前? 『マイム』です。そうお米のおいしい。行かれた事あるのですか! いいですよね。雰囲気も値段も。もう少し安かったら……いいえ、クオリティに合った料金設定ですよね。はい。


 様々な方と話をしていたら、レイシア様がゼミの発表教室でお菓子を配っているとの情報をゲットしました! 行かなければ! ゼミの発表でしたらこちらから声をかけても失礼に当たりません。仲良くなれる最高のチャンスではないですか! お昼には早いですが、お昼休憩を取ります! 行ってくるね!


 そうして後をみんなに任せ、早めの休憩に入りました。



 ゼミの発表なのに何でこんなに並んでいますの! シャルドネゼミって人が来ないので有名なゼミだと伺っていたのですけど!


 仕方がありません。とにかく並びましょう。


 10分に一度10人程が入れ替わりです。まだ5~60人くらい前にいますわ。

 キャーという声が後ろから聞こえてきました。え? 王子様? 王子様もここのゼミなのですか? だから女の子が多い! なるほどです。お菓子だけではなかったのですね。


 入れ替わりに一人の生徒が出てきました。スタッフみたいです。休憩でしょうか?

 え? 教室の中王子様とレイシア様で仲良く説明なされているのでしょうか。そういえばアリアさんはいませんでしたよね。もしかして二人を合わせないようにしているのですか! 二股男はそういう所に気を使うとミッチ達が言っていました。


 気になる!


 早く中に入りたいです。でも列が流れません。



 さっきのスタッフの生徒が帰ってきました。今度はレイシア様がささっと出ていってしまいました。


 声をかけるチャンスがありません!


 王子様が廊下に並んでいる人に向かって、お菓子は終わりましたと告げました。

 お菓子目当ての人たちが「ええ~!」と残念がり列から去っていきます。

 それでも王子様目当てという人たちがまだ並んでいます。


 あ、王子様も休憩宣言です。颯爽と離れてしまいました。


 追いかけるのは失礼に当たります。皆さんあきらめて帰っていきました。

 何をやっていたのでしょうか、私。何もできないまま一時間近く無駄にしてしまいました。


 お腹もすいているのですが仕方がありません。せっかくですから回り道をして、入学式の桜の木を見てから帰りましょう。


 え? レイシア様と王子様が密会⁈ よく見るとレイシア様の髪ってサラサラしていませんこと? こげ茶なので気がつきませんでしたが、艶もあります!


 これってあのアリアさんが持っていた石鹸を使わないとこうはならないですよね。


 しかも二人で、仲良く? ケンカ? いえ、親密ゆえのじゃれ合いですね。仲良くお弁当を分け合って食べているではありませんか! 二人っきりで!


 人のほとんど来ないこんな場所で、二人っきりでじゃれ合っているレイシア様と王子様! 新発見ですわ! 該当シーンどこかにありましたっけ!


 早く見つけて追加のパネルを作らなくては! ああ、最終日のパーティーのお相手はどちらなのでしょうか? アリア? レイシア様? それとも両手に花で……。


 お手伝い、追加で入れませんでしょうか! 三年生が羨ましいです!

 まあ、明日レイシア様のゼミに行きましょう。そしてレイシア様に声をかけるのです!


 今は新情報を流すことが大切です! すぐに戻らないと!



 なぜ、もう閉まったのですか。レイシア様のゼミの発表。


 関係者以外入室禁止って……。私どなたかに呪われているのでしょうか!

 またしてもレイシア様とお話しするチャンスが無くなってしまいました。


 残念です~! お話したいだけですのに~!







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